永山卓矢の市況取材ノート

筆者のブログにはより詳しい解説がされているので、是非ご覧ください。

永山卓矢の「マスコミに触れない国際金融経済情勢の真実」

http://17894176.blog.fc2.com/

ポイント

  • 冷戦が終わり米国の世界覇権が絶頂期を迎えたなかで、グローバル生産体制により海外に流出したドル資金を円滑に還流させるうえで米ドル基軸通貨体制も最盛期を迎えた。
  • グローバル生産体制が機能しなくなり米国の世界覇権が斜陽期に転じたなかで、これからは米国第一主義により自国で生産活動を活発化させることが追求される。
  • 米国は「新冷戦」体制を構築して軍拡競争を繰り広げようとしているが、そこでは属国群を独立させて国防体制を強化させ、そこに兵器を輸出を伸ばして経済成長を目指すことに。
  • トランプ政権の背後の権力者層は表面的には中国と軍拡競争を繰り広げながら、国有企業改革を推進させることで買収や資本参加で中国を蚕食していき、対外膨張路線に乗ってグローバル規模で利権を拡大していこうとしている。
  • 米国の通貨政策はこれまではドル資金の円滑な還流を目指すうえでドル高政策が続いたが、現在では金融市場が混乱しない程度にドル安を望んでいる。ただドル・円だけは例外。

米世界覇権の斜陽期入りで輸出振興を目指し通貨政策も転換

 外国為替市場では小康状態が続いている。ユーロ・ドル相場は1ユーロ=1.23ドル台で、ドル・円相場も1ドル=107円を中心に値動きが極端に小さくなっている。しかし、いつまでもレンジ内での動きが続くわけがないが、特に値動きが小さくなってくると、一気に大きく動く前兆になることが多いものだ。では上下どちらに保合いを放れるかを予想するにあたり、世界情勢の本質を分析したうえで大局的な潮流を把握する必要があるだろう。特に「米国第一主義(アメリカ・ファースト)」を掲げて16年11月の米大統領選挙で当選したドナルド・トランプ大統領は、世界覇権国を率いたこれまでのグローバル志向が強かった歴代の大統領とは明らかに異質な性格であるので、よけいにそうした情勢分析が重要であるといえる。

米世界覇権の絶頂期で米ドル基軸通貨体制も最盛期を迎える

 トランプ政権の性格を考察するうえで最も大事なことは、米国の世界覇権が絶頂期を過ぎて斜陽期にさしかかる時期に登場したということだ。1944年のブレトンウッズ会議や翌45年の第二次世界大戦の終了とともに確立された米国の世界覇権は、ソ連を相手とする旧冷戦体制による興隆期を経て、89年11月のベルリンの壁崩壊や91年1月のソ連邦の崩壊により冷戦が終わり、米国が唯一の超大国になったことで絶頂期を迎えた。それは、「世界皇帝」と呼ばれたロックフェラー財閥の総帥デイヴィッド・ロックフェラーによる世界統一管理体制が完成されたシステムでもあった。それとともにドル基軸通貨体制も最盛期を迎え、先行して経済発展していた西側資本主義経済諸国だけでなく、それに取り残されていた新興諸国も経済成長の恩恵にあずかることができたことで、「パックス・アメリカーナ」の下で世界全体が繁栄を謳歌することができた。

 この時代の世界経済構造を特徴づけたのが、多国籍企業によるグローバル生産体制である。高性能の部品や資本財を主に日本からの供給で賄い、デザインその他の創造性を要する付加価値の高い業務を米国のような先進国が担い、人件費の安価な中国沿海部を中心とする新興国の生産工場で低付加価値の加工組み立て業務を行うことで製造された製品を、世界一大需要基地である米国で販売するというものだ。東西冷戦が終わり、軍事技術が民間に開放されたことで情報技術(IT)革命が進んだことが、米国のような本社の管理部門がこうした生産ネットワークを管理することを可能にした。需要基地である米国では格差の拡大から家計の消費活動の中核である中間層が打撃を受けつつあったが、それを株式や住宅といった資産価格をバブル的に高騰させることで、それによる資産効果から所得以上の消費活動を繰り広げることが可能になった。

 さらに金融自由化が進み証券市場が発達したことで、米国の経常赤字の拡大とともに海外に流出した米ドルを米金融市場に還流させるシステムが機能してきた。いわば、この時代の米国の世界覇権システムを現出したグローバル生産体制というのは、通貨システムにおいては米国が万国共通の基軸通貨としてのドル紙幣を供給し、それを手にした海外の経常黒字国が米ドルを準備資産として蓄積していくことで、米ドル基軸通貨体制が極限にまで機能したものということができるだろう。

米世界覇権が斜陽期に転じたなかで必然的に表れた米国第一主義

 しかし、バブルはいつかは必ず崩壊するものであり、いったんそれを克服して再びバブルを引き起こすといったことを繰り返しても、いずれ最終的に大規模な破綻劇に見舞われざるを得ない。住宅バブルの崩壊からサブプライム危機が引き起こされ、さらに08年9月にリーマン・ショックによる巨大な金融危機に発展したことで、米国の家計部門では資産効果による消費押し上げ分が剥落してしまい、格差の拡大が顕在化したことで需要が構造的に停滞してしまった。さらに生産工場が集積している中国沿海部でも人件費が高騰したことで、多国籍企業としてはそれまでのグローバル生産体制を維持することが難しくなってしまった。その結果、企業部門としては構造的に収益基盤が弱体化したことで設備投資が鈍化してしまい、米国経済は生産性(≒潜在成長率)の低下に悩まされるようになってしまった。

 そこで米国経済には構造的な大転換が求められることになり、その一つが大規模な軍需を創出することだ。軍需を創出すればそれ自体が巨大なケインズ効果をもたらすだけでなく、そうした軍需産業は裾野が大きいだけに、比較的容易に生産活動を活発化させることが期待できるからだ。ただし、グローバル生産体制が機能していた際には主に海外で製造した製品を米国の家計が購入していたが、これからは主に米国で製造した兵器その他の軍事物資を同盟国・有志国に輸出していくことで生産性を押し上げ、経済成長を実現していくことになる。それにより米国の経常赤字は縮小していくが、それは海外に流通している米ドルが減っていくことで、準備資産としての米国債の発行残高も減少していくことも意味する。それはすなわち、米ドル基軸通貨体制が動揺していくことで、冒頭で述べたように米国の世界覇権が絶頂期を過ぎて斜陽期に転じたことを意味するわけだ。そうした時代の転換期において、それを推進していく役割を担うために登場したのがトランプ大統領なのであり、またそれが「米国第一主義」の本当の意味なのである。

