永山卓矢の市況取材ノート

筆者のブログにはより詳しい解説がされているので、是非ご覧ください。
永山卓矢の「マスコミに触れない国際金融経済情勢の真実」
http://17894176.blog.fc2.com/

ポイント

  • 次期FRB議長への就任が決まったパウエル理事はFRBでは金融規制を担当していたように本来的には法律家であり、金融政策については素人同然の人物だ。
  • その背景には、米政府が国防費を大幅に増額していくにあたり、中長期的に緩やかなドル安路線を推進していくにあたりFRBを従属させる必要が出てきたことがある。
  • タカ派的なテイラー教授が最終選考にあたり有力候補に再浮上した背景には、中国を圧迫するためにドル高路線の推進を望んでいる欧州系財閥の意向があったようだ。
  • これに対し、米系財閥は中国を相手に「新冷戦」構造の構築に向けて動いているなかで、中国の有力な国有銀行・企業を買収したり中国でバブル崩壊が進む状況を望んでいない。

「素人」が次期FRB議長に就任する背景について考察する

国防費の大幅な増額のためにFRBを政府に従属させることが必要に

 ドナルド・トランプ米大統領は今月2日、次期FRB議長にジェローム・パウエル理事の昇格を発表した。いうまでもなく、FRB議長にどのような性格の人物が就任するかは今後の米国の金融政策を占う上で非常に大きな影響がある。特に今では米権力者層が共和党系新保守主義(ネオコン)派に主導権を与えて中国を相手に「新冷戦」構造を構築しようとしているなかで、それに合わせて金融政策や通貨政策を抜本的に変えようとしているので、よけいに次期FRB議長にどのような人物が就任するかは非常に重要である。

 今回の次期FRB議長の人事を巡り、最終的にはハト派とされるパウエル理事をはじめ3人が最終候補に残ったとされる。このうち、トランプ大統領はジャネット・イエレン現議長を「褒めちぎって」いたが、所詮それは「外交辞令」に過ぎず、最初からバラク・オバマ前政権が選んだ人事や民主党に近い人脈については排除するつもりでいたようだ。残る2候補のうち、トランプ大統領はタカ派的なジョン・テイラー・スタンフォード大学教授ではなく、ハト派的とされるパウエル理事を選んだことになる。

 ただし、このパウエル理事はハト派的とされているが、ウォール街出身とはいえ本職は法律家であり、本当は金融政策については「素人」同然だ。これまで、FRB議長にはエコノミスト系が就任することが多く、法律家が就くのは稀有なケースだ。FRBには銀行の行動を監視し規制をかけるといった仕事もあり、パウエル理事はそうした分野の専門家だ。しかし、基軸通貨国の中央銀行としてのFRBの政策で最も重要なのが金融政策なのだから、歴代のFRB議長には圧倒的にエコノミスト系が多いのは当然である。

 これまで、パウエル理事は時折り、金融政策姿勢や経済情勢について発言することもあったが、それは単にスタンレー・フィッシャー副議長(当時)が主導権を握っていたFRB執行部の意向に迎合していたに過ぎない。同理事はハト派的とされているが、本当は金融政策についてはよく理解していない節がある。実際、自らの主義、主張を前面に出すことなく、単に展開の主導権を握っている執行部や主流派、権力者層の意向に忠実に従って発言し行動していたような気がしてならない。

 もっとも、だとすればトランプ政権の意向に沿った金融政策運営が展開されやすくなるので、ハト派的という評価は的を射ていることになる。ただし、それは中央銀行の政治からの独立性が脅かされることを意味する。まさに60年代後半から70年代前半にかけて、リチャード・ニクソン政権の「イエスマン」になってドル紙幣や米国債を「ばら撒いて」しまい、基軸通貨としてのドルの信用が損なわれて世界経済のスタグフレーション化が引き起こされ、「FRB史上最も無能な議長」との烙印を押された当時のアーサー・バーンズ議長の二の舞を演じることになりかねない。

 そのあたりは、米権力者層が共和党系ネオコン派を後押しし、トランプ政権に中国を敵視して「新冷戦」構造を構築させようとしているなかで、国防費を大幅に増額していくにあたり、その円滑なファイナンスを必要としている事情がある。そこで最も重要なのが、忠実な「属国」にして群を抜く世界最大の貯蓄超過国である日本からの潤沢な資金流入を維持することであり、トランプ大統領が安倍晋三首相と日米両国で2回も「ゴルフ懇親会」を開催した大きな一因がそこにある。

 ただ米国側でも、日本側が大増発されていく米国債を引き受けていけばファイナンスに支障を来さなくても、対外的な公的債務残高が積み上がってしまう。そこでその返済負担を実質的に軽減させるために、ドル不安・危機を引き起こさない程度に緩やかにドル安誘導をしていくことが必要になる。そのため、政府が中央銀行であるFRBとの間で「政策合意(アコード)」を結ぶことが、よりはっきり言えばFRBを政府に従属させることが必要になってきたわけだ。

 米ロックフェラー財閥の意向を受けて主要国・地域の中央銀行の金融政策を実質的に統轄、管理しているグループ・オブ・サーティ(G30)の幹部としてFRB執行部に派遣されてその主導権を握り、金融政策の正常化路線を推進していたフィッシャー前副議長が退任することになった根本的な理由がそこにある。FRBで議長、副議長に次いで3番目の地位にあるニューヨーク連銀のウィリアム・ダドリー総裁が来年半ばに退任すると表明したのも、基本的には同じ理由によるものだ。

タカ派的なテイラー教授が最終選考で再浮上したワケ

 ところで、今回の次期FRB議長の決定を巡り、いったん有力候補から外れたにもかかわらず、最終選考にあたりどうしてテイラー教授が再び浮上したのかについて触れておく。同教授は政策金利の適正値をインフレ率や実質GDP成長率といったマクロ経済変数を用いて算出する理論数式を構築したことで知られている。このモデルに従えば、現在の米国では政策金利であるFF金利を3%程度にまで引き上げる必要があり、それゆえに同教授はタカ派的とされているものだ。

 このテイラー教授は00年代前半にジョージ・W・ブッシュ政権下で財務次官に就任していたことから共和党員とされ、それゆえに今回、次期FRB議長の人事を巡り有力候補に挙げられた。しかし、本当はその経済理論はフィッシャー前副議長と同じ新ケインズ主義であり、共和党系ネオコン派の理念に通じ、表向き市場重視の姿勢を標榜している合理的期待形成学派と対立してきたものだ。以前、同教授が次期FRB議長の有力候補とされたのはフィッシャー前副議長の意向によるところが大きく、その前副議長の退任が決まるにつれて有力候補から外れていったものだ。

 そのテイラー教授が土壇場になって最終候補に再浮上した背景としては、一般的な報道では、議会共和党では保守的な議員の間で健全財政や健全な金融政策、中央銀行の資産の健全性を求める風潮が強く、その意向を受けたマイク・ペンス副大統領が教授を推していたという。ただし、副大統領は本当はカトリック教徒でありながら、キリスト教原理主義(エバンジェリカル)を介して共和党系ネオコン派とつながっているのだが、この時には盟友であるポール・ライアン下院議長の要請を受けて、議会の意向を代弁するために表向き教授を支持する姿勢を見せたと思われる。

 これに対し、ゴールドマン・サックス出身のスティーブン・ムニューシン財務長官が金融市場に悪影響を与えないように、ハト派的なパウエル理事の昇格を推挙したとされている。しかし、それはあくまでも表面的な見方でしかない。確かに共和党保守派の議員はタカ派的な金融政策を好む傾向があるが、そうした一部の勢力がトランプ政権の政策立案や人事に大きな影響を及ぼしているとは思えない。これまで、トランプ政権は医療保険制度改革法(オバマケア)の改正や税制改革を巡り、こうした共和党内の保守派議員の抵抗に遭って所期の目的を達成できずにきたが、それでも今回のFRB議長の人事についてはそうした勢力に振り回されることなく、大統領自身の判断で決めることができるものだ。

 結論から先に言えば、テイラー教授を強力に推したのは、表向き共和党保守派の議員を押し立てながら、実際には欧州ロスチャイルド財閥だったようだ。そこに、中国やロシアに対する外交政策を巡り、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官を頂点とする国務省官僚群や中央情報局(CIA)の勢力との提携関係が途切れた外交問題評議会(CFR)の勢力も同調していた可能性がある。

欧米財閥の戦略上の相違とFRBの金融政策との関係

 この欧州系財閥は当初、中国の習近平国家主席が唱えている広域経済圏構想「一帯一路」に相乗りして巨大なユーラシア経済圏の構築を目指したが、中国が天文学的な債務を抱えている実態が明らかになるにつれていったんそれを諦めた。そこで中国に対して国際会計基準の導入や資本取引の自由化を受け入れさせ、国有銀行や代表的な国有企業を次々に買収していく路線に転じた。

 そこでは、FRBがバランスシートの縮小や利上げを推進していくことで中国から米国に資金還流が進めば、欧州系財閥としては絶対的に有利な状況がもたらされる。中国では代表的な国有企業を含む多くの企業が莫大な対外債務を抱えているなかで、人民元安が進むとその債務の実質的な返済負担が激増してしまい、バブル崩壊に拍車がかかるからだ。人民元に売り圧力が強まるたびに人民銀行が必死に元買い・ドル売り介入により買い支えてきたが、外貨準備が払底すると買い支える原資が枯渇してしまい、もはやそれができなくなる。欧州系財閥としては、タカ派的なテイラー教授が次期FRB議長に就任するのが望ましいわけだ。

 これに対し、米系財閥は中国でバブル崩壊が進んで強権的な性格が強い習近平体制が動揺すると、「新冷戦」構造が構築できなくなるのでそうした状況になることを望んでいない。実際、フィッシャー副議長(当時)主導のFRBが利上げ推進路線を打ち出したことで信用不安が高まったのを受けて、昨年2月26~27日に中国・上海で開催された主要20ヵ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の際には、水面下で人民元安を防ぐために円高誘導をしていくことで合意されたものだ。さらにその後、9月4~5日に中国・杭州でG20首脳会議(サミット)が開催された際には、水面下で人民元相場に強力な売り圧力が強まり、中国の当局がどうしても米国債を大量に売却しなければならなくなる際に備えて、日銀による外債購入まで真剣に議論されたほどである。

 ただし、中長期的に米国の通貨政策が緩やかなドル安志向に、またそれにより金融政策もハト派的にシフトしていくとしても、FRB議長にパウエル理事が就任してすぐに金融政策姿勢を抜本的に変えられるわけがない。特に最近では出遅れ感が強かった日本株を中心に世界的に株価が高騰していたなかでは、よけいに当面は従来の金融政策の正常化路線を維持して従来の緩やかな利上げ推進路線を継続する必要がある。FRBは金融政策をコアインフレ率を対象に2%に達するメドが立つことを表向きの目標として掲げているが、実際には株式や住宅といった資産価格の動向をより注視しているからだ。FRBが12月に利上げを決めるのは既定路線だが、市場では現時点では年明け以降、おおむね6月までに1回分もの利上げを織り込んだ状態にある。ただ、多くのFOMC委員は3月にも利上げを決める意向を示しているので、それを織り込む段階になればドル高がもう一段進む展開になっておかしくない。来春にかけて、ドル=円相場は1ドル=120円近い水準までは上昇していく余地があるのではないか。

(2017年11月16日、記)

ポイント

  • 米国では中国に国際会計基準や資本取引の自由化を求めていた欧州系財閥から、同国を「悪の帝国」に仕立てて「新冷戦」構造の構築を目指す米系財閥に主導権が移行した。
  • 米系財閥主導の米国はこれから国防費を大幅に増額するにあたり、既存の公的債務残高を実質的に軽減させるため、中長期的には緩やかなドル安路線に舵を切ろうとしている。
  • ただし、FRBが急激に金融政策を転換できるわけがなく、世界的に株価が高騰していることもあり、来年前半までは緩やかな利上げ路線が継続される可能性が高そうだ。
  • 米国は日銀だけには現行の超大規模な金融緩和策を続けることを容認しているが、消費増税を実施するにあたり景気への配慮から一段と強力な追加緩和策が容認されたようだ。
  • 欧州では米国で米系財閥が主導権を握ったことで再び極右勢力が盛り返して地政学的リスクが再燃しており、当面はFRBの金融政策姿勢もあいまってユーロ安を助長しそうだ。

米国で「新冷戦」構造の構築を目指す勢力が主導権を握った影響を考察する

欧州系財閥に代わり米系財閥が主導権を握る

 今後の外国為替市場の動きを展望するにあたり、オーソドックスな観点でのFRBやECB、日銀といった主要な中央銀行の金融政策姿勢を占うといったことではなく、そうした政策姿勢に影響を及ぼす米国を中心とする主要国の政治的、地政学的な側面から見ると、以下のようなことが指摘できる。

 最近の米国の政治的な観点から顕著な変化が見られたのが、ドナルド・トランプ政権の主導権が欧州ロスチャイルド財閥から米ロックフェラー財閥に代わったことだ。8月7日に「オルトライト」の白人至上主義者であるスティーブン・バノン首席戦略官・上級顧問(当時)が辞表を提出し(正式に解任されたのは18日)、翌8日にトランプ大統領が「炎と怒り」発言をしたあたりから、米国と北朝鮮との関係が険悪化して急激に軍事的な緊張が高まるなど、そうした影響が顕著に表れたものだ。

 欧州系財閥がトランプ政権の保護主義的な姿勢を利用して通商問題で中国に圧力をかけ、国際会計基準の導入や資本取引の自由化を受け入れさせることで国有銀行や代表的な国有企業を次々に買収していくことを目論んでいるのに対し、米系財閥は中国を「悪の帝国」に仕立てて「新冷戦」構造に持ち込むことで、巨大な軍需を創出することで世界経済を牽引していこうとしている。そこで裏側で取り込んだ中国の習近平国家主席に終身的な専制権力体制を確立させることで、国内的には強権的な恐怖支配を強めさせる一方で、対外的には「中華民族(帝国)の復興」を標榜させて積極的に膨張路線を推進させようとしている。

 トランプ政権が米系財閥に後押しされた親イスラエル右派的な共和党系新保守主義(ネオコン)派主導の路線を打ち出していけば、既に北朝鮮との対立が極端に高まっているが、いずれ中東ではイスラエルやスンニ派の盟主であるサウジアラビアを後押しして、シーア派の大国であるイランと軍事的に衝突せざるを得ない。そして究極的にはロシアと提携して中国に対して軍事的な包囲網を形成していくことになり、米中両大国の間で軍拡競争が激化していくだろう。それにより世界経済は、90年代に確立された多国籍企業主導によるグローバル生産体制があまり機能しなくなっているなかで、新たな成長軌道に乗っていくことになるだろう。

中長期的には緩やかなドル安路線に転換へ

 ここでは今後の為替相場に影響を与える要因に絞って考察していくことにする。中長期的な観点で指摘できるのは、前回の当欄でも述べたように、これから国防費を大幅に増額していくのを控えて、米国の通貨政策が緩やかなドル安路線に舵を切っていくということだ。それは、主要国・地域の中央銀行の金融政策を実質的に統轄しているとされるグループ・オブ・サーティ(G30)の最高幹部の一員としてFRBに送り込まれ、執行部で主導権を握って緩やかな利上げをはじめとする金融政策の正常化路線を推進してきたスタンレー・フィッシャー副議長が辞表を提出したことに端的に表れている。