 ただここで注意しなければならないのは、大規模な軍需を創出していくといっても、それは既存のグローバルに展開している軍産複合体をさらに発展させていくことではなく、あくまでも米国内に生産拠点を置いた産業を発展させるということだ。ウォール街の金融資本やメディア・報道機関にまでつらなる既存の軍産複合体はかつて、デイヴィッド・ロックフェラーが構築し、支配してきたものであり、トランプ政権が打倒しようとしている敵対勢力である。トランプ政権を追い詰めているロシアゲート問題は、こうした軍産複合体が引き起こしているものだ。

独立させていく属国群に米国内で製造した兵器を輸出していく戦略へ

 昨年12月18日にトランプ大統領が「国家安全保障戦略」を打ち出したなかで、ロシアや特に中国を米国の世界覇権の秩序に挑戦する「修正主義勢力」と位置付けて軍事力の強化を謳ったのは、来るべき今後の米国及び世界の安全保障システムの新構図を提唱したものにほかならない。その4日後に成立した大規模税制改革は法人税の大幅な引き下げに注目が集まりがちだが、その最大の特色は海外に事業展開している企業がそこに滞留させている資金を米国内に還流させることを促進することで、設備投資を活発化させることを企図したものだ。中国との通商問題で鉄鋼に関税をかけたのは、米国内で軍需産業を興隆させるための主要な原料の生産基盤を守るためである。つい最近、米商務省がイランと北朝鮮に違法に米国製品を輸出したとして、「敵国」である中国の中興通迅(ZTE)に対する米国企業との取引を7年間停止する措置に踏み切ったのも、そうした文脈で考えるべきものだ。

 米国の世界覇権が絶頂期を過ぎて斜陽期に転じるのとほぼ同時期に、それまで「世界皇帝」として君臨していたグローバル志向の世界単一政府系のデイヴィッド・ロックフェラーが大往生を全うして逝去し、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官を中心とする親イスラエル右派的なナチズム系への円滑な権力の移行が進んだのは、まさに極めて象徴的な事例とでもいうべきものだ。トランプ政権で主導権を握っているこうしたナチズム系は中国を相手に「新冷戦」体制を構築しようとしている。ただし、かつてのソ連を相手とした旧冷戦時代とは異なり、各地に駐留している米軍を撤退させて属国群を独立させて国防体制を強化させていき、そうした国々と連携して対処していくことで、それらの国々に米国内で製造した兵器を輸出していくことで生産活動を活発化させようとしているわけだ。

 そこで中国の習近平国家主席に絶対的な権力を握らせたうえで積極的に対外膨張路線を推進させることで、米中間で活発に軍拡競争を繰り広げようとしている。その一方で、昨年末までは北朝鮮に対して軍事攻撃の可能性を高めることで難民が中国領域内に押し寄せる恐怖を煽ったり、水面下で同国への制裁を巡り中国の銀行を米金融システムから排除すると脅してきた。さらに年明け以降、それに代わって通商問題で圧力を強めることで、中国に対して金融部門の開放を含む資本取引の自由化や国有企業改革に取り組むように強要してきた。そうすることで国有銀行の不良債権を顕在化させることで、そうした国有銀行や代表的な国有企業への完全買収も含む資本参加をしていこうとしている。それにより中国そのものを「蚕食」したうえで、米国が後退していくのに代わり中国に「一帯一路」はじめ積極的に対外膨張路線を推進させることで、米系金融資本もそれに乗ってグローバル規模で利権を拡大していこうというものだ。すなわち、表面的にはこれから米国の世界覇権の後退とともに中国がさらに台頭していくが、実態はユダヤ系金融資本が巨利を貪りながら世界をコントロールしていく状態は変わらないということだ。

他の中銀はFRBとともに出口政策を求められややドル安志向に

 こうした状況を円滑に推進していくには、信用収縮が強まって米国に向けて資本流出が加速していき、中国でバブル崩壊が進む事態に陥ることは絶対に避けなければならない。バラク・オバマ前政権の終盤に、南シナ海はじめ露骨に対外膨張政策を進めている中国を懲らしめるために、親イスラエル左派が主導権を握って主要国・地域の中央銀行を実質的に統轄、管理しているグループ・オブ・サーティ(G30)から派遣されたスタンレー・フィッシャー副議長(当時)主導で、FRBが積極的に利上げを推進していく姿勢を示した。それにより投機筋が猛然と中国株や人民元に売り攻撃を仕掛けたことで中国不安が引き起こされたが、そうしたことは絶対にあってはならないのである。だとすれば、基本的に今後もリスク選好による株高傾向が続く公算が高く、米国株は1月26日まで主要3指標がそろって連日、史上最高値を更新し続けた後、2月に入ると局所的に暴落するなど調整局面に見舞われたが、じきに本来の上昇傾向に回帰していくだろう。

 今後の為替相場を展望するうえで大事なことは、米国政府の通貨政策が抜本的に変わっていることだ。世界覇権の絶頂期には、米国としては経常赤字の増大とともに海外に流出したドル資金を証券投資の形で米国内に還流させるにはドル高政策が望ましかったのであり、90年代半ばにロバート・ルービン財務長官(当時)が打ち出したドル高政策が、基本的にオバマ前政権まで続いてきたといえる。ところが「米国第一主義」を掲げて登場したトランプ政権は米国内に生産拠点を回帰させて生産活動を活発にさせようとしているなかで、金融市場に動揺や混乱を引き起こさない程度において、それほど積極的にではないとはいえどちらかといえばドル安を望んでいる。韓国との間で自由貿易協定(FTA)を修正するにあたり、そこに通貨条項公を挿入することでウォン相場の切り下げ介入が封じられたことにそれが表れている。またFRBが大規模緩和策の出口に向かっているなかで、主要国・地域の中央銀行にも同様に出口に向けて動くように要請しており、特にドルに次ぐ重要な通貨であるユーロを管轄しているECBに対する風当たりは実に強いものがある。ユーロ・ドル相場は狭いレンジ内での動きが続いているが、市場規模が小さいことで為替相場や株価に先行して動く傾向がある国際商品市況のうち、原油相場が保合いを上放れてきていることから、遅れてユーロ・ドル相場や株価も本格的に上昇していくのではないか。

 ただし、日銀だけは超大規模な金融緩和策の出口に向けて動くと世界的に信用収縮が強まりかねないので、しばらくは現行の政策を継続することが例外的に許されているようだ。このため、対ユーロがその構成通貨比率で過半を占めるドル指数は今後も下降傾向が続きそうだが、ドル・円相場だけは異なる動きになることが想定され、ドル安圧力以上に円安圧力が強まることで上がりやすくなるだろう。これからリスク選好から株高傾向が再燃すれば、円安圧力が本格的に強まるのではないか。ただし、米韓FTAの修正を巡り為替条項が組み入れられたことで、目先的には17~18日に開催された日米首脳会談での通商協議で日銀の金融政策が議題に上るとの見方が根強いことが上値抑制要因になっているようだ。それだけに、首脳会談が終わると株高とともに円安傾向が再燃しやすくなるのではないか。

(2018年04月19日、記)

ポイント

  • 米雇用統計は極めてタカ派的な結果になったものの賃金は停滞した状態が続いているが、それは長期失業者が職にありつくようになったことで全体の賃金が抑制されたからだ。
  • 米国では権力の組み換えが起こったことで通貨政策が変わったなかで、次期ECB総裁にドイツ出身者が就任することが確実になり、中長期的にユーロ高・ドル安傾向に。
  • 日銀だけは黒田総裁による現行の超大規模な金融緩和悪の継続が容認されているが、安倍政権が崩壊すると総裁も立場を失ってこうした政策の継続性に黄信号が灯りそうだ。

米通貨政策の変更によるECBや日銀への影響について

 国際金融市場では1月26日まで米株価が史上最高値を更新し続けるなどリスク選好が強い状態が続いた。その後、2月に入るとダウが1日で1,000ドル以上も下げるなど株価が急落商状に見舞われたが、中旬以降、次第に出直り歩調を強めつつある。その一方で、外国為替市場では良好な米景気指標が発表されて米長期金利が上昇してもそれほどドル高圧力が強くならない状況が続いており、ドル・円相場はおおむね2月半ば以降、1ドル=105~107円台で、ユーロ・ドル相場も1月半ば以降、1ユーロ=1.21~1.24ドル台でのレンジ内の動きが続いている。

米雇用統計から見る賃金状況 ― いずれ全般的に上昇へ

 米国経済のファンダメンタルズからは、米長期金利は上昇圧力が根強い状態が続いておかしくない。9日に発表された2月の雇用統計では非農業部門の雇用者数(NFP)の前月比の増加幅が実に31万人3,000人に達し、前月や前々月分も計5万4,000人も上方修正された。失業率は4.1%と低下予想に反して前月と変わらなかったが、労働参加率が63.0%と前月から0.3ポイントも上昇しており、好景気が続いて職探しをする人が増えたことが失業率の低下を抑えたことが容易に推測されるものだった。おそらく、労働参加率が前月と変わらなかったら、失業率は0.2ポイントほど下がっていただろう ― すなわち、4%を割っていた可能性が高いということだ。

 その一方で、平均時給の伸びが前年同月比2.6%にとどまり、前月分も2.8%に下方修正されるなど、労働市場が一段とひっ迫の度合いを強めている割に賃金が一向に伸びていない状況も改めて浮き彫りになった。このうち前月分が突出して伸びたのは、トランプ政権の「売り物」だった大型の税制改革が昨年12月22日に正式に成立したのを受けて、年明け1月には一時金の支給に動く企業が多かったことによるものであり、あくまでも一時的な現象によるところが大きい。

 それでも今回、平均時給がまったく伸びなかったのは、前記のように労働参加率がかなり上昇したのに見られるように、職探しをする人が一気に増えたことによるところが大きいだろう。それによりこれまで長期間にわたり職に就けなかったような人たちもかなり職を得られたと思われるが、こうした人たちの職種は低賃金の分野が多くなる傾向にあるのは否めない。そうしたことが、ここにきて一段と労働市場がひっ迫してきたにもかかわらず、全体的に見ると一向に賃金に上昇圧力が強まらない要因になっている可能性が高そうだ。ただし、だとすればタイムラグを置いて賃金が上がってくる公算も高いと言えるだろう。

 もはや、20~21日に開催されるFOMCでは利上げの決定は間違いない情勢であり、焦点は委員の利上げの回数の見通し(ドットチャート)がこれまでの年3回のペースから4回に引き上げられるかどうかだ。今回の雇用統計の発表も含めて、最近の米景気指標の発表からそれに同調する向きが増えることが想定される。それに対し、ホワイトハウスから送り込まれたパウエル議長が今回の会合では全会一致かそれに近い形で利上げを決めても、今後、そうしたタカ派的な雰囲気を抑え込めるかどうか、正念場を迎えそうだ。

米国の通貨政策が変わりECBにタカ派総裁が就任へ

 ただ、市場ではタカ派的な姿勢を後押しする情勢がかなり有利であるにもかかわらず、なかなかドル高にならず、米長期金利も10年債利回りベースで2.9%台に容易に乗せられずに抑えられているのは、鉄鋼やアルミに関税をかけるなどトランプ政権の保護主義的な姿勢が嫌気されているためだ。トランプ政権ではドル不安に陥るのを避けるために長期的にはドル高が望ましいとしているものの、例えば1月24日にムニューシン財務長官が「ドル安は貿易機会の面では良いことだ」と発言したように、本音ではドル安を望んでいるのが透けて見える。多くの市場関係者は90年代半ばにルービン財務長官(当時)がドル高政策を推進して以降、歴代の政権はそうした政策を続けていき、現在のトランプ政権も基本的にはそれを堅持していると信じ込んでいる向きが多いようだが、冷静に分析し判断しないと「痛い目に遭う」ことになりそうだ。