 米国は世界でも群を抜く巨大な債務国だが、時折り政府と議会との間で債務上限問題が高まるたびに注目されるように、公的部門に限っても累積債務残高が公表されているだけで20兆ドル程度に達している。ただ、これには地方政府の債務が十分に含まれておらず、また将来的に見込まれる高齢者医療保険(メディケア)や低所得者向け医療保険(メディケイド)、社会保障などの将来的に支出が見込まれる分も含めると、実質的な公的債務残高は65兆ドルにも達するとの指摘が出ているほどだ。そこにさらに国防費を増額していくと、それによる米国債の増発分のかなりの部分は日本勢に引き受けさせるとしても、公的債務残高自体は一段と膨れ上がることになる。そうした債務を米国が大きな「痛み」を負うことなく抜本的に軽減していくには、これまでにもそうしてきたようにドル安に誘導していくことだ。

 かつて、米国ではロナルド・レーガン政権期の80年代にはレーガノミックスにより財政収支と経常収支の「双子の赤字」が膨れ上がったことで、85年9月のプラザ合意により各国が協調してドル安に誘導していくことが決まると、外為市場ではドル不安が強まったものだ。そこで87年2月のルーブル合意により各国が協調してドル防衛に乗り出すことが謳われたが、ドイツ連銀(ブンデスバンク)がそれからはずれて引き締め路線に転じると、同年10月19日にはニューヨーク市場発の世界的な株価大暴落(ブラックマンデー)が引き起こされてしまった。その結果、日銀は超金融緩和策を長期的に続けざるを得なくなり、90年にかけて日本経済はバブル化が進行してしまった。そうした当時の苦い経験を教訓にして、今回は「双子の赤字」が極端に膨れ上がる前に緩やかにドル安に誘導していくことで、既存の債務を実質的に軽減させるにあたりソフトランディングを図ろうというものだ。

 そこで米国は、資金ファイナンスに支障を来さないようにするために日銀には現行の超大規模な資産買い入れ措置を伴う量的・質的緩和策を続けることを容認しているが、他の主要国・地域の中央銀行には金融政策の正常化を進めるように要請している。例えばECBに対しては、もとよりイタリア出身のドラギ総裁はじめ執行部が財政・経済状態が脆弱な南欧諸国の出身者で占められているだけに緩和重視の姿勢であるのに対し、ドイツ連銀やそれを後押ししているドイツ政府は一貫してそうした路線に反対してきた。そうしたなかで、バラク・オバマ前政権の米国はドイツ政府の緊縮財政政策を批判しながら、そうしたECB執行部のハト派的な姿勢を後押ししてきた。しかし現在のトランプ政権に代わると、発足した当初から保護主義的な姿勢からユーロ安・ドル高をもたらしてきたECB執行部主導の金融政策を批判してきたが、米系財閥が主導権を握り緩やかなドル安路線に転じると、主要中央銀行の間でも年明け以降の量的緩和策の縮小(テーパリング)をはじめ、金融政策の正常化に向かうように圧力が強まっている。

FRBは来年前半までは緩やかな利上げ路線を継続か

 ただし、こうしたことはあくまでも中長期的な観点での考察であり、FRBがこれまでの緩やかな利上げ路線を急激に転換できるわけがないのはいうまでもないことだ。特に足元では米国で税制改革期待が高まっているのに加え、経済指標も物価関連を除いて堅調な内容のものが相次いで発表されていることから世界的に株価が高騰しているだけに、なおさら従来の緩やかな利上げ路線をすぐに転換できる状況ではない。FRBは金融政策の目標として表向き2%のインフレ目標値を提唱しているが、本当は住宅や株式といった資産価格の動向を注視している。資産価格が高騰すると金融機関のバランスシートが膨れ上がり、それが崩壊すると不良債権を抱え込んで苦しい状態に陥ってしまうからだ。

 さしあたり、FRBが12月に追加利上げを決めるのは既定路線だが、年明け以降、どの程度までそれを続けていくかが焦点になる。FOMC委員の多くは来年も今年と同様に3回もの利上げを決める姿勢を見せているが、市場では今のところまったくできないか、あっても1回程度にとどまるとの見方が有力だ。カギを握るのはいうまでもなく株価の動向であり、最近、上昇に弾みがついていることや米国での税制改革期待で押し上げられている分もかなりあることから、年内に応分の調整局面を迎えておかしくない。しかし、米トランプ政権と良好な関係にあり、米系財閥と極めて親しい関係にあるサウジの国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)を控えていることも考えると、来夏頃までは株高傾向が続くのではないか。だとすれば年明け以降、順当にいけばFRBは3月、6月と利上げを2回決めていく可能性が高いのではないか。おそらく、来年も秋になるとミニ・バブル的に膨れ上がった株式バブルが崩壊し、信用収縮から米国への資金還流が促進されて新興国通貨危機が起こりやすくなるのではないか。

日銀に強力な追加緩和策に動くことが認められる

 ところで、米系財閥が主導権を握ったことは、当然のことながら日本にも影響を及ぼしている。米系財閥は中国を相手に「新冷戦」構造に持ち込むにあたり、日本に軍事力の強化を求めている。かつて、ソ連を相手にした旧冷戦時代には、米国は日本を「核の傘」で守ることで再軍備や核兵器の保有を認めず、完全に「属国」統治してきた。しかし、現在では以前に比べると国力が衰えているため、米国は日本に対して応分の軍事的な負担を求めている。自衛隊を国軍に昇格させて積極的に海外に派遣し、戦闘にも参加できるようになることや、防衛費を他の主要先進国並みに対GDP比2%程度にまで高めるように求めている。さらに日本に核武装をさせることで、中国を牽制する役割を担うことも求めている。北朝鮮が核保有の既成事実化を「演出」しているのも、究極的には日本が核兵器を保有する名分をもたらすためだ。

 無論、そのためには第9条の条文が挿入されている平和憲法を改正する必要があり、またそれも含めて、右翼的な性格が強い安倍晋三政権を今後も支援していく必要がある。22日に衆院総選挙を実施するにあたり、安倍首相は北朝鮮問題と並んで消費増税による税収増加分を教育無償化に回すにあたり、その使途をめぐり国民の審判に委ねることを解散総選挙の名分にしていたものだ。もとより安倍首相は消費増税に消極的だったにもかかわらず、今ではリーマン・ショック級の経済危機に見舞われない限り、一度延期された10%への税率の引き上げを予定通り19年10月に実施すると表明しているのは、防衛費を対GDP比2%程度に増額していくにあたり、その財源を確保しておくように米国側から指示されているからだという。

 ただ、14年4月に消費税率を現行の8%に引き上げた際には、日本経済は家計の消費マインドが悪化して景気が落ち込んだものだ。そこで米権力者層は税率を10%に引き上げるにあたり、既に日銀には現行の超大規模な金融緩和策をそのまま続けることを容認しているが、ヘリコプターマネー(ヘリマネ)政策や外債購入に踏み切るなど、さらなる追加緩和策に動くことも認めることになったようだ。いうまでもなく、その背景には日本は公的債務残高を民間の貯蓄残高が大きく上回る世界でも群を抜く貯蓄超過国であり、さらに強力なマネタイゼーション政策を推進しても日本円や日本国債の信用が傷つく恐れがないことを、米権力者層や政策当局がしっかり認識していることがあるわけだ。

 おそらく、日銀がさらなる強力な追加緩和策に動くのは、足元の株価高騰がピークを打って反落していき、米国への資金還流が進むことで新興国通貨不安が起こりやすくなる来年秋以降になると思われる。いずれにせよ、極端に信用不安が強まる状況にならない限り、こうした日銀の政策姿勢を背景に中期的に円高が進む環境にはないことは間違いあるまい。

欧州では極右勢力が再び盛り返し地政学的リスクが高まる

 最後に米権力者層が主導権を握った影響について、それが欧州に及ぼす影響について考察する。米国で今年1月にトランプ政権が発足してしばらくは欧州系財閥が主導権を握ったことで、欧州では反EU、反移民政策を掲げている極右勢力が退潮し、親EU的な勢力が巻き返す現象が見られた。4月23日に1回目の投票が、5月7日に決選投票が行われたフランスの大統領選挙でエマニュエル・マクロン現大統領が当選したのは、まさにそうした時期に遭遇したものだ。ところがその後、米国で米系財閥に後押しされている親イスラエル右派的な共和党系ネオコン派が主導権を握ると、欧州でもロシアの支援を受けた極右勢力が盛り返している。9月24日のドイツの総選挙では第1党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、第2党の社会民主党(SPD)がともに議席数を大幅に減らしたのに対し、極右政党である「ドイツのための選択肢(AfD)」が第3党に躍進した。10月1日には独立を問う住民投票が強行されるなど、スペインではカタルーニャ州の独立問題も激しく高まっている。ごく最近では15日にオーストリアの総選挙でも、移民の受け入れに消極的な中道右派の国民党が第1党になり、反EU路線を標榜している極右政党の自由党も第2党に躍進した一方で、移民の受け入れに寛容的で親EU的な中道左派の社会民主党は第3党に後退した。

 いうまでもなく、こうした欧州での地政学的リスクの高まりはユーロ安をもたらす要因になる。年明け以降も年前半はFRBの利上げが続くとすれば、そこに地政学的リスクも加わることでユーロ・ドル相場を一段と押し下げることになりそうだ。ただ、米系財閥が主導権を握った米国が緩やかなドルや安路線に舵を切ったとすれば、来年後半以降もそうした傾向が続くとはいえないだろう。

(2017年10月19日、記)

ポイント

  • FRBの金融政策の本当の目的は資産価格の高騰の抑制や新興国通貨不安を引き起こすこと、米国の対外債務の削減、戦争を引き起こすことにある。
  • 北朝鮮問題は欧州系財閥にとっては通商問題で圧力を強めるための手段に過ぎないのに対し、米系財閥にとっては新冷戦構造の構築に向けた戦略的な観点から対処すべき問題だ。
  • 主導権を握った米系財閥は国防費を増額するにあたり公的債務残高を軽減するためにドル安誘導政策を臨んでおり、日銀を除く主要中央銀行に超金融緩和策の修正を求めている。
  • 今回のFOMCでは従来の利上げ推進姿勢が踏襲されたが、イエレン議長の会見では将来的に政策姿勢を転換する余地を残す内容になった。

米系財閥が主導権を握りドル安政策に転換か

FRBの金融政策の本質

 今月6日にスタンレー・フィッシャーFRB副議長が辞表を提出した。金融規制の解除をめぐる問題で自由化推進路線を推進しているドナルド・トランプ政権と政策姿勢が合わなかったことが指摘されている。しかし、フィッシャー副議長は主要国・地域の中央銀行の金融政策を実質的に統括、管理しているグループ・オブ・サーティ(G30)の最高幹部の一員として、FRB執行部に送り込まれてきた経緯がある。そうした重要な人物が辞任することになったのは、米国の権力者層の権力基盤に変化や動揺があったか、その通貨政策が変更になった可能性を考えないわけにいかない。

 そもそも、どうしてFRB執行部がバランスシートの縮小や年3回のペースでの利上げにより金融政策の正常化を推進しようとしていたのかというと、コア個人消費支出(PCE)を対象とするインフレ率の2%目標の達成は単なる表面的な議論に過ぎない。その本当の「隠された」目的は以下の四つの理由によるものだ。

  1. 住宅や株式といった資産価格が上がり過ぎると金融機関のバランスシートの肥大化が進み、市況が崩落するとそれが毀損されて大きな打撃を受けるので、その高騰を抑制すること。
  2. 対米資本還流を促進させることで新興国通貨不安を引き起こし、中国はじめ新興大国に打撃を与えることで米国優位の状況を現出すること。
  3. 新興国の公的機関や投資家にドル建て資産に逃避させていき、その後米株価を売り崩したり、ドル安誘導していくことで米国の対外債務を削減すること。
  4. 米国経済を景気後退(リセッション)に陥らせることで景気対策を目的に戦争を引き起こしやすい環境を醸成し、軍需産業を活性化させるとともに、米国が世界覇権を維持するうえで不可欠な世界最強の軍事力を保持し続けること。

米欧巨大財閥の対北朝鮮政策

 ただ、そうした重要な使命を帯びているはずのFRB執行部が金融政策を変更することになったとしたら、それはどうしてなのかというと、カギを握るのはトランプ政権の北朝鮮政策がここにきて急激に強硬な姿勢になったことだ。トランプ政権は成立当初から対北朝鮮政策をめぐり、バラク・オバマ前政権が推進した「戦略的忍耐」政策を否定し、軍事攻撃も辞さない強硬な姿勢を示してきた。しかし、8月8日にトランプ大統領が「炎と怒り」発言をし、それに対抗して翌9日に北朝鮮が米領グアム島沖にミサイル4発を撃ち込む計画を公表して以来、両国間の対立、緊張状態が急速に激化したものだ。

 この北朝鮮問題を考えるうえで最も押さえなければならないのは、この問題は多分に「ヤラセ」、「自作自演」としての性格が強いことだ。北朝鮮で「先軍政治」により主導権を握っている朝鮮人民軍は親イスラエル的な共和党系新保守主義(ネオコン)派に操られているが、この系列が米トランプ政権でも主導権を握っているからだ。北朝鮮が頻繁にミサイル発射や核実験を行い、また実際に米国が軍事攻撃に踏み切れば、どの大国が最も困ることになるかを考えれば容易に理解できることだ。中国としては北朝鮮の現体制を絶対に崩壊させるわけにいかないが、同国が核保有国として国際的に認められることで周辺の韓国や台湾、そしてなにより日本が核武装する名分を与えることも防がなければならないからだ。

 当初、トランプ政権では欧州ロスチャイルド財閥が主導権を握った。この欧州系財閥は以前には、中国の習近平国家主席が唱えている「一帯一路」構想に相乗りし、同国が保有している豊富な外貨準備を利用して中央アジアを中心に新興国のインフラ建設事業を請け負っていき、ユーラシア大陸に巨大な経済圏を構築しようとした。しかし、中国が簿外で天文学的な債務を抱えている実態が明らかになってきたことでひとまずそれを諦め、米系財閥と提携してトランプ政権を成立させた。それによりこの政権の「アメリカ・ファースト(米国第一主義)」による保護主義的な性格を利用して通商問題で圧力を強め、国際会計基準の導入や資本取引の自由化を受け入れさせようとしている。それにより、将来的に国有銀行や代表的な国有企業を次々に買収していき、中国そのものを「乗っ取った」うえでユーラシア経済圏の構築に向かおうというわけだ。

 そこでは、北朝鮮問題は中国に圧力を強めるうえで格好の攻撃材料だった。北朝鮮向けの原油の供給の抜本的な停止を迫ることで、水面下での通商問題で圧力をかけていたわけだ――すなわち、欧州系財閥が主導権を握っている限り、北朝鮮問題はあくまでも「手段」に過ぎず、武力行使は最初から想定されていなかったことになる。そうしたなかでは、FRBが金融政策の正常化に向けた姿勢を強めることで外為市場でドル高圧力が強まることも、中国を攻撃するうえで同じような効果があった。中国は国有、民間を問わず多くの企業が巨額な対外債務を抱えており、人民元安が進むとそうした実質債務が激増してしまうからだ。これまで元安圧力が強まると、人民銀行が外貨準備を取り崩して必死に元買い・ドル売り介入を続け、人民元相場を支えてきた真因がここにある。

 これに対し、米ロックフェラー財閥は中国を相手に「新冷戦」構造を構築しようとしている。そこでは、北朝鮮問題は来るべき新冷戦時代の到来に向けて、中国との緩衝地帯である朝鮮半島北部を外交・安全保障面や戦略的な視点から、米国にとっていかに有利な状況になるかという観点で対処されることになる。そうしたなかでは、米国にとって必要に応じて条件が合えば、北朝鮮への軍事攻撃の可能性を排除しないということだーその条件とは、中国の人民解放軍の介入を招き、事実上、米中間での軍事衝突にならないことだ。米国はそうした新時代の到来に向けて、通商面での世界貿易機関(WTO)体制や外交・安保面での国際連合による国際体制について、「敵国」である中国やその衛星国をそこから排除しようとしている。そうした観点から北朝鮮問題も対処されていくのであり、欧州系財閥が主導権を握っていた当時とは異なり、軍事攻撃の可能性が現実味を帯びつつある。

 そこでは、米系財閥は中国に対して通商問題で追い詰めても、あくまでもその目的はWTO体制を瓦解させることであり、同国に自由化を受け入れさせることで次々に買収工作を繰り広げることは必ずしも望んでいない。米系財閥は既に強権力的な性格が強い習近平主席を取り込んでおり、終身的な専制権力体制を握らせたうえで、同国を「悪の帝国」に仕立てて冷戦構造を構築しようとしているからだ。すなわち、FRBに金融政策の正常化路線を強めさせることで過度にドル高・人民元安圧力が強まるような状況を望んでいないといえる。

米国による他の主要中央銀行への政策要請

 むしろ、米系財閥としては緩やかにドル安が進むことを望んでいるようだ。米国は世界でも群を抜く債務大国だが、公的部門に限っても公表されているだけで20兆ドルほどの債務を抱えている。ただ、これには州や郡といった地方政府の債務が十分に反映されておらず、元会計検査院長はさらに高齢者医療保険(メディケア)や低所得者向け医療保険(メディケイド)、社会保障などの将来的に支出が見込まれる分も含めると、実質的な公的債務は65兆ドルにも達すると指摘しているほどだ。そこにさらに国防費を増額していくことになると、そのかなりの部分は日本側に負担させるとしても、公的債務残高自体は一段と膨れ上がることになる。そうした債務を米国が大きな「痛み」を負うことなく抜本的に軽減していくには、これまでにもそうしてきたようにドル安に誘導していくことだ。FRB執行部で主導権を握ってきたフィッシャー副議長が辞任することになったのは、トランプ政権での主導権が欧州系財閥から米系財閥に移り、徐々にドル安路線に転換していくことになった事情があると考えられる。トランプ大統領が北朝鮮問題が激化するきっかけとなった「炎と怒り」発言をする前日(8月7日)に、保護主義的な政策を牽引してきた「オルトライト」の白人至上主義者であるスティーブン・バノン前首席戦略官・上級顧問が辞表を提出(実際に解任されたのは18日)したのは、その象徴的な出来事といえるだろう。

 そこでは、米国は円滑な資金ファイナンスを続けるために日銀には現行の超強力な量的・質的緩和策を続けさせながらも、他の主要国・地域の中央銀行に対しては超金融緩和策からの修正を求めることになる。特にドルに次ぐ国際通貨であるユーロを管轄しているECBに対して、そうした圧力が強まることになる。このECBの金融政策については、毎月600億ユーロのペースでの資産購入策を年末まで続けた後、年明けからその縮小(テーパリング)に動くことが実質的に既定路線になっている。ただ、イタリア出身のマリオ・ドラギ総裁はじめ執行部は財政事情や経済情勢が脆弱な南欧諸国出身者で占められているため、本音ではそれに消極的なようだ。これに対し、以前からドイツは政府、中央銀行ともに超金融緩和策の推進には否定的だったため、テーパリングには肯定的な姿勢を見せている。

 注目されるのは、米国ではオバマ前政権の時にはECBが超金融緩和策を推進するのを後押ししていたのが、現在のトランプ政権は保護主義的な観点から、ユーロ安をもたらしていたECBの超緩和策に批判的であることだ。それにより、オバマ前政権期には米国は国際会議でたびたび世界最大の貿易黒字を抱えながら健全財政政策を堅持していたドイツと対立したのが、現在ではECBの政策をめぐり同国と奇妙な協調関係が成立している。

 今月7日のECB理事会では、それに先立って関係者がユーロ高圧力を抑えるために「テーパリングの計画は12月まで整わない」と表明したが、ドラギ総裁は理事会後の会見で事実上、次回10月26日の理事会で決定することを表明した。おそらく、ドラギ総裁は本音では出来る限りテーパリングに踏み出すのを後ズレさせたいと思っているのだろうが、基本的に米系財閥が主導権を握っているG30の指示で動いている以上、米権力者層の意向には従わざるを得ないようだ。足元では1ユーロ=1.2ドル台にまでユーロ高が進んだことで、ECB執行部だけでなくドイツ連銀までがそれを牽制する発言をするようになっている。このため、当面はユーロ高修正が先行しておかしくないが、中長期的には米国の通貨政策が変わってきていることに留意すべきである。

政策姿勢の変更の余地を残した今回のFOMCでの議長会見

 19〜20日に開催されたFOMCでは、FRBのバランスシートの縮小開始が決まるのは既定路線だったが、声明文やジャネット・イエレン議長の会見の内容も6月13〜14日の会合の際とほぼ同じものだった。FOMC委員の利上げの回数も年内にあと1回、来年も3回との見通しが踏襲された。市場ではその内容がタカ派的と受け止められ、ドル高傾向に拍車がかかっている。

 ただし、これまでとは異なるところも散見される。イエレン議長の会見では、「経済状況は今後数年、緩やかに拡大していく見通し」であり、「労働市場のひっ迫はさらにいくらか進む可能性」も指摘した。そのうえでインフレ動向についても「下押し要因はあるが一時的」として、「労働市場の堅調さがやがて賃金、物価動向の押し上げにつながると見る」、「景気を過熱させないようにする配慮も必要」として従来の見通しや姿勢を据え置いた。その限りではこれまでの年3回のペースでの緩やかな利上げ路線が変わっていないことを示唆しているが、その一方で「ネガティブなショックがあればバランスシートの縮小過程を見直すこともあり得る」と述べた。

 さらにそれだけでなく、イエレン議長はなかなかインフレ動向が上向いてこないことについて、「数年前までは物価の停滞は労働市場の「たるみ」やエネルギー価格の低迷といった非常に納得できる理由があったが、今年はこうした要素がなく、物価の2%割れは多分に「ミステリー」だ」と述べた。そのうえで、「(足元の物価の停滞が)特に(経済主体の)インフレ期待の低下につながるとしたら心配だ」として、「(物価の停滞が)持続的だとの見方に達するようなら、2%目標への達成に向けて金融政策の変更が求められる」と発言した。これはすなわち、将来的にこれまでの年3回のペースでの利上げ推進路線を修正する可能性についても言及したといえる。

 これまで、フィッシャー副議長が主導権を握ってきたFRB執行部は、インフレ指標としてのコアPCE物価指数が伸び悩んでおり、なかなか2%目標に到達するメドが立たなくても、いずれ労働市場のひっ迫が賃金の上昇から物価を引き上げていくとの姿勢を取り続けることで、利上げ推進路線を正当化してきた。今回も当面はそうした姿勢を堅持してはいるが、急激に政策姿勢を変えるわけにいかないのはいうまでもないことだ。しかも、株価もここにきて再び高騰しており、ダウで史上最高値を更新し続けている状況ではよけいに従来の姿勢を転換させるわけにいかない状況にある。とはいえ、将来的に金融政策姿勢を変更してそれまでのタカ派的な姿勢を転換する余地を残したことは、米系財閥が主導権を握ったことでドル安路線に転じたことが今回のFOMCでの政策決定にも反映され始めた可能性を考えないわけにいかない。

 ドル・円相場は今年に入り、4、6、8月と1ドル=108円台の安値で支えられてきたが、今月8日には北朝鮮リスクの高まりや米国でのハリケーンの被害の拡大が心配されたことからこれを下回り、107円32銭まで下げた。ところが週明け11日以降、北朝鮮リスクに市場があまり反応しなくなったことやハリケーンの懸念が払拭されたことから急反発していき、前記の下値支持帯を割り込んだのが「ダマシ」になった。それにより当面は上昇しやすい状況にあり、今回のFOMCでの政策決定も追い風になって一段高に向かう公算が高そうだ。とはいえ、米国の通貨政策がドル安志向に転じたと思われるなかで、北朝鮮リスクが一段と高まっているなかでは上値にも限度があるだろう。特に19日にはトランプ大統領が国連での演説で北朝鮮を「完全に破壊する」と述べたのは、まさに事実上の「攻撃宣言」をしたといっても過言ではないからだ。昨年12月15日の118円65銭の高値を超えてさらに上昇していくことは考えにくいだろう。

(2017年09月21日、記)

ポイント

  • FRB執行部は表向き中期的にインフレ率が目標値の2%に到達すると主張しているが、本当はハト派のFOMC委員と同様にそれが実現するとは思っていない。
  • 9月9日の北朝鮮での建国記念日にかけてまだ地政学的リスクは終わらないが、グアム島沖にミサイルが発射されることはないと思われ、株価の崩落は回避されそうだ。
  • バランスシート縮小とともに利上げを推進する路線も変わっておらず、FRB執行部は米国経済が7-9月期に高成長を記録することに自信があるようだ。
  • 米国と北朝鮮との間で軍事衝突の危険性が高まっているが、それは多分にヤラセによるものであり、通商問題で中国に圧力を強めるためだ。
  • 米国は中国を「悪の帝国」に仕立てて「新冷戦」構造を構築していくにあたり、北朝鮮に軍を進駐させているロシアを同国から切り離して提携していこうとしている。

北朝鮮問題の本質と米国の世界戦略

 外国為替市場ではユーロ高傾向が終わった後、円高圧力が強い状態が続いている。ドル・円相場はFRBの追加利上げ観測の後退によるドル安圧力から軟調な地合いになり、最近では北朝鮮情勢の緊迫化によるリスク回避から円高圧力が強まったことで一段安になり、11日には1ドル=108円74銭の安値をつけた。これで4月17日の108円13銭、6月14日の108円84銭に次いで今年で3回目の108円台をつけたことになる。

 足元では北朝鮮リスクが弱まったことで110円台後半まで反発しており、底入れした可能性をうかがわせる展開になっている。テクニカル的には2ヵ月ごとに安値をつけるサイクルが形成されているが、より長期的な視点で1年サイクルで見るとトリプル・ボトムを形成しつつあることがうかがえる。ただ、このサイクルは英国のEUからの離脱(ブレグジット)が決まった際の昨年6月24日の99円の安値から始まっているが、それが今年4月の安値で終わって現在では新サイクルに入っているのかは即断できない。1年後の6月を中心に、「オーブ(許容範囲)」を考えると8月まで延長されている可能性があるからだ。

FRB執行部の本音と建て前

 さしあたり、足元で注目されている要因はFRBの追加利上げの行方と北朝鮮問題である。このうちFRBの金融政策をめぐる問題については、これまで当欄で述べているように、今秋の中国での共産党大会で習近平国家主席が専制権力体制の終身化を達成するメドが立つまでは、信用収縮からリスク回避が強まる状態に陥るのを避けるために意図的に追加利上げ観測を後退させるような姿勢を見せているに過ぎない。基本的にはバランスシートの縮小だけでなく、年3回のペース(FRBはこのペースを「緩やか」と表現しているが)で利上げを推進していく姿勢は変わりない。

 先週7〜11日の週も数名のFOMC委員が発言したが、その顔触れはセントルイス連銀のジェームズ・ブラード、ミネアポリス連銀のニール・カシュカリ、シカゴ連銀のチャールズ・エバンズ、ダラス連銀のロバート・カプラン各総裁といったハト派、もしくは中間派でもハト派寄りのFOMC委員で占められていた。実際、その発言内容もFRBのバランスシートを縮小していっても金融市場への影響は限られることを強調する一方で、インフレ動向が思うように上向いていかず、追加利上げに慎重な姿勢を示していた。そうしたあたり、当時は足元で中国では今秋の共産党大会の行方を大きく左右する北載河会議が開催されていたなかで、米権力者層がまだ積極的に追加利上げを示唆する姿勢を見せないように政策当局に指示を出していることがうかがわれる。

 そのなかで興味深かったのは、FRB執行部では議長、副議長に次いで3番目の地位にあり、これまで利上げ見送りを決める際にジャネット・イエレン議長の意向を受けて発信していたニューヨーク連銀のウィリアム・ダドリー総裁の発言内容についてである。そこでは、ダドリー総裁は中期的にインフレ率が目標値としている2%に上昇することが危ういことを指摘しながらも、労働需給のひっ迫からいずれ賃金が上がることでインフレ率も目標値に到達していくといった、一見すると不可解な「苦しい言い訳」のようなことを述べていたものだ。

 実はそれこそが、FRB執行部の思惑と意向を反映しているといえなくもない。おそらく、スタンレー・フィッシャー副議長が主導権を握っている執行部もハト派のFOMC委員と同様に、本音では中期的にインフレ率が2%に上昇していくとは予想していないのである。にもかかわらず、バランスシートの縮小だけでなく利上げについても予定通り推進していくようにといった指示を権力者層から受けているため、表面的には労働市場のひっ迫からいずれ賃金の上昇を通じてインフレ率も目標値まで上がっていくとの見解を披露し続けなければならない事情が透けて見えるといえよう。

 実際、ダドリー総裁は週明け14日にも再び発言したが、そこでは明確にタカ派的な内容に軌道修正していた。「米国経済についての自身の見通しは年初からほとんど変わっていない」としたうえで、「経済状況が予想通り展開すれば年内の追加利上げを支持する」と発言したことで、明確に年内――すなわち、12月に追加利上げを決めることを実質的に「宣言」したといって過言ではないだろう。

 なぜなら、FRB執行部は7-9月期の米実質GDP成長率が前期比年率で3%台を記録し、各景気指標も良好な内容になるとの自信をもっているようであるからだ。最近数年間の米国経済は年末年始に鈍化して年央に活発になる傾向があるが、特に1-3月期に大きく落ち込む一方で7-9月期にかなりの高成長を記録したものだ。それは、例えば1-3月期に寒波に見舞われたり、7-9月期にはそれまでの株価や原油相場の上昇による恩恵を受けやすいといった季節性による要因にとどまらない。

 2008年9月のリーマン・ショックによる巨大な金融危機に襲われた際に、10-12月期や1-3月期に景気が激しく落ち込み、4-6月期や7-9月期にその反動でかなりの勢いで高水準の景気指標が発表された。それにより、それまでの趨勢とはかなり乖離した数値がインプットされてしまったため、それらのデータを基に季節習性をかけると1-3月期を中心に年末年始に実勢より低めに、7-9月期を中心に年央に高めに出る傾向がある。どうやら、FRB執行部はこうしたことを織り込んだうえで12月に追加利上げを決めようとしているフシがうかがえる。

ロシアを新冷戦の相手の中国から分断して提携する戦略に

 次に北朝鮮問題については、終戦記念日(北朝鮮では独立記念日)の15日にミサイルを発射するとの噂が出ていたが、そうしたことは起こらなかった。前日の14日に米国側ではハーバート・マクマスター大統領補佐官やマイク・ポンペオCIA長官が緊迫した情勢の緩和を示唆する発言をしたことや、北朝鮮側でも「米国の行動をもう少し見守る」との金正恩労働党委員長とされる意向を示したことで、むしろ緊張がやや緩和している。とはいえ、21日以降には米韓合同軍事演習が開催され、それに北朝鮮側が過敏に反応する可能性がある。さらに9月9日には建国69周年を迎えるだけに、北朝鮮が6回目の核実験に踏み切ったり、グアム島に向けてミサイルを発射する恐れがある。リスク回避が終わったとはまだ言い切れない。