 ただし、トランプ政権は表面的には保護主義的な面から短期的にドル安が望ましいという姿勢を見せているが、前回の当欄でも指摘したように、その本当の理由は公的債務の対外負担を軽減するためだ。トランプ政権は昨年末に10年間で1.5兆ドル規模の大型減税を成立させ、それと同額の公共インフラ事業の実施を提唱しており(さしあたり、その多くは民間に資金供出を求める姿勢を見せているが)、さらに国防費も大幅に増額する姿勢を見せている。今後、中国を安全保障面や通商面で敵視する政策を推進していけば従来のように米国債を引き受けてくれなくなる恐れがあるので、ドル安に誘導していくことでドル安誘導で対外債務を軽減していく必要があるわけだ。ただし、かつて米国は70年代に変動相場制に移行したり、85年9月にはプラザ合意により大幅にドルを切り下げたが、そうしたことをすると国際的に混乱してしまう。そこで緩やかにドルを切り下げていこうとしているようだ。

 ドル切り下げの主要な対象通貨はやはりユーロだ。オバマ前政権下の米国は世界最大の貿易黒字を計上しているにもかかわらず健全財政政策を続けるドイツを批判し、イタリア出身のドラギ総裁はじめ経済、財政事情が脆弱な南欧諸国の出身者で占められているECB執行部が超金融緩和策を推進しているのを後押ししてきた。しかし、現在のトランプ政権はドル高をもたらす米国以外の主要国・地域の中央銀行が超緩和策を推進するのを批判しており、その是正を求めている。そうしたなかで、ECBの金融政策についてはタカ派的なドイツ連銀の姿勢と目的が一致しており、「奇妙な」提携関係が成立している。

 そうしたなかで、欧州では2月19日のユーロ圏財務相会合で次期ECB副総裁にスペインのデギンドス経済相が就任することが内定した。南欧諸国の出身者が副総裁に就くことになったことで、次期総裁にはドイツ連銀のワイトマン総裁が就任することが確実になった。これまで、ユーロ圏で最大最強の経済大国にして最大の出資国であるにもかかわらず、ドイツ出身者がECB総裁に就任できなかったのは、米系財閥に後押しされた親イスラエル左派が主導権を握っており、主要国・地域の中央銀行の金融政策を実質的に統轄、管理しているグループ・オブ・サーティ(G30)がそれを阻止してきたからだ。しかし、米系財閥で権力の組み換えが起こり、親イスラエル右派主導のトランプ政権が成立したことで、これまでの「常識」「秩序」が通用しなくなっているわけだ。

 ドイツ国内での動きも注目される。昨年9月24日に実施された総選挙では極右政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進したことで、第1党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)や第2党の社会民主党(SPD)が議席数を大幅に減らした。そこでメルケル首相が4選を目指すにあたり、当初はSPDが大連立から離れる意向を示したなかで、右派的な自由民主党(FDP)と左派的な「緑の党」と連立に向けた協議を行ったが所詮、右派と左派では「水と油」の関係にあり、あえなく挫折してしまった。そこで従来通り大連立を組む以外に選択の余地がなくなったことからSPD側が有利に協議を進めた結果、財務相や外相といった重要な閣僚ポストを確保してしまった。しかも、これまで内外で不評だったショイブレ財務相による緊縮財政政策を転換することも、連立協議の合意事項に含まれることになった。それにより、ドイツ経済はユーロ高が進めば輸出主導の経済構造が打撃を受ける恐れがあるが、その一方で財政面での需要刺激効果で下支えできることになりそうだ。

 さしあたり、ECBは現行の毎月300億ユーロのペースで買い入れる量的緩和策を9月末まで続けることになっているが、それをもって終了することになり、来年には利上げを開始するだろう。それでも、ドラギ総裁はじめ現執行部がその地位にとどまり続ける間はそれほど一気に出口に向かうことはないと思われるため、短期的にユーロ高圧力が強まることはないだろうが、中長期的にはユーロ高・ドル安傾向が進む公算が高くなっている。

日銀は現行の政策維持だが不透明な要素も

 ただし、ドル・円相場だけはやや状況が異なる。主要国・地域の中央銀行のなかで日銀だけは現行の超大規模な金融緩和策を継続していくことが容認されているようだが、それは日銀までが出口に向かうと世界的に信用収縮が強まる恐れが高まるからだ。そうした状況になると先進国・地域以上に新興国市場で真っ先にバブル崩壊が進むことになるが、特に人類史上、未曾有の規模にまで債務の規模が膨れ上がった中国で危機的な状況に陥る危険性が高まる。そうなると世界経済は極めて深刻なデフレ危機に見舞われざるを得ないため、それだけは回避しなければならないからだ。日銀が現行の超大規模な金融緩和策をこのまま継続していく一方で、FRBが緩やかながらも資産縮小や利上げを推進していけば、リスク選好が強まりだすと円安・ドル高に向かいやすくなるはずだ。

 ただ気になるのは、財務省による森友学園の決裁文書の書き換え問題から監督責任を問われて麻生副首相兼財務相が苦しい立場に追い込まれ、さらには安倍政権までもが動揺していることだ。そうした政治リスク自体がリスク回避をもたらして円高や株安の要因になるが、留意すべきなのは、安倍政権が倒れると黒田総裁もその地位を追われかねなくなることだ。もとより、黒田総裁は財務省国際局のトップである財務官の経験者として、主要国・地域の中央銀行の金融政策を実質的に統轄、管理しているG30に後押しされてその地位に就き、またその意向に従って金融政策を運営してきた。しかし、前述のように米国で権力の組み換えが起こった結果、その背後の親イスラエル左派の勢力が後退したことでG30の影響力も弱体化している。その結果、黒田総裁は安倍首相に接近することでその地位を維持しているが、足元の財務省による不祥事で安倍政権が崩壊すると総裁も完全に足場を失うことになる。それにより、これまでの超大規模な金融緩和策をこのまま続けられるか、不透明な要素が出てくる可能性もなくはないだろう。

(2018年03月15日、記)