 そもそも、北朝鮮の核・ミサイル問題は多分に「ヤラセ」によるものだ。北朝鮮で主導権を握っている朝鮮人民軍の幹部は親イスラエル的な共和党系新保守主義(ネオコン)派に操られているが、この系列が米ドナルド・トランプ政権でも、政権発足当初は主導権を握っていた「オルタナ右翼」のスティーブン・バノン首席戦略官・上級顧問を抑えて主導権を握っているからだ。これまで、北朝鮮が中国が嫌がるミサイル発射や核実験を繰り広げてきたのはこのためだ。中国としては絶対に北朝鮮の体制を崩壊させるわけにいかないなかで、米国は表向きこの問題で中国に対して北朝鮮に対する原油の供給の全面的な停止を求めながら、水面下での国際会計基準の導入や資本取引をも含む通商交渉で圧力を強めて揺さぶりをかけてきたわけだ。

 特に今回の米国と北朝鮮との間での軍事的な衝突のリスクをもはらむ危機的な状況がもたらされたのは、多分にヤラセ的な性格が強いものだ。発端は8日にトランプ大統領が「北朝鮮は米国やその同盟国に脅しをかけると世界がこれまで見たことがないような『炎と怒り』に直面するだろう」と述べたことから始まった。これに対して北朝鮮がこれを無視せずに、翌9日に米軍が駐留している米領グアム島沖に中距離弾道ミサイル「火星12」を撃ち込む計画を公表したことで応じた。その後も先週末にかけてトランプ大統領が自身の発言やツイッターで攻撃したのに対し、北朝鮮側もそれに激しく反発する「舌戦」を繰り広げたことで対立が激化したものだ。まさにトランプ大統領を中心に米国側が意図的に北朝鮮を非難したのに対し、北朝鮮側も故意に作為的に過敏に反応していったのは明らかである。

 その背景にどのような事情があるかを本欄で詳細に明らかにするのは避けるが、ここでは次の2点だけを指摘しておく。まず米国側では中国に対して異なる勢力が様々な利害関係を有して錯綜しているが、今回の北朝鮮問題を作為的に演出しているのが米系財閥に後押しされている共和党系ネオコン派やそれにつらなる軍需産業(民主党系ネオコン派につらなる軍産複合体ではない)である。この勢力は中国で強権的な性格が強い習近平主席に終身的な専制権力体制を樹立させたうえで、その中国を「悪の帝国」に仕立てて「新冷戦」構造を構築しようとしている。かつて、ソ連では欧州財閥系のウラジーミル・レーニンやレフ・トロツキーを排して米系財閥がヨシフ・スターリンを操り、「恐怖政治」を展開させることで1950年代に「旧冷戦」時代を構築していったのと同じようなものだ。

 ソ連との冷戦が激化していくなかで、70年代にはヘンリー・キッシンジャー元国務長官が同じ社会主義大国である中国をソ連から切り離して提携していったものだ。今回、米系財閥が共和党系ネオコン派に主導権を握らせて中国を相手に新冷戦構造を構築していくにあたり、ロシアも敵に回すと厄介なので、キッシンジャー元長官はウラジーミル・プーチン大統領を抱き込んで、ロシアを中国から切り離して提携していく路線を推進させようとしている。かつて、ソ連と対峙するにあたり中国と提携したのとは反対の構図だが、同じ発想による戦略といえるものだ。昨年の大統領選挙では米系財閥は当初、民主党系ネオコン派であるヒラリー・クリントン元国務長官を推したが、この系列はウクライナ問題でロシアと激しく対立したので都合が悪い。トランプ大統領が擁立されることになった一因がそこにある。

 トランプ大統領が就任してから北朝鮮に対して強硬な姿勢を示したことで米国と北朝鮮との間で軍事衝突の危険性が高まったのを受けて、中国とロシアは北朝鮮との国境沿いに軍隊を差し向けた。ところが、北朝鮮側はロシア軍だけ自国内に引き入れて中国の人民解放軍にはそれを認めなかったが、北朝鮮は共和党系ネオコン派に操られているのだから当然である。おそらく、中国政府は北朝鮮国内に人民解放軍を侵攻させて金正恩労働党委員長を殺害し、現体制を維持しながら親中国的な政権を樹立させるつもりでいたのだろう。しかし、北朝鮮国内に駐留することになったロシア軍が牽制しているため、中国軍は中朝国境で身動きが取れずにいる。

世界最大のウラン埋蔵地帯の権益をめぐる争奪戦

 もう一つ指摘すべきなのは、北朝鮮が位置している朝鮮半島北部は、核兵器や原子力発電の原料であるウラン鉱石の埋蔵量が世界最大を誇ると見込まれていることだ。この地域を押さえれば、核保有をめぐる競争でもエネルギー戦略でも圧倒的に優位に立てることになる。バラク・オバマ前政権末期にロシアが核戦力の縮小に向けた交渉の継続を拒否したり、トランプ大統領も核兵器を増強する姿勢を示したのはこのためだろう。

 エネルギー産業では石油産業から興った米系財閥が天然ガスを含む火力発電の分野で圧倒的に優位な地位を占めているのに対し、原発では欧州系財閥が有利な状況だ。ただ最近では、13年3月11日の東日本大震災の発生に伴う東京電力福島原子力発電所の事故を受けて世界的に反原発ムードが高まったことで、欧州系財閥の原発産業が打撃を受けている。米系財閥がプーチン政権下のロシアと提携して朝鮮半島北部のウラン鉱石の埋蔵地帯を手に入れれば、欧州系財閥に対して圧倒的に優位な地位を確保することができる。また地政学的な面から見ても、ロシアと提携した米国は、新冷戦構造のなかで「一帯一路」構想で結ばれつつある中国と欧州が提携した勢力に対しても有利な地位に立てることになるわけだ。

 今回の北朝鮮をめぐる緊張の激化には、こうした背景があるわけだ。ただここにきて、トランプ大統領を中心に共和党系ネオコン派主導の米国が一気に作為的に危機を煽る動きに出てきたのは、中国側が今秋の共産党大会の開催を控えて身動きが取れないなかで一気に勝負をつけようとしてきたことにほかならない。だとすれば、金融市場は9月9日の北朝鮮の建国記念日にかけて、まだ地政学的リスクによるリスク回避で揺さぶられる展開になることを覚悟する必要がある。ただし、北朝鮮が実施するのは核実験であってグアム島沖にミサイルを発射することはないと思われるので、株価が崩落するほど深刻な状態に陥ることは避けられると思われる。

(2017年8月16日、記)

ポイント

  • イエレンFRB議長の議会証言を機にFRBの追加利上げ観測が後退しているのは、今秋に中国で共産党大会が開催される頃までは株高傾向を維持しようとしているためだ。
  • インフレ率が2%の目標値に到達するメドが立たないのでFRBは利上げを推進していけないとの見方が根強いが、本当はFRB執行部は資産インフレの動向を焦点にしている。
  • 米国が世界覇権を維持するためには世界最強の軍事力を保持しなければならず、そのためには大規模な軍需を創出するために定期的に米国経済がリセッションに陥る必要がある。

FRBの金融政策に見る米国の世界覇権戦略と市場の誤解

中国で共産党大会が開催される頃までは信用不安の到来を回避へ

 外国為替市場では6月13~14日のFOMCでの超タカ派的な政策決定を受けてドル高圧力が高まり、ドル・円相場は今月11日には1ドル=114円50銭近い水準にまで上昇した。しかし、翌12日にジャネット・イエレンFRB議長の議会証言を機に状況が変わり、週末14日には米消費者物価指数(CPI)や小売売上高が低調な内容だったこと、翌週18日にはドナルド・トランプ政権が推し進める医療保険制度改革(オバマケア)の代替法案の上院での採決が見送りになったことも重なって足元ではドル安圧力が高まっている。それによりドル・円相場は19日には111円50銭台まで下落し、ユーロ・ドル相場も保合いを上放れて1ユーロ=1.15ドル台後半にまで一段高になっている。

 12日のイエレン議長の会見では、FRBのバランスシートの正常化を比較的すぐに始めるべきであることや、22年までに正常に縮小してく見込みであることを表明した。それ自体はタカ派的な内容であり、9月19~20日のFOMCで縮小開始が決まることがもはや決定的になったといって過言ではない。問題はインフレ率に関する見通しについてであり、議長はそれが目標値とされる2%を下回って推移しており、それが今後の緩やかな利上げを推進していくうえで不確実性であることを指摘した。それにより市場では12月に追加利上げが決まるとの観測が後退したことで、ドル安圧力が強まることになった。

 注目すべきは、イエレン議長が議会証言に臨む直前に、FOMC委員でハト派の代表格とされるラエル・ブレイナード理事が発言をしていることだ。この理事はこれまで、FRB執行部が緩やかな利上げを推進していく姿勢を示し続けているなかで、FOMCの開催が間近に迫った時点で信用不安が強まったり低調な米景気指標の発表が相次いだ際に、米権力者層の意向を受けた財務省の指示でハト派的な発言をし、市場に今回は利上げの見送りを決めることを事前に伝える役割を担ってきたものだ。その人物がこの時点でハト派的な発言をしたということは、米政策当局やその背後の権力者層が追加利上げ観測が後退するような環境をひとまず醸成させようとしていることがうかがわれる。

 どうして利上げ観測を後退させようとしているかというと、今秋に中国で5年に一度となる幹部人事が決まる共産党大会が開催されるまでは、信用不安が強まる状況になるのを回避しようとしているからだ。米国では中国に対して「新冷戦」構造に持ち込んで大規模な軍需を創出しようとしている勢力と、代表的な国有銀行や国有企業を買収するなどして中国そのものを「乗っ取り」、そのうえでユーラシア大陸に巨大な経済圏を構築することを望んでいる勢力がある。前者については、習近平国家主席が政敵を反腐敗運動で次々に失脚させ、民主化・人権運動を弾圧したり対外膨張路線を推進するなどその強権的な性格は、同国を「悪者扱い」して敵対関係を強めるのに好都合である。また後者についても、中国を乗っ取ったうえで習主席が提唱している「一帯一路」構想を利用してユーラシア大陸に進出していけば都合が良いのである。

 ただし、足元でドル安が進んでいる「隠された真因」が中国で習主席が専制権力体制の永続化を達成することを米権力者層が支援するためだとしても、その表面的な理由は米国のインフレ率がFRBの目標値である2%に到達するメドが立たず、追加利上げ観測が後退しているからだ。労働市場がひっ迫しているにもかかわらず賃金がなかなか上がらないのは、加工組み立て工場が集積している中国沿海部で人件費が高騰してきたことや、米国でリーマン・ショックによる巨大な金融危機に襲われたことで中間層が没落し、格差の拡大が顕在化したことから家計の購買力が低下したからだ。それにより多国籍企業が構築したグローバル生産体制が機能しなくなってしまい、企業部門の収益基盤が弱体化したことから容易に賃金を上げられなくなってしまったのである。

FRBが本当に対象としているのは一般インフレではなく資産インフレ

 それでも、スタンレー・フィッシャー副議長が主導権を握っているFRB執行部は、現在のインフレ動向が鈍いのはあくまでも一時的なものに過ぎず、いずれ2%の水準に向けて上昇していくとの見方を変えておらず、あくまでも追加利上げやバランスシートの縮小に向けた姿勢を崩していない。おそらく、執行部も内心ではインフレ動向が鈍いのは構造的な要因によるものであり、イールドカーブが慢性的にフラット化していると思っているだろう。にもかかわらず、これまでのインフレ動向への見方や金融政策に対する姿勢を変えないのは、次の二つの理由によるものだ。

 一つは、FRB執行部やその背後の米権力者層が気にしているのは、一般インフレではなく資産インフレの動向であることだ。これまで、リーマン・ショックによる巨大な金融危機から立ち直るためにFRBは3回にわたり量的緩和策を推進し、日銀やECBもデフレ圧力から脱することを目的としてそうした政策を続けてきた。それによりもたらされた巨大な流動性の多くが、不動産や株式、信用度の低い社債といった安全性が低い一方で大きなリターンが見込めるリスク資産に向かった。さらに投資環境が先進国・地域に比べると未整備で産業競争力が脆弱でありながら、大きな成長が見込める新興国市場にもそうした資金が向かったことで、新興国バブルが膨れ上がっていった。

 今ではFRBが量的緩和策を終えて利上げの局面に入り、ECBも来年初以降、量的緩和策の縮小に踏み出そうとしているなど、先進国・地域の中央銀行は日銀を除いて金融政策の正常化に向かっており、それによりたびたび中国はじめ新興国不安に見舞われるようになっている。ところが、米国では新興国市場に流れた資金が還流してくることで、思うように資産バブルが崩壊していかない。資産バブルが膨れ上がると金融機関の財務内容も膨張し、それが崩壊すると不良資産を抱え込むことで財務内容が悪化してしまうため、米政策当局としてはそれを未然に防ぐために資産価格の高騰を抑え込もうとしているのである。例えば、ボストン連銀のエリック・ローゼングレン総裁がかつてはハト派寄りの中間派とされていたのが、最近ではかなりのタカ派に転じているのは、住宅価格が高騰している米東海岸の地域を管轄していることと密接な関係がある。

 だとすれば、今秋に中国で共産党大会が開催される頃までは株高傾向を持続させようとしているなら、むしろそれ以降はFRBの利上げの可能性を高めることになることに留意する必要がある。むろん、株価が急落して信用収縮が強まる場面になると一転して金融緩和策に舵を切ることになるが、それまではバランスシートの縮小だけでなく利上げも継続していく必要があるといえる。むしろ、それにより米国への資金還流を強めて新興国危機に発展していけば、そうした新興国から流入してくる資金が安全資産に向かうことで米国がそれにより受ける影響は軽微なもので済んでしまい、比較相対的に「米国一人勝ち」の状態を現出することができる。新興国勢はそれにより米国債を中心にドル建て資産を「高値づかみ」するため、米株価が下落したりドル安に転じると新興国の対米債権が消失してしまい、米国側から見れば対外債務を帳消しにできることになる。

米国は戦争を引き起こすためにリセッションを招来させる

 もう一つの理由は戦争を引き起こしやすい環境を醸成することだ。FRBが金融政策の正常化に向かうことで新興国危機が引き起こされれば、米国が受ける影響はそれより軽微なもので済むとしても、米国でも株価が反落せざるを得ない。それにより多くの新興国勢が痛手を負う一方で米大手商業銀行系のヘッジファンド群や米大手投資銀行が巨利を得ることができても、株価は実体経済の重要な先行指標である以上、米国経済がリセッションに陥ることは避けられそうにない。そうなると景気対策として金融政策とともに財政面でも景気押し上げを目的に対策が実行されることになるが、そこでは公共インフラ事業や減税以上に、最も押し上げ効果が高いのが大規模な軍需を創出することだ―すなわち、戦争を引き起こしたり、引き起こさないまでも大国と軍拡競争を繰り広げることだ。

 米国が世界覇権を維持している大きな要因の一つが世界最強の軍事力を保持していることだ。アラビア半島の巨大な油田地帯を押さえているのもサウジアラビアの王室政府を軍事力で守っているからであり、世界でも群を抜く日本の貯蓄残高を利用できるのも、「核の傘」で守るなどしてその日本を軍事力で守っているからである。そうした最強の軍事力を維持するに定期的に戦争を引き起こす必要があり、そのためには周期的に米国経済がリセッションに陥り、景気対策が必要とされる局面がもたらされる必要があるわけだ。

 米国ではこれまで、10年ごとに西暦の一桁が「7」「8」の年に金融市場がクラッシュに見舞われ、「9」の年にやや持ち直すものの、「0」「1」の年には実体経済も悪化してリセッションに陥、その後戦争を引き起こすという周期性がある。80年代には87年11月の世界株価暴落(ブラックマンデー)を日本のバブル経済化でひとまず凌いだが、90年にはそれも崩壊して米国経済もリセッションに陥り、91年1月には湾岸戦争が引き起こされた。90年代には97年7月以降のアジア通貨危機が翌98年8月のロシア危機に、秋にはロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が破綻してそれが米国にも波及したが、これを「コンピューター2000年(Y2K)問題」を煽って先進国・地域の中央銀行に流動性供給策を推進させたことでひとまず乗り切った。しかし00年に入るとニューエコノミーバブルが崩壊して米国経済もリセッションに陥ったことで、01年には作為的に「9.11同時多発テロ事件」が引き起こされて10月にはアフガニスタン戦争が、03年3月にはイラク戦争に突き進んでいった。唯一、00年代では07年のサブプライム危機から連鎖した08年9月のリーマン・ショックが巨大な金融危機をもたらしたことで実体経済が急激に大きく落ち込んでしまい、金融危機対応や大型の景気対策に動くのに巨額の財政支出に動かざるを得なかった。そこで当時のバラク・オバマ政権は外交問題評議会(CFR)系主導で財政再建に優先的に取り組んだことで国防費も圧縮したため、戦争が引き起こされることがなかった。

 現在の米国はオバマ前政権の政策が奏功して財政再建が達成されて金融機関の財務内容も健全化され、実体経済も長期にわたり景気が底堅く推移して世界的に見ても比較相対的に良好な状態を維持しているなど、リーマン・ショックによる痛手を克服して立ち直っている。このため、それ以前の10年周期に訪れる金融市場のクラッシュとやや間隔を置いて米国経済もリセッションに陥り、戦争を引き起こす循環過程に回帰していると思われる。おそらく、FRBがバランスシートの縮小や利上げを推進していくことで新興国危機が誘発され、米国にも危機が波及して株価が崩落していくだろう。そこでFRBが金融緩和策に転じ、日銀もヘリコプターマネー(ヘリマネ)政策や場合によっては外債購入に踏み切ることで一時的に持ち直しても、20年頃には米国経済もリセッションに陥ることで、イランへの軍事攻撃が現実味を帯びてくることになるのではないか。

 大事なことは、市場ではインフレ動向が停滞していることや、金融政策を正常化していけば新興国危機が誘発されて米国経済も悪影響を受ける恐れがあることから、FRBは順調に利上げを推進していけないとの見方が根強いが、それは大きな誤解であることだ。FRBは本当は一般物価ではなく資産価格の動向を気にしているのであり、また意図的に新興国危機やリセッションに陥ることを目論んで金融政策を推進しているのである。

(2017年07月20日、談)

ポイント

  • 今回のFOMCでは今年、来年ともに3回の利上げや年内にバランスシートの縮小に踏み出すだけでなくそのスケジュールも示され、さらに来年には実質的に毎回0.5%分もの引き締めが打ち出される方針が示されるなど、かなりタカ派的な内容になった。
  • ところが、市場ではこれまで通りFRBの姿勢を織り込もうとしないが、その背景には中国の共産党大会やサウジのIPOを控えて、リスク選好の傾向を続けようとする意向もあるようだ。
  • だとすれば来年にかけて株高傾向が続き、サウジのIPO実現のメドが立てば信用収縮に陥る危険性が高まりそうだ。ドル・円相場はFRBの政策姿勢を織り込む時点で上昇へ。

タカ派的なFRBの政策姿勢とそれを織り込まない市場の認識

極めてタカ派的な内容になった今回のFOMCでの政策決定

 外国為替市場ではFRBが利上げやバランスシートの縮小に向けた姿勢を示しているにもかかわらず、米長期金利が低下気味に推移しているのとともにドル安気味の動きになっている。FRBが想定している通りにインフレ率が上昇していく兆しがなく、そうした方針に沿って金融政策を運営していけないとの見通しが強まっているためだ。

 14日の動きは、まさにその象徴的ともいい得るものとなった。当日のニューヨーク市場では、朝方に発表された米消費者物価指数(CPI)や小売売上高が事前予想を下回ったことからドル安が進み、ドル・円相場は1ドル=108円80銭台まで下げた。その後、FOMCでの政策決定が後述するようにタカ派的になったことから切り返したが、それでも109円台後半で上値を抑えられてしまい、節目となる110円台まで戻せなかった。

 13~14日に開催されたFOMCでは、政策金利となるFF金利が0.25%引き上げられたのは、採決で1名の反対者が出たとはいえ完全に既定路線化しており、ほとんどの市場関係者も予想していた通りだった。焦点になったのは、FOMC委員による今後の利上げの見通しや、会合後に公表される声明文やジャネット・イエレン議長による会見でバランスシートの縮小に向けた姿勢が示されるか、さらに今後のスケジュールを示すことまで踏み込んだものになるかといったことだった。結論からいえば、インフレ率の動向やその見通しを除いて、極めてタカ派的な内容になった。

 まず今後の利上げについては、これまでスタンレー・フィッシャー副議長が主導権を握っている執行部はじめ、多くのFRB理事や地区連銀総裁といったFOMC委員が示してきたように、年内ではあと1回との見通しが示され、なかには2回との見通しを示す見解も見られた。さらに来年についても、今年と同様に3回との見通しを示す委員が圧倒的に多かった。

 それだけではない。バランスシートの縮小問題については、当面は満期償還を迎えた保有資産の再投資を続けるとされたものの、改めて今年中にそれを開始する姿勢が示された。しかも、縮小していく資産の規模については、当初は国債を60億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を40億ドルと計100億ドルから開始し、3カ月ごとにその縮小額を拡大していき、1年後にはそれぞれ300億ドル、200億ドルの計500億ドルにまで達するとのスケジュールが示された。

 その一方で、FOMC委員による今後の経済状況の見通しについては、17年の実質GDP成長率が引き上げられ、失業率も直近の5月には4.3%にまで低下してきたのを踏まえて、17年から19年にかけて押し並べてそれが引き下げられた。その一方で、インフレ率については個人消費支出(PCE)指数、コアPCE指数ともに17年について下方修正された。

 その一方で、FOMC委員による今後の経済状況の見通しについては、17年の実質GDP成長率が引き上げられ、失業率も直近の5月には4.3%にまで低下してきたのを踏まえて、17年から19年にかけて押し並べてそれが引き下げられた。その一方で、インフレ率については個人消費支出(PCE)指数、コアPCE指数ともに17年について下方修正された。

 会合後のイエレン議長の会見では、米国経済は1-3月期には減速したがその後回復した模様であることや、労働市場についても雇用はおおむね持続可能なレベルの上限に達していること、最近の労働参加率の上昇は市場環境が改善している「証」であることがまず指摘された。そのうえで、バランスシートの縮小を年内に開始することを「宣言」したうえで、適切な時期になれば保有資産の正常化に着手することになり、それを比較的早期に実行することもあり得るとした。それにより、執行部はもとより12月にその開始を決める意向だとされていたなかで、その決定を前倒しにすることもあり得ることを指摘した。ただその一方で、賃金の伸びは依然として低く、コアインフレは小幅に低下していてそれが上向く証拠はないことも指摘し、あわせて数回のインフレ指標に過剰反応しないことが重要であるとして「クギを刺す」ことも述べなければならなかった。

 インフレに関する認識はともかく、今回の政策決定は全体的には極めてタカ派的な内容であるのは間違いない。バランスシートの縮小策については、開始から1年後には毎月500億ドルのペースで資産を圧縮していく方針が示され、その規模は3カ月で1,500億ドルに達する。以前、FRBは2,000億ドルの圧縮で0.25%の利上げをする引き締め効果があるとの試算を示している。今回のFOMCでは、今年だけでなく来年の利上げの回数も3回との見通しが示されたが、これはバランスシートの縮小が続いているなかでも足元と同じペースで利上げを続けていくことを示唆したことにほかならない。いわば、実質的には四半期ごとに「2回分」に相当する0.5%程度の利上げを推進していくことを意味するといえるわけだ。

FRBの政策姿勢を市場が織り込まない真因について

 ところが、以前から市場ではFRB執行部が示している今後の政策運営の方針を織り込もうとしていなかったが、米長期金利が2.1%台に低迷しているなど、今回の政策決定を受けても市況にはそれが十分に反映されていない。既に今回の利上げは100%近い確率で織り込まれていたが、市場では9月の利上げ見通しはほとんど予想しておらず、12月になってようやく40%程度に達しているに過ぎない。ましてや、バランスシートの縮小開始については、年内ではほとんど織り込まれていないようだ。

 今回のようにFOMCでの声明文やイエレン議長の会見だけでなく、これまで頻繁に中立派からタカ派的なFRB理事、地区連銀総裁が発言をしてきたにもかかわらず、市場が容易にFRB執行部の意図を織り込もうとしなかったのは、一般的にはインフレ率が上向く兆しがないからだとされている。雇用統計の指標では、失業率はFRBがインフレ非加速的失業率(NAIRU)を4.7%と試算しているなかでこれを大きく下回っており、ほぼ完全雇用に到達していると考えてよいだろう。ところが平均時給は前年比で2%台半ばからまったく上向いていく兆しがなく、それによりインフレ指標もFRBが重視しているコアPCEデフレーターで目標値である2%に到達するメドが立たず、むしろ足元では伸びが一段と鈍化している。

 どうして労働市場が完全雇用に到達しているにもかかわらず、賃金が伸びてこないのかというと、そこには多国籍企業によるグローバル生産体制が機能しなくなっていることがある。加工組み立ての生産工場が集積している中国沿海部で人件費が高騰してきたことや、米国でもリーマン・ショック以降、格差の拡大から中間層の没落が顕在化したことで、「世界の一大需要基地」としての役割を担えなくなってきたからだ。極めて構造的な問題であるだけに、今後もFRBが想定しているようにインフレ率が上昇していかない可能性がある。

 ただ気になるのは、米長期金利がなかなか上がらず、むしろ最近では低下気味に推移しているのは、先行き景気が冷え込んでいくのを先取りしている可能性があることだ。FRB執行部が想定している通り、来年末にかけて4回もの利上げを推進していく一方で長期金利が一段と低下していけば、来年後半から再来年には逆イールドに転じる可能性が高まる。これまで、米国経済が景気後退(リセッション)に陥る際には、1年程度先行して往々にしてそうした状態になることが多かっただけに、気になるところだ。

 では、賃金が上がっていないのでFRBは利上げやバランスシートの縮小を推進していく必要はないのかというと、筆者はそのようには考えていない。それは、実際にリセッションに陥った際に景気下支えを目的とする利下げ余地を確保するということだけではない。今、主要企業は生産性が低下して収益基盤が脆弱化しているなかで、賃金コストの上昇圧力を抑え込もうとしている状態にある。企業側が生産工程の人工知能(AI)化やロボット化を推し進めるなどで雇用を圧縮する動きが強まると、個人消費が冷え込んでリセッションに陥る公算が高まるため、その前に金融引き締め策を推進することで景気を抑制する必要があるからだ。

 ただし、市場がFRBの政策姿勢を容易に織り込もうとしない最大の理由は、市場で主導権を握っている大手商業銀行や大手投資銀行、それと実質的につながりがある政策当局、さらにはその背後に控えている権力者層が、FRBに利上げやバランスシートの縮小を徐々に推進させながら、リスク選好が強まりやすい状況を継続させようとしているからだ。それは一つには、前回の当欄で指摘したように、中国で今秋の共産党大会を控えて習近平国家主席が専制権力体制を確立し、その永続化を達成するのを支援するためだ。

 ただそこにもう一つの理由を付け加えるとするなら、サウジアラビアが経済構造改革を推進するにあたり、来年中に予定されている国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)を支援することも指摘できる。構造改革を推進するにあたり、公開することでいかに多くの資金を調達できるかにかかっているといって過言ではないが、そのためには原油相場が崩落することで企業価値が低下することや、先進国の株式市場が動揺することで上場しにくい環境になることを防ぐ必要があるからだ。金融資本以上に米系財閥の中核である石油資本はサウジと密接な関係にあり、バラク・オバマ前政権下でイスラエルやサウジと疎遠な関係になったのとは異なり、現在のドナルド・トランプ政権はこれら両国に接近する姿勢を見せているだけになおさらである。サウジとしても、自ら原油の生産を減らしても米シェール業者を「喜ばせる」だけであるにもかかわらず、石油輸出国機構(OPEC)加盟国や非OPECのロシアに対して減産やその延長の取り決めに向けて積極的に動いていたのはこのためである。

リスク選好が続いてもいずれかの時点で円安・ドル高に

 だとすれば、しばらくはFRBが利上げやバランスシートの縮小を粛々と推進していっても、そこに焦点が当たる局面では一時的に株価はじめリスク資産市況が軟化する場面が訪れるだろうが、基本的に上昇局面は変わらないのではないか。中国の共産党大会が過ぎる晩秋から年末にかけてはリスク資産市況が軟調に推移する場面に見舞われても、来年にはサウジのIPOを控えているだけに、やや大きめの調整局面にとどまり、年明けから来春にかけて再び株高傾向に回帰していくと予想される。株価が本格的に下がりやすくなって信用収縮局面に陥りやすくなるのは、そのIPOが実現するメドが立つことで、サウジがこれまで通り減産する必要がなくなるだけでなく、米シェール業者に奪われていくシェアを奪い返すために積極的に増産に向かうようになってからになるのではないか。そうなると原油相場が崩落してしまい、ベネズエラを筆頭に経済状態や財政事情が脆弱な産油国の間で債務不履行(デフォルト)に陥りやすくなり、新興国危機が誘発されやすくなるからだ。

 ただし、リスク選好が続きやすい環境を継続させていくのならそれほどドル高が進まないのかといえば、そうとはいえない。今、市場ではFRBがシナリオ通りに利上げやバランスシートの縮小ができないことを見越して投機筋が米債券を買い進んでいるが、FRBの政策姿勢を考えればいずれかの時点でそれを投げさせられてしまい、米長期金利が急上昇する局面が到来すると思われるからだ。それとともに、外為市場でもドルの売り持ちを損切りさせて解消させていく動きが強まることになるだろう。相場の動きというのは、損切りの投げや踏みが一気に出ることで因果玉の整理が進み、ポジションが途転されないと天井打ちや底入れをしないものであるからだ。このため、ドル・円相場はいずれかの時点で上昇しやすくなり、少なくとも昨年12月15日の1ドル=118円65銭の高値を超えて120円台に突入する場面が出てくると予想している。

 欧州株が先導し、米国株が追随してきたなかで、世界的な株高傾向のなかで最も出遅れている日本株が本格的に高騰していくのはこの時になってからだろう。出遅れていただけに、最も上昇余地が大きいはずである。

(2017年06月16日、談)

ポイント

  • FRBが今月のFOMCでの声明文で2%物価目標値に「近づいた」に文言を変えたことで、これから利上げやバランスシートの縮小を推進していくことを「宣言」したといえる。
  • ところが市場ではなかなかそれを織り込まず、投機筋がかなり債券を買い越しているが、それだけに何らかのきっかけで米長期金利が急上昇してドル高が急速に進む可能性がある。
  • 米権力者層としては中国では習近平国家主席が専制権力体制を確立し永続化することが望ましいため、今秋に共産党大会が開催されるまではリスク選好が強まりやすい展開へ。