ポイント

  • 米長期金利の上昇から米国株中心に株価が暴落を含む不安定な動きになっているが、リスク回避が強まっている割に円高がそれほど進んでいない。
  • 米政策当局を操ってきた米系財閥内部で新たに主導権を握った勢力は、信用収縮が強まることで新興国危機が起こり、中国でバブル崩壊が促進していくことを望んでいない。
  • 大型減税やインフラ事業、国防費の大幅な増額から財政赤字が膨れ上がることが見込まれるなか、米国は対外債務の軽減を目的に緩やかなドル安を推進しようとしている。

米通貨政策の転換と今回の株価急落の意義

株価急落ほど円高が進んでいない

 国際金融市況が激しく動揺している。米株価は1月26日までは主要3指数がそろって連日、史上最高値を更新し続ける高騰を演じていた。ところが、週明け29日から調整局面に移行していき、週末2日にはダウが前日比665ドル安と急落した。さらに翌週明け5日には前週末比1,175ドル安と史上最大の下げ幅を記録した。その後も1日の値幅が1,000ドルに迫る荒い値動きを繰り返した後、8日には前日比1,032ドル安と再び1,000円を上回る下げ幅を記録した。コンピューター取引による影響が指摘されているが、まさに「ジェットコースター」のような「怒涛」の値動きだった。

 株価が動揺して暴落商状となっているのは、一般的にいわれているように、債券バブルが崩壊して米長期金利が上昇しているからだ。これまで、FRBが年3回のペースで利上げを推進していく意向を示していたにもかかわらず、市場がなかなかそれを織り込んでこなかった。労働市場が完全雇用状態に近づくほどひっ迫しているにもかかわらず、賃金がなかなか上昇せず、FRBが政策目標としている2%の物価水準に到達するメドが立たなかったからだ。その結果、中長期間のイールドカーブが不自然にフラットな状態が続いてきた。それがここにきて、もとより米国経済が堅調に推移していたなかで、一段と良好な内容の景気指標が次々に発表されるようになったことで、債券バブルが崩壊を始めたといえる。

 米国経済の拡大傾向が一段と加速し、主要企業の好業績も続いていたなかで、長期金利が経済実態より低い状態で推移していたことから、株価にはまさに申し分のない環境にあったといえる。さらに昨年末頃には、ドナルド・トランプ政権が大型の税制改革法を成立させ、将来的に業績がさらに押し上げられるとの期待が高まったことが、それに拍車をかけた。債券バブルがピークを打った時――すなわち米長期金利が最も低下したのは昨年9月上旬だったが、株価バブルがピークを打ったのが1月下旬とそれより4カ月半も遅行したのも当然である。

 こうしたなか、外為市場では株価が暴落したほどには、リスク回避から円高がそれほど進んでいなかった。さすがに12日の週に入ると、16日の春節を前にアジア勢が円売り・ドル買いのポジションの手仕舞いが出たことで、国内勢も外債の投げ売りに動いたことから、14日の東京市場では一時1ドル=106円80銭台まで突っ込んだ。しかし、株価はダウで1月26日の2万6,616.71ドルの史上最高値から2月9日の2万3,360.29ドルの安値まで12%ほど下落したのに比べると、それほど円高が進んだとはいえない。

 その背景には、もとより米長期金利が経済実態より低めに推移していたことからドル安(円高)圧力が強い状態にあったことや、米税制改革への期待から株価もそれ以上に押し上げられていたことがあったのは当然のことながら考えられるところだ。ただ外為市場では、少なくとも株価が大きく下がった割にそれほど危機的な状況にあるとは認識されていなかったことも、その一因として指摘できるだろう。

米系財閥の主導権交代により中国のバブル崩壊が阻止されることに

 その背景には、トランプ政権で主導権を握りつつある勢力が、バブルを崩壊させることで新興国を、それも特に中国を潰したくないと考えていることがあるようだ。この政権は16年11月の大統領選挙では、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官に代表される親イスラエル右派的でナチズム的な勢力が後押ししたことで、共産主義的で世界単一政府志向であり、米国の世界覇権戦略の維持を目論んでいる親イスラエル左派が推していたヒラリー・クリントン元国務長官を破って成立した経緯があるからだ。

 世界単一政府志向の親イスラエル左派の勢力は、90年代以降、東西冷戦が終わって米国が世界で唯一の超大国となり、その世界覇権の絶頂期を迎えたなかで、ビル・クリントン政権下でそうした時代に打ち立てられたグローバル生産体制や金融主導経済の主役だった。また90年代後半に膨れ上がったニューエコノミー・バブルが00年に崩壊すると、ジョージ・W・ブッシュ政権下では新保守主義(ネオコン)派の政治家を登用して「対テロ戦争」を引き起こして軍需を創出させるなど、軍産複合体にも強い影響力を行使してきた。

 しかし、米国の世界覇権は08年9月のリーマン・ショックを機に斜陽期に向かい始めるとともに、主導権が親イスラエル左派からナチズム的な右派に移行していった。それでも、バラク・オバマ前政権下ではまだ左派系の勢力が強く、中国の習近平国家主席が経済面では「一帯一路」構想を、軍事的にも南シナ海の南沙諸島で強引に軍事基地を建設するなど露骨な対外膨張路線を推進してきたのを受けて、FRBによる利上げ推進をちらつかせて投機的に中国株や人民元を売り浴びせることで中国危機を引き起こしてきた。しかし、17年1月にトランプ政権が成立すると、中国に対する姿勢をはじめ米国のグローバル戦略が抜本的に変わっていった。

 トランプ政権の政策といえば、特に通商面を中心に「米国第一主義(アメリカ・ファースト)」を標榜した保護主義的な姿勢がその特徴として思い浮かぶ。これは、やや「乱暴的」に大雑把にいえば、キリスト教福音派を介したナチズム的な理念が白人至上主義となって具現化したものといえるだろう。そこで主導権を握ることになったイスラエルの右派政党リクードにつらなる勢力は、グローバル生産体制が機能しなくなって米国経済の生産性が低下したなかで、中国を相手に「新冷戦」構造を構築して軍拡競争により巨大な軍需を創出し、また生産活動も活発化させることで生産性を上昇させようとしている。