今秋まではリスク選好が強まり円安・株高傾向を継続か

FRBが利上げやバランスシート縮小への動きを「宣言」

 ドル・円相場は昨年12月15日に1ドル=118円65銭の高値を天井に、ドナルド・トランプ政権への期待の剥落から調整局面に移行した。さらに4月に入ると北朝鮮情勢の緊迫化による地政学的リスクも加わり、4月17日には108円13銭の安値をつけた。それから出直っていき、今月11日には114円37銭にまで戻した。しかし、同日にはトランプ大統領がジェームズ・コミーFBI長官を解任し、週明け15日には大統領がロシア側に機密情報を漏洩したことが報じられたことでリスク回避が強まり、17日には111円台前半まで軟化している。 外国為替市場ではドル高以上にユーロ高が進んでおり、それと並行して欧州株も高騰している。フランスの大統領選挙で親EU的なエマニュエル・マクロン前経済産業デジタル相が当選したことや、14日にもドイツの州議会選挙で与党のキリスト教民主同盟(CDU)が勝利したことで、反EU的な極右勢力が台頭するなど欧州全体を覆っていた政情不安が薄れてきたことがある。また、マリオ・ドラギ総裁はじめ執行部がしきりにそうした見方の払拭に努めているものの、それでもECBが量的緩和策の出口に向けて動くとの期待が根強いことも指摘できる。

 これに対し、FRBは緩やかな利上げに動き、またバランスシートの縮小にも手掛けていく姿勢を見せている。さしあたり、執行部は次回6月13~14日のFOMCで利上げを決めるのをはじめ、年内では9月に再び利上げを決定した後、12月に満期償還を迎えた資産の再投資の停止を決めることでバランスシートの縮小開始に踏み出す意向であることは、もはや「公然の事実」であるといって過言ではない。足元ではトランプ政権政策遂行能力へのリスクが再燃してドル安や円高気味に推移しているが、中期的な為替相場の決定要因は当事国の金利差に影響を与える中央銀行の金融政策、それもなかんずくFRBの政策の行方が大きなカギを握る状況は今後も変わらないだろう。

 実際、これまではFOMCが開催された際に公表される声明文で2%の物価目標値を「下回っている」とされていたのが、今月2~3日に開催された際の声明文では「近づいた」に文言が修正されたところから、そうしたFRB執行部の姿勢を推し量ることができる。例えば、日銀は現行の「異次元的」と銘打った超大型の量的緩和策を終了するメドとして、消費者物価指数(CPI)が安定的に2%台に定着することと定義している。これに対し、FRBではコアPCEデフレーターが2%台に到達するメドが立つまでとしているので、今回の声明文で上記のように文言を変えたことで事実上、これから利上げやバランスシートの縮小に向けて動くことを「宣言」したに等しいといえる。

 注目すべきは、これまでは物価が目標値に近づいた段階で足踏みを続けていたのが、足元ではむしろ鈍化していることだ。コアPCEデフレーターの前年同月比の伸び率は最近では1.7~1.8%での推移が続いていたのが、今回のFOMCが開催される直前に発表された直近の3月では同1.6%に鈍化している。ちなみにCPIについても、直近の4月では前月の同2.0%から同1.9%に伸びが鈍っている。にもかかわらず、FRBが今回、実質的に利上げやバランスシートの縮小に向けた姿勢を打ち出した背景には、グループ・オブ・サーティ(G30)から派遣されているスタンレー・フィッシャー副議長を介して、米権力者層の意向が強く働いていることがうかがわれるというものだ。

FRB執行部の意向をなかなか織り込まない市場

 ところが、実際に物価の伸びが足元で鈍化しているなかで、市場では容易にそうしたFRB執行部の意向を受けて利上げやバランスシートの縮小を織り込もうとしない。さすがに次回6月のFOMCでの利上げの決定は9割以上織り込んだようだが、9月については3割程度に過ぎず、ようやく12月までの段階で50%程度に達しているに過ぎない。ましてや、バランスシートの縮小開始についてはほとんど織り込まれていない。

 そうした状況は債券相場=長期金利の動きにも表れている。指標となる10年債利回りはドル・円相場が安値をつけた翌18日に2.2%を切ってから上昇してきたが、その足取りは鈍く、先週には2.4%台に乗せてもその水準を維持できない状態だ。債券先物市場でも投機筋による買い越しがかなりの規模に達しており、労働市場がほぼ完全雇用の状態であっても容易に物価が上がらず、したがってFRBも順調に利上げができないといった観測がかなり強いことがうかがわれる。FRBではボストン連銀のエリック・ローゼングレン総裁はじめタカ派的なFOMC委員に盛んに発言をさせることで、そうした執行部の意向を市場に織り込ませようとしているが、なかなか思惑通りにいっていない状況だ。

 とはいえ、米権力者層が超金融緩和策の修正に向けて着実に歩を進めるようにFRBに求めているなかで、よほど信用不安が強まらない限り、そうしたシナリオが崩れることは考えにくい。だとすれば、いずれこうした投機筋は何かのきっかけで投げ売りを強いられてしまい、長期金利が一気に上昇しておかしくない。それとともに、外為市場でもドル高圧力が急速に強まるだろう。

中国での大事な行事を控え信用リスクは回避へ

 では信用不安が強まる恐れがないのかというと、足元で不安視されているトランプ政権への政策遂行能力以外にもないわけではない。米国株はダウが2万1,000ドル台に乗せても、足元で発表されている決算が低調であることが嫌気されてなかなか大台に定着できない状態だ。実際、予想株価収益率(PER)では既に20倍を大きく超える水準にまで買い上げられており、何かのきっかけで急落するといった観測には根強いものがある。

 予想PERがかなり高水準にまで上がってきた背景には、これまでの株価の上昇とともに企業の収益力が弱体化していることがある。直近の1-3月期の労働生産性統計(速報値)では、生産性が前期比年率でマイナス0.6%とマイナスの伸びに転落した一方で、単位当たり労働コストは同3.0%も上昇している。企業としては生産性が低下しているなかで人件費が重荷になっており、賃金を容易に上げられない状況にあることを物語っている。実際、4月の雇用統計でも、失業率が4.4%と一段と低下したものの、平均時給の前年同月比の伸びが2.5%と鈍化していることにそれが表れている。

 その背景には90年代以降、多国籍企業が構築してきたグローバル生産体制が機能しにくくなりつつある事情がある。多国籍企業はこれまでは、低付加価値の加工組み立て業務を担う生産工場を人件費が安い中国沿海部やメキシコといった新興国に設立してきたが、近年ではそれが目立って上昇してきたことで採算が合わなくなりつつある。その一方で「一大需要基地」である米国でも、リーマン・ショックによる巨大な金融危機を受けて中間層が没落し、富や所得の格差の拡大が顕在化したことから、多国籍企業は容易に収益を上げられなくなっているのだ。トランプ大統領は米国外に生産工場を設けている多国籍企業を「恫喝」して強引に国内に工場を誘致しようとしているが、企業側はそれにより政府の顔色をうかがって表向き「00人の雇用を増やす」と表明しても、実際にはヒスパニック系はじめ低賃金労働者の就労が増えるだけで、大統領の支持基盤だった中低所得者層の白人の職が増えることはない。

 そうした状況を受けて、米権力者層はトランプ政権に国防費を大幅に増額していくことを求めることで、で軍需を創出していくことで世界経済成長を牽引していこうとしている。足元では北朝鮮と緊迫した状態にあるが、これは米朝両国で主導権を握っている親イスラエル右派や共和党系新保守主義(ネオコン)派の「自作自演(ヤラセ)」に過ぎない。基本的に米軍需産業系はアジア極東では中国を相手に「新冷戦」構造に持ち込む一方で、中東ではイスラエルを中核に「熱戦」を繰り広げようとしており、特に核開発問題を再燃させるなどしてシーア派大国イランをその標的にしている。

 そのためには、中国では胡錦濤前国家主席や李克強首相の出身母体である共産主義青年団(共青団)系が勢力を強めるよりは、対外膨張主義を志向している習近平現国家主席が専制権力体制を確立し、できる限りそれが永続化することが望ましい。今秋には5年に一度となる幹部人事が決まる共産党大会が開催されるため、それまでは習国家主席を支援するために、信用不安が強まることで中国で金融危機が引き起こされるリスクが高まる状況に陥ることをできる限り避けようとするだろう。

 だとすれば、それまではリスク選好が強まりやすい状態が続いておかしくない。足元ではトランプ政権への不安感が強まっているが、トランプ大統領自体が弾劾されたり辞任せざるを得ない状況になっても(おそらく、こうしたロシア絡みの事件や報道が相次いでいる背景には権力者層の意向があると考えられるので、その可能性は高いと思われるが)、今秋まではリスク選好が強まりやすい状況を継続するのではないか。米国株はかなり割高な状態にまで買い上げられているが、それでも一段と高騰していくと予想している。ダウで2万1,000ドル台乗せが定着すると売り方の踏みが出てくることで、さらに上がりやすくなると思われる。日本株は円安に支援されるため、欧州株が既にかなり買い上げられていることもあり、主要国の株価のなかでは最も上がりやすくなっておかしくない。

(2017年05月18日、記)

ポイント

  • 今回の北朝鮮問題は、同国で軍を操ることで主導権を握っている勢力が米トランプ政権でも主導権を握っているので、多分にヤラセの性格が強い。
  • 米国は中国に北朝鮮への原油の供給削減や停止といった受け入れられないことを強要することで、水面下で市場開放に向けて取引材料に利用しているようだ。
  • 足元の円高の真因は1年前と同様にG20会議で水面下で合意されたからだが、今回は今秋の共産党大会に向けて、習近平国家主席の権力体制の強化や永続化の支援がその目的か。

北朝鮮問題の本質と円高進行の真因について

ヤラセの性格が強い今回の北朝鮮問題

 外国為替市場ではドナルド・トランプ米政権の経済政策への期待の剥落や、特に最近ではシリアや北朝鮮情勢が緊迫化してきたことで、地政学的リスクから下げ圧力が強まっている。とりわけ対円では地政学的リスクによるリスク回避から円高圧力が強まっているため、一段と下落圧力に拍車がかかっている。それにより、ドル・円相場は昨年12月15日の1ドル=118円65銭の高値を天井にして年末以降、下落傾向が続いており、週初17日の東京市場では108円10銭超まで下落した。

 足元では北朝鮮情勢を巡る動向が大きな焦点になっている。北朝鮮は8日も中距離弾道ミサイルを発射し(失敗したが)、さらに6回目の核実験を実施する構えを見せている。これに対し、米国側は米中首脳会談が開催されている6日にシリアのバッシャール・アサド政権軍に59発もの巡航ミサイルを発射し、さらに13日にはアフガニスタンでイスラム国(IS)の兵士に向けて大規模爆風爆弾兵器(MOAB)を投下するなどして北朝鮮を威嚇している。またカール・ビンソンはじめ複数の空母を朝鮮半島に向かわせ、いつでも攻撃を開始できる態勢を整えようとしている。

 米国の圧力は中国にも向けられている。トランプ大統領は「すべての選択肢がある」と表明しながらも、当面は習近平国家主席を「持ち上げて」、中国による外交工作に期待する姿勢を示している。空母カール・ビンソンも「意図的に」朝鮮半島に向けた航行を遅らせており、できる限り武力行使はせずに中国による外交交渉を優先させようとしているのは明らかである。実際、北朝鮮で主導権を握っている軍を操っているのは親イスラエル右派や共和党系新保守主義(ネオコン)派だが、これは米国側ではトランプ政権で主導権を握っている勢力でもある。すなわち、今回の米国と北朝鮮との間での緊張の高まりは、多分に「ヤラセ」による性格が強いということだ。

水面下での取引材料に利用されている北朝鮮問題

 実際、米トランプ政権は中国に対し、北朝鮮からの石炭の輸入を年末まで停止するだけでなく、原油の供給を削減もしくは停止するように求めている。それが実行されれば北朝鮮はこれ以上、ミサイルの発射や核実験を強行できなくなるというのが米国側の表向きの「理屈」である。しかし、実際にはこれが本当に実施されると「兵糧攻め」にほかならず、北朝鮮の現体制の崩壊が現実味を帯びかねないため、中国としては絶対に受け入れられないものだ。

 北朝鮮が崩壊して韓国主導で朝鮮半島が統一されると核兵器を保有する親米国が隣国に誕生することや、在韓米軍が国境に迫るため、そうした安全保障面でも中国としては困難な情勢になる。ただそれ以上に最も重要なことは、兵糧攻めにより体制が崩壊すると確実に難民が中国領内に押し寄せるだろうが、国境付近の遼寧省は鉄鋼その他の構造不況業種を抱えていて潜在的に多くの失業者を抱えており、暴動が激化して社会不安が飛躍的に高まりかねない。しかも、首都北京までそれほど距離がないだけに、沿海部の大都市で暴動が拡大すると共産党による統治体制すら危機的な状況に陥りかねない。このため、中国としてはどうしても体制の崩壊につながるような原油の供給の削減や停止にまで踏み込めない。

 中国側がどうしても呑めないことをどうして米国側が強要しているかというと、米国の本当の狙いは通商問題で中国から大幅な譲歩を引き出すにあたり、北朝鮮問題を取引の材料にしているからだ。トランプ政権はこれまで、中国に著しい高関税を課すことを提唱したり、為替操作国に指定することをほのめかす(実際にはそれは見送ったが)などして中国を追い詰めてきた。中国ではそれまで、「世界の工場」として機能してきた沿海部の人件費が高騰してきたことや、米国でも格差の拡大から中間層が没落し、「世界の一大需要基地」としての役割を担えなくなったことで多国籍企業によるグローバル生産体制が十分に機能しなくなっているため、米国としては従来の世界貿易機関(WTO)体制を維持する意義が消失しつつある。そこで軍需産業を興隆させることで巨大な需要を創出する一方で生産性を高めながら、米国内でも生産活動を活発化させようとしている。それこそが「アメリカ・ファースト」の本質的な意義なのであり、そうした目的を達成するために、これまでWTO体制で最大限の恩恵を享受してきた中国に対して抜本的な市場開放を求めているわけだ。

 さしあたり、25日に予定されている朝鮮人民軍創建85周年の到来を記念して北朝鮮が核実験に踏み切ることがささやかれているだけに、米国としてはそれまでに水面下で中国側に市場開放に向けた抜本的な要求を呑ませる必要がある。米トランプ政権はいくつかの勢力から構成されているが、最も強硬な勢力は中国に将来的に国有銀行や代表的な国有企業の買収に向けて資本取引の自由化まで求めているだけに、状況は予断を許さない。北朝鮮の強硬な姿勢はこうした水面下での交渉の進展具合の「物差し"になり得るものであり、交渉がそれほど進まなければ中国側を「脅す」ために北朝鮮は強硬な姿勢を採り続けるのだろう。最終的には中国側が大幅に譲歩することで「裏交渉」が妥結するのだろうが、その譲歩の内容は後に、米国と中国との間で「100日計画」が策定される段階になって、ある程度は明らかになるのではないか。

円高が進んだ真因は国際間の裏合意によるもの

 ところで、最近1カ月間でのドル・円相場の本当の最大の下落要因は、3月17〜18日に独バーデンバーデンで開催された主要20ヵ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、日米中3カ国間で円高誘導による秘密合意が締結されたことにある。約1年前の中国・上海で開催されたG20会議で合意された「上海密約」と同じようなものだ。

 こうした秘密合意が締結された背景には、結論から先に言えば、中国で金融危機が引き起こされる懸念が高まっていることがある。中国経済は民間部門が失速しており、小規模の公共事業を打ち出したり、減税政策で腰折れが回避されている状態だ。そうしたなかで人民銀行も経済成長の下支えに向けて金融緩和策を推進すると、沿海部の大都市で不動産価格が高騰してしまい、中国経済全体ではバブル崩壊過程に入っていながら、一部の地域でバブルが膨れ上がる奇妙な現象が生じてしまった。しかも、外為市場ではそれにより人民元相場に売り圧力が助長されてしまい、それに抗して人民銀行が慢性的に強力に元買い介入を続けざるを得なかったことから外貨準備が激減してしまった。

 そこで昨年9月4〜5日に中国・杭州で開催されたG20首脳会議(サミット)では、人民元安圧力を回避するために人民銀行が過度な金融緩和策を推進するのを是正することで、水面下での交渉で合意したという。また、不良債権処理を推し進めていくことも含めて、中国側がかなりの規模の米国債を売らざるを得なくなり、それにより国際金融市場で信用不安が強まるリスクが高まる際の防止措置として、日銀による外債購入についても話し合われたという。そこで人民銀行は金融政策を中立状態に戻していったが、11月8日の米大統領選挙の翌日からドル高が勢いよく進んだことで、人民銀行がさらに強力な元買い介入を実施しなければならなくなったことから、外貨準備が一段と大きく減少してしまった。そこで人民銀行はさらに引き締め策を強めざるを得なくなったが、それにより銀行間市場で流動性がひっ迫してしまい、5月頃にかけて中小の金融機関に破綻が連鎖するとの懸念が出ている。そこで、人民元安圧力をもたらしているドル高圧力を弱めるため、今回のG20財務相・中銀総裁会議で一時的に円高に誘導することになったものだ。

 ただし、一時的な円高誘導で合意したことについて、1年前と現在とでは中国不安への対応という点では同じだが、異なるところもある。当時は中国不安が米国のハイイールド債への不安に連鎖することが懸念されたが、現在ではそうした心配はそれほどないようだ。ハイイールド債の発行企業の多くは新興のシェール関連企業だが、現在では競争力が高まってシェールオイルの採掘コストが大幅に低下している。しかも、原油先物市場を利用して高値で将来的な販売価格を固定していることもあり、原油価格が下がっても危機的な状況に陥る公算が低下しているからだ。

 にもかかわらず、米国側が現在、中国不安の沈静化に努めているのは、中国で5年に一度となる幹部人事が決まる今秋の共産党大会を控え、習近平国家主席を支援することがその主目的である。トランプ政権で主導権を握っている軍需産業系は、これから中国を相手に「新冷戦」構造を構築して両大国間で軍拡競争に持ち込むにあたり、習主席が党大会で自身の共産党総書記の地位をさらに1期5年延長することを決定するなどで専制権力体制を強化し、長期化していくのが望ましいのである。

 ただし、いずれトランプ政権が税制改革を含む財政政策を打ち出せばインフレ懸念が高まることもあり、FRBが利上げやバランスシートの縮小を推進していく路線自体は変わらない。税制改革が実行されて、輸入については損金算入させずに20%に引き下げる法人税を課すことになれば、輸入品価格が上がるとして反対が根強いようだが、それを相殺するためにもドル高の進行が望ましくなってくる。足元の地政学的リスクもいつまでも続くわけではなく、じきに本来のドル高傾向に回帰していくだろう。

(2017年04月20日、談)

ポイント

  • 今回のFOMCで利上げの回数の見通し引き上げや資産の圧縮の動きが見送られたのは、トランプ政権がまだ財政政策や特に税制改革案を打ち出していないことがある。
  • トランプ政権が遅くとも8月中に議会が休会を迎えるまでに税制改革案を成立させるはずだが、それ以前にその内容が明らかになった段階でFRBは利上げ加速姿勢に転換へ。
  • 株価は例年通り5月上旬頃にピークを打ち、外為市場でも自機にドル高の動きが再燃してその頃にピークを迎え、その後今秋に向けてリスク回避から円高に振れる展開か。

トランプ政権の動きに影響を受けるFRBの金融政策

今回のFOMCで利上げのペース加速が見送られた背景について

 外国為替市場では14〜15日に開催されたFOMCの結果を受けてドル安が進んでいる。予想通り0.25%の利上げが決まったものの、年内の利上げの回数の見通しが4回に引き上げられるとの見方が強かったのに対し、前回12月時点の3回から据え置かれたためだ。また、FRBのバランスシートの縮小に向けて何らかの計画やスケジュールが示されるとの見方も出ていたが、そうしたことも打ち出されなかったこともそうした動きを後押しした。それにより、ドル・円相場はその直前の1ドル=114円台後半から113円割れに下落し、ユーロ・ドル相場はオランダの総選挙で極右政党がそれほど躍進しなかったことも加わって1ユーロ=1.07ドル台前半に急伸している。

 どうして今回、FRBは利上げの回数の見通しを引き上げなかったのかというと、ドナルド・トランプ政権がまだ財政政策の詳細な中身や、特に税制改革案の内容が明らかになっていないことがあるのだろう。もとより、FRBは昨年12月13〜14日に開催されたFOMCで、トランプ次期政権が減税や公共インフラ事業による財政出動政策を打ち出すのを前提に、17年の利上げの回数の見通しを2回から3回に引き上げた。その際に、財政政策が打ち出されたら、その検証をしたうえで次回3月(つまり今回)のFOMCでさらにそれを引き上げるか検討する姿勢を打ち出していた。

 どうしてこうした姿勢が示されたのかというと、米国では現在、労働市場が完全雇用に近い状態に達しており、毎月発表されている雇用統計でも平均時給の伸びが確実に高まっているなかで需要刺激策が打ち出されれば、インフレ圧力が強まる懸念が高まるからだ。リーマン・ショックによる金融危機に襲われて以後、米国経済の実質ベースでの中立金利水準が0%程度に低下しているとの見解が聞かれるが、それでもインフレ率が高まれば、当然のことながらそれだけよけいに政策金利を引き上げる必要が出てくるからだ。

 しかも、トランプ政権は単に法人や個人の中間層向けに減税措置を打ち出すだけでなく、製造業の復活を意図して貿易赤字の削減を目指す「国境税」の創設を提唱しているが、それが導入されるとより直接的に輸入物価の上昇圧力を通じてインフレ圧力を強めることになる。もとよりトランプ政権は大統領選挙戦の最中には中国に45%の関税をかけるなど、対米貿易黒字を計上している相手国に高関税を課すことを提唱していた。これに対し、議会共和党は輸出を経費に計上する一方で輸入についてはそれを認めずに20%の法人税(現行の35%から引き下げ)を課すことで、事実上の国境税を導入することを提唱している。どちらの改革案が採用されるにしても、インフレ圧力が一段と高まることでFRBがよけいに利上げを推進していく必要が出てくることになる。

 ところが、トランプ大統領は1カ月前には「今月(2月)中に「目を見張る」ような税制改革案を出す」と述べておきながら、いまだにそれを打ち出していない。その後、スティーブン・ムニューシン財務長官は次期会計年度(17年10月〜18年9月)の予算策定に向けて、先に医療保険制度改革(通称「オバマケア」)の改革に着手すると発言しており、税制改革案の内容が明らかになるのはかなり先のことになりそうだ。

 こうした状況では、トランプ政権がドル高の進行を牽制する姿勢を示しているなかで、利上げのペースを速めたり、資産の圧縮に向けた姿勢を打ち出すのを先送りすることで、FRBとしては政権側と無用な摩擦を強めることを避けようとしておかしくない。しかも、トランプ政権がまだ財政政策や特に税制改革案の中身を明らかにしていない段階で、そうした姿勢を打ち出すことで米長期金利の上昇やドル高が進んでしまい、グローバル的に信用収縮が強まって中国はじめ新興国経済が危機的な状況に陥れば、FRBに批判の矛先が集中する恐れがあるのでなおさらである。いかに今回、利上げを決めるにあたり「利上げを待ち過ぎれば、後に急速な引き締めが必要になる」といったことを名分にしたとはいえ、こうしたリスクを勘案すれば、トランプ政権がこれらの政策を打ち出してから利上げのペースを速めても遅くはないと考えていておかしくない。

税制改革案の具体的な内容が明らかになれば利上げ加速へ

 実際に、かつて「高圧経済」の理論を唱えたことがあるジャネット・イエレン議長についてははっきりしないが、主導権を握っているスタンレー・フィッシャー副議長はじめFRB執行部の多くは、国境税の創設が打ち出されれば利上げのペースを加速していかなければならなくなると考えているようだ。また、多くの地区連銀総裁は最近の発言で年内に3回もの利上げは妥当だといったことを述べているが、その多くはいずれ4回以上に引き上げていくべきだと考えているといったことを筆者は聞いている。だとすれば、トランプ政権はオバマケアの修正に先行して取り組むとしているが、次期会計年度に間に合わせるためにも、議会が8月中に休会を迎えるまでには税制改革案を成立させるだろう。

 だとすれば、FRBは遅くとも9月19〜20日のFOMCまでには年内の利上げの回数の見通しを4回以上に引き上げ、またバランスシートの縮小に向けた具体的な計画を打ち出すだろう。もっとも、議会では上下両院とも共和党が多数を握っている状況では、税制改革案を巡りトランプ政権と議会共和党との間で妥協が成立し、議会に法案が提出されれば間違いなく可決成立するので、妥協が成立する時点でFRBは利上げ加速や資産の圧縮に向けて動けることになる。次の利上げの回数の見通しが改定される6月13〜14日に開催されるFOMCで、追加利上げの決定とともにその回数が引き上げられておかしくない。資産の圧縮についても、その前の5月2~3日に開催されるFOMCで、イエレン議長の会見が予定されていないとはいえ、その際に打ち出される声明文でそうした動きをほのめかす内容の文言が挿入される可能性があるだろう。

 今回、FRBが利上げの加速を否定し、資産の圧縮に向けた具体的な措置を打ち出さなかったことを受けて、外為市場ではドル安が進むとともにリスク選好が強まり、株価が再び高騰している。例年、リスク選好の動きは日本でゴールデンウィークを迎えている5月上旬頃にピークをつけることが多いが、FRBが5月上旬や6月中旬のFOMCで政策姿勢の変更を打ち出すとすれば、今年もそれと同じ展開をたどる可能性がある。外為市場ではじきにFRBの政策姿勢の変更が視野に入るにつれてドル高傾向が再燃していくと思われ、株価がピークを打つ頃にはドル・円相場は昨年12月15日の1ドル=118円65銭の高値を超えて120円台に突入しているのではないか。ただ、FRBが実際にそうした措置を打ち出すと今秋に向けてリスク回避が強まりやすくなり、円高に振れやすくなるだろう。

(2017年03月17日、記)

ポイント

  • 最近ではトランプ政権による保護主義的な姿勢や不透明感の強さから市況が修正局面を迎えていたが、日米首脳会談の開催を機にそれが払拭され、本来のドル高波動に回帰か。
  • 最近ではトランプ大統領の側近が相次いで謀略的に陥れられたことでホワイトハウスが弱体化し、グローバル志向が強く主要閣僚を率いているペンス副大統領が主導権を掌握。
  • それにより当面はFRBがタカ派的な姿勢を打ち出しやすくなり、長期的にも税制改革案で国境調整が導入されればインフレ圧力が高まり、利上げの推進でドル高傾向に。

ホワイトハウスの弱体化でFRBの利上げ推進姿勢が復活へ

修正局面が終わり本来のドル高波動に回帰か

 外国為替市場では再びドル高圧力が強まりつつある。ドル・円相場は昨年11月8日の米大統領選挙の翌日の1ドル=101円19銭の安値から高騰していき、12月15日の118円65銭でひとまず天井を打って調整局面に転じた。それから2ヵ月近く調整局面を経たが、今月7日の111円59銭の安値でそれを終えたと思われ、本来の上昇波動に回帰したと見て良いだろう。

 調整局面を迎えていた際には、ドナルド・トランプ米政権が保護主義的な姿勢を見せるなど、どのような政策を打ち出してくるか見当がつかないことから不透明感が強まり、外国為替市場でも株式市場でもポジション整理が先行していた。特にトランプ大統領が日本からの自動車を中心とする輸出攻勢や通貨安誘導政策を批判していたなかで、10~11日に安倍晋三首相が訪米して開催される日米首脳会談を控え、米国側がそうしたことを持ち出すのではないかといったことが不安心理に拍車をかけていた。ところが、首脳会談では米国側がまったくそうしたことは持ち出さず、安倍首相とトランプ大統領が極めて親密な関係を築いたことから、そうした不安心理が完全に払拭されてしまった。

 また、市場が調整局面を迎えていた際には、12月半ば頃までは多くの地区連銀総裁が活発にタカ派的な発言を繰り広げていたのが、同月13~14日のFOMC以降、そうした発言がそれほど見られなくなったこともドル高圧力を弱める要因になったといえよう。その背景には、トランプ大統領がドル高を牽制する発言を見せていたなかで、FRB側もそれに配慮しているのではないかといった憶測が出ていたものであり、おそらく、その観測はそれなりに的を射ていたのだろう。ところが、ここにきて14日にジャネット・イエレンFRB議長が上院銀行住宅都市委員会での議会証言で、比較的早期に利上げを推進していくのに前向きな姿勢を見せたことも、投機筋としてはドル買いを進めやすくさせたといえるだろう。

ホワイトハウスの権威が失墜して副大統領が主導権を握る

 ドル高傾向に回帰してきた背景には、トランプ政権の姿勢の変化が大きく影響していると思われる。先日、開催された日米首脳会談にしてもそうだが、安倍首相が訪米する直前には、主要国の首脳との間で唯一、いまだに実施されていなかった中国の習近平国家主席との電話協議も行われている。それまで、トランプ大統領は大統領選挙戦中には中国からの輸入に45%の関税をかけることを提唱し、また選挙で勝利すると台湾の蔡英文総統と電話協議をするなど、米中間で国交が樹立されて以来、米国の歴代政権も「暗黙の了解事項」として守ってきた「一つの中国」の原則にこだわらない姿勢を見せてきた。しかし、その時の習主席との電話協議ではトランプ大統領はその原則を尊重するだけでなく、中国を為替操作国に認定して高関税を課すことをしない意向も示したという。

 どうしてトランプ政権の姿勢が軟化したのかというと、そこには大統領周辺のホワイトハウスの勢力と、主要閣僚を率いるマイク・ペンス副大統領を中心とする勢力の力関係の変化が大きく影響しているようだ。これまで、トランプ大統領は反グローバル的な「アメリカ・ファースト」を提唱することで、極端に排他的で保護主義的な言動を発してきた。そこには、政治的価値観では「オルタナ右翼」とされる白人至上主義者のスティーブン・バノン首席戦略官・上級顧問が、通商面では対中強硬派として有名なピーター・ナバロ国家通商会議議長が大きな影響力を行使してきた。

 これに対し、ペンス副大統領は本来的にグローバル志向が強く、もとより自由貿易主義者として知られており、環太平洋経済連携協定(TPP)の締結にも賛成の意向を示していた。実際、トランプ大統領は以前には同氏を嫌っていたとされるが、そうした人物がどうしてその地位に就いたのかというと、石油・軍需産業系資本や親イスラエル右派の後押しを受けている共和党系新保守主義(ネオコン)派が強力に後押ししたからだ。「狂犬」の異名をとるジェームズ・マティス国防長官やレックス・ティラーソン国務長官はじめ主要な閣僚の人選を担ってきたのも、このペンス副大統領である。多くの閣僚がその地位に就任するにあたって議会の公聴会に臨んだ際に、その発言内容がトランプ大統領のそれと異なるところが多かったのはこのためだ。

 トランプ政権では1月20日に成立した当初は、その大統領の「キチガイじみた」「猪突猛進的」な性格もあってホワイトハウス主導で進み、多くの大統領令が「乱発」された。TPPからの離脱宣言をはじめバラク・オバマ前政権下で成立した医療保険制度改革(通称オバマケア)の見直し、金融規制改革法(ドッド・フランク法)の廃止、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しやメキシコ国境での壁の建設・・・・これらの政策はほとんどが担当している閣僚に相談することもなく、トランプ大統領もしくはその側近だけの裁量で制定されてきた。その極め付けが、1月27日に公布されたイスラム7カ国からの入国禁止及び難民の受け入れ停止措置であり、バノン戦略官による独断で決められてしまった。