 ただ、これから構築されていく冷戦構造がかつてのソ連を相手とした旧冷戦構造と異なるのは、当時は米国の世界覇権が興隆していく局面だったのに対し、今回はそれが後退していく過程で迎えることだ。当時は米国の覇権に勢いがあったため、日本を含む属国群が自前で国防を強化するのを禁じて米軍が世界的に展開してきた。しかし、今では米国には米軍を国外に駐留させて世界を直接的に管理していく能力が失われつつあるため、属国群を次第に独立させて自前で国防を強化させたうえで、そうした属国群と提携して中国を相手に軍拡競争を繰り広げていこうとしているのが、かつての旧冷戦時代と異なるところだ。

 米国で主導権を握ることになった親イスラエル右派の勢力は、欧州系財閥や親イスラエル左派が目論んでいたように中国を潰してしまうと冷戦構造を構築できないため、そうしたことは望んでいない。それはすなわち、FRBが資産の縮小や利上げ推進を強化することで、超金融緩和策の出口に向けた姿勢を強めることにより対米資金還流が促進されていき、天文学的な規模の債務を抱えた中国でバブル崩壊が進むことを阻止する必要があるということだ。

 それだけではない。親イスラエル右派系は中国国内で権力基盤を一段と強めた習近平国家主席に国有企業改革に取り組ませ、それに伴って顕在化していく国有銀行の不良債権処理をも推進させることで、米系財閥系の金融機関に資本参加だけでなく買収も含めて中国に参入させていこうとしている。そのうえで習主席に「一帯一路」構想を推し進めさせることでユーラシア大陸に進出させて経済圏を構築させながら、それを「内側」から恩恵にありつくことで「果実」を得ようとしている――いわゆる「豚(中国)は太らせてから喰え」ということだ。それは中国の帝国化を一段と強めることで、米国としても軍拡競争を繰り広げるうえで好循環になっていくというわけだ。

 いずれにせよ、米国で主導権を握ることになった親イスラエル右派としては中国でバブルを崩壊させるわけにいかないため、株価の暴落が続いて信用収縮がグローバル規模で強まる状況になるのは防がなければならない。だとすれば、足元の株価の暴落を伴う大きな動揺はじきに収まる可能性が高いと見るべきだろう。むしろ、ここにきて株価が大きく下げたことで、トランプ政権から送り込まれたジェローム・パウエル新FRB議長がタカ派的な地区連銀総裁を抑え込むには好都合である。もとよりFRBは今年も昨年と同様に3回もの利上げを決める姿勢を示していたが、最近では良好な景気指標の発表が相次いだことや株価が高騰しているのを受けて、それが4回に引き上げられるとの見通しが出ていたからだ。ここへきての株価の暴落の意義は、そうしたところにあると考えるのが妥当なのではないか。

対外債務の軽減を目的に緩やかなドル安路線に転換へ

 なお、ユーロ相場については、ユーロ圏経済が好調な状態にあるなかでECBの出口政策が早まるとの観測からユーロ高圧力が強まり、直近の理事会が開催された1月25日には対ドルで1ユーロ=1.25ドル台前半まで上昇した。ただ、足元ではユーロ高が進み過ぎたことについて懸念が強まっていることから軟化気味に推移しており、当面はその修正局面が進みそうだ。ユーロ圏では経済・財政事情が脆弱な南欧諸国だけでなく、その中核にして金融政策面でもタカ派的なドイツでも輸出主導の経済構造であるだけに、あまりにユーロ高が進むことを望んでいないからだ。

 しかし、中長期的には米国の通貨政策が変わっていることに留意する必要がある。オバマ前政権下では、米国はドイツが世界最大の貿易黒字国でありながら健全財政政策を堅持しているのを批判し、マリオ・ドラギ総裁はじめ南欧諸国出身者で占められているECB執行部に同調し、超金融緩和策を推進するのを後押ししてきた。しかし、現在のトランプ政権は通商政策面を重視してドイツを批判するにあたり、日銀を除く他の主要国・地域の中央銀行が過剰な緩和策を推進するとドル高がもたらされるとして、これを批判している。その結果、ECBに対する金融政策面では、米国とドイツとの間で「奇妙な」共闘関係が成立している。1月24日にスティーブン・ムニューシン財務長官が、長期的にはドル高が望ましいとしながらも、短期的には貿易面でドル安を容認するような発言をしたのは、まさにトランプ政権の通貨政策の認識を示唆しているものといって過言ではないだろう。

 トランプ政権が本音ではドル安を望んでいるのは、通商政策面以上に対外債務を軽減する必要があるからだ。トランプ政権は10年間で1.5兆ドルもの大型減税政策を決めただけでなく、1月30日の一般教書演説では少なくとも1.5兆ドルものインフラ投資の実施を提唱した。さらに中国との軍拡競争をはじめ国防費も大幅に増額していけば、財政赤字が飛躍的に増大して公的債務残高が一段と大きく積み上がっていくのが避けられないからだ。かつて、米国は旧冷戦時代の1970年代前半には金とドルの兌換の停止や変動相場制への移行で、また85年9月にはプラザ合意でドル相場を大幅に切り下げることを債権国に呑ませることで、対外債務を強引に軽減してきた。しかし、当時のように一気に切り下げると世界的に大きな混乱を引き起こしてしまうので、今のうちに米国以外の主要国・地域の中央銀行にも超金融緩和策の修正に向かわせることで、緩やかにドル安に誘導していこうというものだ。

 ただし、「世界の資金供給基地」である世界でも群を抜く貯蓄超過国の中央銀行までその修正を急ぐと、世界的に信用収縮が強まらざるを得ないため、日銀に対してだけは現行の超大規模な金融緩和策の継続が容認されているようだ。ただいずれにせよ、多くの金融市場関係者はそれほど把握していないだろうが、米国の通貨政策が以前とは変わっていることをしっかり認識する必要がある。ドル・円相場にはあまり影響しないだろうが、それ以外の通貨に対しては、それも特にユーロ・ドル相場の今後を占ううえではそれが非常に重要であることはいうまでもないことだ。

(2018年02月14日、記)

ポイント

  • 米税制改革では富裕層が優遇されているが、この階層は消費性向が高くないために経済成長の押し上げに寄与せず、収益期待も高まらないために設備投資の活発化も期待薄。
  • 大規模な軍需の創出が伴えば収益期待の高まりから税制改革により設備投資の活発化も見込めることになり、そこに「新冷戦」突入を宣言した「国家安全保障戦略」の意義がある。
  • 短期的には安倍政権が「デフレ脱却宣言」を出すにあたり、銀行への配慮から超大規模な金融緩和策からの微修正に動くことが見込まれる。

大規模軍需創出を伴う米経済再生策が動き出す

 国際金融市場では昨年末に米税制改革法が成立した後もリスク選好が続き、ドイツを中心に米長期金利が上昇傾向を続けているなかで米国を中心に株高傾向が続いており、ダウをはじめ米株価の主要3指数がそろって史上最高値を更新している。一方、外国為替市場ではドル安が進んでおり、ここにきてFRBの先行きの追加利上げを市場が織り込むことで日米金利差が拡大しているにもかかわらず、対円でも軟化している。

 このうち米株価が高騰している背景には、ここにきて相次いで良好な米経済指標が出ており、主要企業の好決算の発表も予想されているなかで、税制改革が実行に移されることでさらに収益が拡大していくことが期待されていることによるものだ。ただ、税制改革による押し上げ分はもはや完全に織り込まれており、かなり買われ過ぎの印象を拭えない。この株高の背景には、それ以外に何らかの要因を市場の「見えざる手」が意識していると考えるべきだろう。

税制改革法案だけにとどまるなら経済成長の押し上げは限定的

 そこでまず、ドナルド・トランプ現政権が成立させたこの税制改革について概要を述べると、次のようなものだ。この減税政策ではその規模が10年間で1.5兆ドルとされており、80年代のロナルド・レーガン政権のそれに匹敵するものだ。具体的には、企業部門については連邦法人税率を35%から21%に引き下げるのがメインになる。それ以外にも固定資産を取得する際に即時償却することを可能にすることで、設備投資を誘発する動機を与えている。また多国籍企業のグループでの取引に一部課税することや、企業の海外留保資金に一度限り課税する一方で、海外子会社からの配当課税が廃止された。それにより、多国籍企業がこれまで海外に貯め込んだ2兆5,000億ドルともいわれる資金を米国内に還流させるのを後押ししようとしている。しかも、今回の改正では借入金の利息の損金算入の制限が強化されることになり、米国内での買収や投資その他を目的に資金調達する際には借り入れではなく、できる限り海外資金を還流させることで賄うように配慮されている。

 一報、個人税制については、所得税の最高税率が39.6%から37%に引き下げられることになった。また税負担を一律で軽減する概算控除も倍増されることになり、これらは明らかに納税額が多い富裕層を優遇したものだ。一般庶民向けとして子育て世帯への優遇が盛り込まれたが、その一方で配偶者や扶養家族への控除も縮小されて実質的に増税となることで、中間層以下の人たちにはそれほど恩恵が及ばない。実際、18年の減税額は上位2割の所得層では減税額が平均して7,640ドルに達するのに対し、納税額が少ない下位2割の所得層ではわずかに60ドル程度でしかないという。今回の税制改革法案の議会での採決にあたり、上下両院ともに民主党の議員が全員反対したのもうなずけるというものだ。

 問題なのは、こうした富裕層はもとより消費性向が低く、減税してもそれほど消費押し上げ効果はないことだ。所得が低い世帯であればあるほど、消費に占める食料品や生活必需品の比率が高く、すなわちエンゲル係数が高い世帯ほど押し上げ効果も大きい。日本で所得の逆進性が高い消費税を引き上げたら、多くのエコノミストが想定していた以上に消費活動が委縮してしまい、景気が打撃を受けたことにそれが端的に表れている。本当に消費活動を活発にさせるのなら、所得や資産の低い世帯ほど返済不要の多くの資金を無償で提供することだ。80年代前半にレーガン政権が成立させた減税政策では、消費活動が盛り上がって財政赤字とともに貿易赤字も急増して「双子の赤字」が積み上がったが、当時はまだ富や所得の二極分化があまり進んでいなかったことを考慮する必要がある。

 家計の消費活動がそれほど盛り上がらなければ、企業の設備投資もあまり伸びないだろう。いかに固定資産を取得すればすぐに償却できるとしても、また海外資金を米国内に還流させる動機を与えても、需要がそれほど出てこないなかでは収益期待が高まらないので、企業側も投資をしようとしないからだ。日本ではGDPに占める個人消費の比率が5~6割程度だが、米国では7割近くもあるので、よけいに多国籍企業を中心とする法人や富裕層ばかり優遇する政策を推進してもあまり大きな効果は見込めないはずだ。すなわち、今回のトランプ政権による大規模な税制改革は、その政策だけでとどまるならそれほど経済成長を押し上げることにはならず、また設備投資が伸びないことで米国経済の生産性≒潜在成長率もあまり上昇しないということだ。

大規模な軍需の創出を伴って大きな効果が発揮される

 それを解決するには、企業側の間で収益期待が高まることを目指して巨大な需要創出政策を併用することが不可欠になる。財政支出拡大策には公共事業や減税が代表的なものだが、最も大規模なものが軍需の創出だ。世界のどこかで戦争を起こしたり、大国間で軍拡競争を繰り広げれば大規模な軍需が創出されることで、巨大なケインズ効果がもたらされるだけではない。軍需が創出されると、そうした軍需関連産業は裾野が広いだけに、多くの産業で生産活動が活発になることが期待できる。さらには、IT関連を筆頭に情報通信産業は雇用創出力が極端に弱いが、軍需関連産業では製造業が中心になるので雇用創出力が高く、賃金も容易に引き上げられやすい。

 そこで重要な意味を持ってくるのが、税制改革法が正式に成立した4日前の12月18日にトランプ大統領が発表した「国家安全保障戦略」である。軍需が創出されることで収益期待が高まれば、企業としても設備投資意欲を高めるはずだ。そうした状態になれば、今回の税制改革により法人税が大幅に引き下げられ、海外に滞留している資金を米国内に還流させることで設備投資が出やすくなり、また固定資産への全額償却が認められることがそうした動きを後押しすることが期待できるようになる。