 しかし、この措置は米国内外で多くの激烈な反対運動を引き起こし、多くの各州の司法長官からも憲法違反として反対を表明された。ワシントン州が違憲の疑いで提訴したことで法廷闘争に持ち込まれ、2月3日に一審の地裁が一時差し止め命令を出しただけでなく、9日には二審のサンフランシスコ連邦高裁もそれを支持した。最高裁に上訴しても勝てる見込みがなく、その大統領令をいったん引っ込めざるを得なくなったことで、バノン戦略官の威信が傷ついてしまった。さらに足元では13日にホワイトハウスで外交・安全保障問題を統括しているマイケル・フリン大統領補佐官(当時)が、トランプ政権の発足前に駐米ロシア大使に対して同国の制裁の見直しを約束していたことが暴露されたことで辞任(事実上の更迭)した。さらにケリーアン・コンウェイ上級顧問も、トランプ大統領の娘が手掛けるファッションブランドを宣伝したとして懲戒処分を受けることになりそうだ。 これら一連のスキャンダルを含む出来事については、バノン戦略官を除くと、フリン前補佐官を中心にいずれも政治的な謀略により陥れられた感が強い。多くのホワイトハウス重鎮や側近が陥れられたことでトランプ大統領自身も打撃を受けているはずであり、実際に安倍首相との会談を終えた後の記者会見ではいかにも「覇気」がなかったものだ―もしかしたら、かつてのロナルド・レーガン、ジョージ・W・ブッシュ両元大統領がそうだったように、トランプ現大統領も相当に「脅されていた」のかもしれない。大統領が安倍首相に抱擁して長時間にわたり握手したのも、表面的な日米首脳の蜜月関係を演じるだけでなく、もしかしたら数少ない味方になってくれそうな同盟国の首脳に対する親近感によるものだったのかもしれない。

 貿易・通商問題で大事なことは、それにより保護貿易的で対中強硬派として知られるナバロ議長の権威も失墜したと見られることであり、それが安倍首相が訪米する直前に行われた米中首脳による電話協議になって現れている。トランプ大統領の側近では唯一、娘婿のジャレッド・クシュナー上級顧問だけがまだ影響力を保持しているようだが、それは同顧問が「狂信的」なユダヤ教徒であり、親イスラエル右派の支持を受けやすいことがその背景にありそうだ。

 今や、トランプ政権では共和党系ネオコン派や親イスラエル右派の支持を受けているペンス副大統領が強大な権限を握るようになっており、中国に対してはいったん「休戦」して穏健な姿勢に転じる一方で、中東のイスラム勢力への対処に注力してくことになりそうだ。当面は「イスラム国(IS)」への対処が中心になるが、この「狂気の殺戮集団」はイスラエルや米軍需産業、中東湾岸産油国が育てた経緯があり、この武装集団による戦闘や各地でのテロ事件は本当は「ヤラセ」に過ぎない。00年代のブッシュ政権下で中東最大の軍事力を誇ったイラクのサダム・フセイン政権を倒した今、中東で最大の敵はシーア派大国としてイスラエルやサウジアラビアにとっては大きな脅威になっているイランである。今後、トランプ政権の大きなテーマは、イランへの軍事攻撃にいつ踏み切るかといって過言ではない。中国との対立をひとまず休戦状態にしたのも、米国には今や軍事的に二正面で対処できるだけの国力がないことが、その大きな一因である。

ホワイトハウスの弱体化でFRBの利上げ推進姿勢が再燃へ

 当面の金融市況を占ううえで大事なことは、ドル高を牽制する姿勢を示していたトランプ大統領の権威が弱くなり、対照的にグローバル志向が強く共和党系ネオコン派の支持を得ているペンス副大統領が主導権を握ったことで、FRB執行部が以前のように積極的に利上げを推進していけるようになったことだ。そうしたことが14日のイエレン議長の議会証言として表れており、今後は多くの地区連銀総裁が以前と同じようにタカ派的な発言を繰り返すようになると思われる。現在、市場では3月14~15日のFOMCで利上げを決めるのがほとんど織り込まれておらず、年内3回の利上げの決定も半分以下しか見込んでいないようだ。それだけに、これから利上げの決定が現実味を帯びていくにつれてドル高に振れやすくなると予想される。

 さらにいえば、今、トランプ政権では、新たに就任したスティーブン・ムニューチン財務長官が中心になり、今月中の大型税制改革案の公表に向けて議会共和党と調整に入っている。ホワイトハウスの主導権が弱体化しているなかで、この改革案についても議会共和党の意向がかなり反映されそうだ。それにより、議会共和党が主張しているような、輸出で得た収益は課税を免除する一方で、輸入については経費としての計上を認めずに20%の法人税を課す「国境調整」が導入されそうだ。それが実現されると中国を中心に米国に輸出している国々が打撃を受ける一方で、米国では労働市場が完全雇用に近づいているなかで、輸入品価格の上昇からインフレ圧力がかなり高まりかねない。それによりFRBとしてはよけいに利上げを推進していかなければならなくなるため、長期的な観点でもドル高圧力がさらに高まることが避けられそうにない。

(2017年2月16日、記)

ポイント

  • ドル・円相場は5年サイクルの最初の1年サイクルがかなり強気型になることが多く、じきに調整局面が終わり本来のドル高傾向へ。
  • 米国で製造業が復活しなければインフレ圧力が顕在化して金利上昇から対米資金還流が強まり、復活しても米経常赤字の縮小によるドル資金の流動性の低下から信用ひっ迫へ。
  • それを克服するには米国が大規模に国防費を増額させ、日銀がヘリマネや外債購入を決めることで増発される米国債を引き受ける「日米マネタイゼーション政策」が必要に。

グローバル信用不安の回避へ日米マネタイゼーションが必要に

下値余地は大きくなくじきに本来のドル高傾向に回帰へ

 国際金融市況は調整局面を迎えており、外国為替市場でもドル高修正が進んでいる。ドル・円相場は昨年11月8日の米大統領選挙の翌9日からリスク選好が急速に強まり、米長期金利の上昇や株高に拍車がかかるとともに勢いよく高騰していき、12月15日には1ドル=118円65銭の高値をつけた。その後上値が重くなり、年明け以降、4~5日に人民元相場が一時的に急反発したことや、11日のドナルド・トランプ米次期大統領の会見を控えて利食い売りが先行していった。さらにその会見では経済対策についてまったく言及されなかったことや、17日のテリーザ・メイ英首相の演説を控えて、英国が欧州連合(EU)から完全に離脱することで「ハード・ブレグジット」の懸念が高まったことから一段とドル買いポジションの整理が進んでいった。

 さしあたり、ドル・円相場は年明け10日までは115円前後の下値支持で支えられていたが、11日のトランプ次期大統領の会見を機にこれを割り込んだことから、12月15日の高値をひとまず天井として調整局面入りが鮮明になった。目先的にはまだ下値を探る局面が続いても、それほど下値余地は大きくないと予想している。あくまでも足元の調整局面は、これまでトランプ次期政権の経済対策に対する期待先行からドル高や株高が進んでいた反動によるものであり、その調整が一巡すれば再び本来のドル高傾向に回帰すると思われる。 ドル・円相場は昨年6月23日の英国での国民投票の翌24日の東京市場で99円の安値をつけた時点で5年サイクルが底入れしており、現在ではその上昇局面の初期の最初の1年サイクルの途上にある。この1年サイクルも昨年6月24日から始まっているので、6分の1の許容範囲を考慮すると4~8月まで続くはずだ。通常、新5年サイクルが始まって最初の1年サイクルはかなり強気型の「ライト・トランスレーション」を形成することが多い。また例年、4~5月頃に株価とともに高値をつける傾向が多いことも考えると、今年もその頃にこのサイクルの天井をつける可能性が高いのではないか。

 20日にトランプ新政権が発足し、具体的に新政策が打ち出される内容が明らかになるのを受けて、3月14~15日に開催されるFOMCでは、追加利上げの決定とともに委員による今年の利上げの回数の見通しが、従来の3回から4回以上に引き上げられるだろう。それによりドル高傾向に拍車がかかっていくと思われる。

米国の製造業が復活してもしなくても信用ひっ迫が強まることに

 ところで、トランプ次期大統領は新大統領に就任するのを控えてツイッターにかなり過激なコメントを書き込んでおり、メキシコとの国境での壁の建設やロシアとの良好な関係の構築、中国に対する強硬な姿勢その他、多くの物議を醸す提言をしている。ただ今後の経済情勢を占ううえで重要なのが、かねてから「アメリカ・ファースト」を掲げているなかで、生産拠点を海外に移せば「重い国境税」を課すことをちらつかせるなどして、多くの雇用を創出する姿勢を示していることだ。実際、これまでにも自動車メーカーを中心に、いくつかの有力企業が米国内に生産工場を建設して雇用を提供する姿勢を示している。 問題なのは、6日に発表された12月の雇用統計でも平均時給が前年同月比2.9%も伸びたように、現在の経済環境が完全雇用に近い状態にあり、賃金に上昇圧力が増していることだ。ジャネット・イエレンFRB議長が財政出動政策に踏み切ることに疑問を呈しているように、こうした状態で米国内に生産工場の建設が相次いで新規雇用が増えれば、労働市場のひっ迫状態に拍車がかかり、本当にインフレ圧力が顕在化しかねない。

 そこでまず焦点になるのが、トランプ新政権の想定通りに構造的な観点で雇用の増加をもたらす製造業の復活が実現するかどうかだ。既に政権移行チームは経済対策として連邦法人税を35%から20%に大幅に引き下げることを提唱しているが、最近では議会共和党が輸出を免税とする一方、輸入面での課税を強化する新たな税制を提唱していることが注目される。

 米国では各州で付加価値税の税率が一定していないので、輸出の際に原材料の仕入れの際に徴収される分を還付することができない。これに対し、輸入の際にはそれを経費として計上できるために課税されていない。すなわち、輸出に不利な一方で、輸入に有利な制度といえる。いうまでもなく、人件費が安い新興国に生産拠点を設け、最終消費地の「一大需要基地」である米国に製品を輸出していくことでグローバル生産体制を構築してきた多国籍企業の利害に沿った税制といえるものだ。それを消費国で課税する「仕向け地主義」の原則を適用することで輸出を非課税にする一方で、輸入については経費への算入を認めずに20%の税率を課すことにするのが現在、検討されている新税制だ。この制度改正が奏功すれば、米国では輸出が伸びて輸入が減ることで製造業が復活して生産活動が活発化し、経常赤字が減ることになる。

 問題なのは、世界的に間接税については仕向け地主義が認められているものの、これを法人税に適用すると輸出補助金と見なされてしまい、世界貿易機関(WTO)のルールに抵触する可能性が高いことだ。またそれが仮に実現可能だとしても、米国内では既に長期間にわたり製造業が空洞化しているなかで、税制面でインセンティブを与えるだけで果たして生産活動を活発化させることができるか、甚だ疑問である。実際、かつて覇権国だった英国では、18世紀前半までは産業革命を成功させて「世界の工場」になったが、同世紀後半には製造業が新興の米国やドイツに抜かれてしまい、それ以来、復活することがなかったものだ。

 トランプ新政権の期待通りに製造業が復活して供給能力が増強されれば、労働市場のさらなるひっ迫による賃金インフレ圧力を吸収することで経済活動には好循環が訪れるだろう。しかし問題なのは、それが復活しなければインフレ圧力が顕在化せざるを得ないことだ。それにより、家計の消費活動が萎縮して企業も原材料コストの上昇に苦しむことでスタグフレーションに陥りやすくなるだけでは済まない。金利が上昇していくことで米国への資金還流を促進させ、新興国ではさらなる信用ひっ迫に苦しむことになる。それにより、先進国でも金融危機に陥る危険性が高まることになる。

 また期待通りに復活しても、それにより米国には一見したところ好ましい状況が訪れても、新興国では同様に信用ひっ迫に陥る危険性が高まる。米国の製造業が復活して経常赤字が縮小していけば、基軸通貨であるドル資金の流動性が減退していかざるを得ないからだ。どちらに転んでもグローバル規模でドル高傾向とともに信用ひっ迫が強まり、新興国経済は苦境に陥らざるを得ない。それにより人類史上、未曾有の超巨大バブルを抱えている中国経済が崩壊していくリスクが高まることになる。

ヘリマネや外債購入の決定に向けて信用不安の到来が求められる

 それを克服するには、米国が巨大な財政出動政策に踏み切る一方で、それにより増発される高利回りの米国債を日本側が引き受けることで世界経済を浮揚させ、同時に流動性の収縮による信用危機の発生を防ぐ必要がある。いわば「日米マネタイゼーション政策」が必要とされているのだ。既にトランプ次期政権の移行チームは5兆ドルもの減税と1兆ドル超もの公共インフラ事業を打ち出すことを表明しているが、公的部門による最大の財政出動政策は国防費を増額させることで軍需を創出することだ。次期政権が米国の東側の中東方面ではイスラム教徒を敵視して「対テロ戦争」に積極的に取り組む一方で、西側のアジア極東方面では南シナ海問題に軍事的な対応も含めて介入するだけでなく、台湾問題にも関与して中国に対して盛んに挑発している経済的な意義がそこにある。

 いうまでもなく、それにより大規模に増発される米国債を日本側が引き受けるにあたり、日銀が日本だけでなく米国に対しても「最後の貸し手」の役割を担うことが必要になってくる。黒田東彦総裁はじめ日銀の関係者は日銀法により認められていないとして表向き、外債の購入を否定している。しかし厳密にいえば、禁止されているのはあくまでも為替介入を目的としたものであり、外債の購入そのものが禁止されているわけではない。例えば日銀が外債を購入する手段として、ひとまず財務省国際局が米国債を購入し、それに応じて日銀が同省が発行した外国為替資金証券(通称「為券=ためけん」)を引き受けておいて、後に同省が外貨準備として保有している米国債を日銀の為券と交換する手法が考えられる。また、民間の機関投資家に米国債への投資を奨励しておいて、日銀がそれを保証する手段もあり得る。考えようによっては、法の“抜け道"は他にもあるだろう。

 無論、米国側の新政権だけでなく、日本側が率先して財政政策と金融政策を組み合わせたポリシーミックスを打ち出すことも必要になってくるだろう。6日に著名投資家のジョージ・ソロス氏が欧州系金融財閥の意向を受けて、アデア・ターナー元英金融サービス機構(FSA)長官とともに来日して安倍晋三首相と会談し、その後麻生太郎財務相や黒田日銀総裁とも会った。ターナー元長官といえば、中央銀行が償還期限のない永久国債を引き受ける形でのヘリコプターマネー政策の実施を提唱したことで知られている。実際、その会談では、既に日本政府は昨年8月に総額28兆円超の経済対策を打ち出しているが、さらに追加の大規模な対策を決めるように要請されたという。そこでは消費活動の押し上げを意図して家計向けの減税が主体になるようであり、中低所得者層に配慮して消費税の引き下げや場合によってはその廃止をも含めて検討するように要請されておかしくない。日銀はその財源を目的に増発される国債を引き受け、また外債購入の制度も決めておくように求められておかしくない。

 ただし、そのためには一時的に円高や株安が進む局面を招来させる必要がある。これまで、西暦で10年単位のディケイドで「7」や「8」の年には決まって信用不安が起こり、株価が急落したものだ。今年から来年にかけて、安倍政権や日銀にそれを決めさせるために信用不安が生じる局面があっておかしくないだろう。

(2017年1月19日、記)