 この「国家安全保障戦略」の発表は、まさに「新冷戦」時代の到来を告げるものといって過言ではない。そこでは、米国の競争国に関与すれば信頼関係を築けるとの前提に基づく過去20年の政策は再考が必要だとしたうえで、強国同士の競争が再来しており、米国の政治的、経済的、軍事的な優位性を確保するうえで「力による平和」を堅持することが謳われ、軍事力の増強を推進することが宣言された。

 そこでは、米国の覇権の秩序に対する「修正主義勢力」として中国とロシアが名指しされた。特に中国に対しては「インド太平洋地域で米国に取って代わり、国家主導の経済モデルの範囲を拡大し、地域の秩序を好きなように再編成しようとしている」として、具体的で辛辣な表現を用いて激しく批判している。また「ならず者国家」として北朝鮮とイランの名前が挙がったが、これは米国による当面の軍事攻撃の対象国の候補に指定されたことにほかならない。

 ただし、かつてのソ連を相手にした「旧冷戦」時代では米国の世界覇権が絶対的な状況にあったが、今回の「新冷戦」時代ではその勢いが衰えつつある状況で迎える。旧冷戦時代では米軍が各地に駐留して世界全体の管理を請け負うスーパーパワーだったが、バラク・オバマ前政権下で各地の駐留米軍が削減されてきた。現在のトランプ政権は前政権よりはるかに好戦的だが、国内の軍産複合体の勢力を抑え込み、日本はじめ同盟国に応分の負担を求めている点で旧冷戦時代とは根本的に性格が異なる。そのため、軍拡競争が強まるとともに多極化も進んでいくことにより、日本は第二次世界大戦後、米軍に占領された状態が続き「属国」としての地位に甘んじてきたが、その米軍が撤退していくとともに核武装化していくことで、本当の意味で独立していくのだろう。

 米株価は既に税制改革で見込まれる企業収益の拡大分を大きく上回る水準にまで買い上げられており、これをバブルと見る向きもいることだろう。ただ、筆者はこの株高傾向はそこに大規模な軍需の創出が加わることで乗数倍もの収益拡大がもたらされることを、各市場参加者は意識していないだろうが、市場が「見えざる手」により織り込んでいる過程であるととらえている。だとすれば、昨今の株高傾向はまだしばらく続く可能性を考えないわけにいかないだろう。

短期的に日銀が超大規模緩和策の微修正に動く公算

 ただし、日本では短期的にそれに水を差す要因が見られる。多くの市場参加者は日銀が現行の「異次元的」と銘打った「キチガイじみた」超大規模な金融緩和策に変更はないと思い込んでいるが、本当は日銀はその微修正に動くタイミングを見計らっていることがうかがわれる。最近、外為市場ではユーロ高とともに円高気味に推移しており、主要通貨のなかではドル独歩安のような状態になっているが、その背景にはやはり市場の「見えざる手」によりこうしたことを織り込んでいる動きである可能性を考えないわけにいかない。

 今、安倍政権は「デフレ脱却宣言」を出すタイミングを見計らっている。11月のコアベースの全国消費者物価指数(CPI)の前年同月比の上昇率が0.9%にまで高まってきているなかで、首相官邸では目標値を「現実に合わせて」1%に引き下げたうえで、それを高らかに宣言しようというわけだ。そうすることで、経済政策「アベノミクス」が成功したことを内外に示そうとしている。ただし、米国ではFRBが緩やかな利上げを推進していく姿勢を示しているなかで、トランプ政権はドル高是正を目指すうえでECBに対しては量的緩和策の縮小に動くように求めているが、多くの中央銀行がいっせいに金融緩和策の正常化に動くと信用収縮が強まりかねないので、日銀だけには現行の超大規模な緩和策を継続するように求めている。このため、日銀はコアCPIを対象とする物価目標値を従来通り2%で据え置くことで、現行の超大規模な緩和策を継続する見込みだ。

 ただし、安倍政権がデフレ脱却宣言を出すにあたり、財界に賃金を3%以上引き上げることを要請しており、製造業を中心に多くの代表的な大企業はこれに従うつもりでいるようだが、問題は銀行業界だ。銀行業界は日銀がイールドカーブ・コントロール(YCC)により長期金利が0.1%を下回る水準で推移していることから預貸ザヤがほとんどない状態にあることや、日銀に預ける当座預金の付利金利がマイナス状態に引き下げられていることから、地方銀行を中心に業績が低迷している。それに加え、80年代後半から90年代初頭のバブル期に大量に採用した行員が現在では50歳代前半にさしかかっており、人件費の高止まりにも苦しんでいるため、とても3%もの賃上げを実現できる状況にはない。そこで日銀の執行部が安倍政権の意向を「忖度」して、YCCを小幅引き上げてイールドカーブをわずかにでもスティープ化させたり、付利金利のマイナス状態を解消するといった現行の超大規模緩和策の微修正に動こうとしているようだ。最近、金融緩和策を過度に推進すると銀行に打撃を与えてしまい、金融仲介機能が阻害されて逆効果になるといったリバーサルレートの議論が出てきた背景には、そうした事情がある。

 最近、米国経済が好調に推移しており、株価も高騰しているにもかかわらず、ユーロ高とともに円高圧力も強まっていることでドル独歩安傾向になっているのは、市場がそうしたことを織り込んでいる可能性がある。とはいえ、日銀が短期的に政策変更しようとしているのはあくまでも微修正に過ぎず、基本的には超大規模な金融緩和策をしばらく継続していくことに変わりはない。一方で、米国ではFOMC委員が今年のFRBの利上げは昨年と同様に3回になるとの見通しを示しているにもかかわらず、賃金がなかなか上がらず、インフレ率も低迷していることから容易にそれを織り込もうとしなかった。とはいえ、ここにきて良好な米景気指標の発表が相次いでいることや株高傾向を受けて、年内に3回もの利上げが行われるとの見通しが45%程度にまで高まってきている。このため、ドル・円相場の軟化傾向は長続きせず、じきに上昇傾向に転じておかしくない。

(2018年1月18日、記)