永山卓矢の市況取材ノート

筆者のブログにはより詳しい解説がされているので、是非ご覧ください。 永山卓矢の「マスコミに触れない国際金融経済情勢の真実」

http://17894176.blog.fc2.com/

ポイント

  • 昨年末までは米債券市場では利上げ中止を織り込んでその通りになり、最近ではトランプ税権のFRB攻撃から利下げを織り込んで逆イールド化が一段と鮮明になっていた。
  • トランプ政権の背後のナチズム系の勢力がFRBを攻撃しているのは、米金融政策の主導権を主要国・地域の中央銀行を実質的に統括、管理してきたG30から奪い取るためだ。
  • 米国経済が潜在成長率並みの成長軌道を維持しているなかでFRBがハト派的な政策を推進すれば株高や米景気がもう一度浮揚しやすくなるが、長期的にドルの信用は失墜へ。

トランプ政権によるFRB攻撃の目的と影響を考察する

株価が再上昇に向かい為替はレンジ内の動きを継続

 国際金融市況はリスク選好が強まりだして株価が底堅く推移しており、米国株はダウ、ナスダックともに昨年10月初旬の史上最高値に迫ってきている。

 米株価は昨年10月初旬から年末にかけては、FRBがタカ派的な金融政策姿勢を続けていたなかで、世界経済の減速懸念が強まったことからリスク回避が強まって急落した。中国で景気失速懸念が高まったことがその震源となり、それが周辺のアジア諸国や、ドイツの輸出悪化からユーロ圏経済にも波及したことによるものだ。ただ、年明けにパウエルFRB議長が連日、積極的にハト派的な発言を繰り広げ、それに他のFOMC委員も同調していったことでリスク選好が強まり出していった。

 その後、株価は上値の重い展開になったものの、最近では世界経済の減速懸念が後退したことから再び強調地合いになりつつある。中国では3月31日に財新、翌4月1日に国家統計局による製造業購買担当者景気指数(PMI)が大幅に上昇して一気に好不況の分かれ目となる50の水準を突破したことや、足元でも17日には1-3月期の実質GDP成長率が前年同期比6.4%と事前予想を上回った。またユーロ圏の中核であるドイツ経済についても、16日に発表されたZEW景況指数が予想をかなり上回る良好な内容になり、底入れしていく兆しが出ている。ここにきて株価が再び上昇しつつあるのは、そうした情勢を映してのものだ。

 一方で、外国為替市場では株価に比べると動意薄の展開を強いられている。特にドル・円相場は1ドル=111円台を中心に極めて安定した動きを続けており、リスク回避が強まる局面では円高圧力から下押しても110円台で支えられる一方で、リスク選好が強まっても112円台に乗せると上値を抑えられている。それに比べるとユーロ・ドル相場の方がやや動きが見られるとはいえ、大きく広めに見ても上値を1ユーロ=1.14ドル台、下値を1.10ドル台とするレンジ内での推移が続いている。米欧間の景況感格差からはユーロ安・ドル高が進んでおかしくないはずだが、レンジ下限を割って崩落していく兆しが見られない。

 どうしてこうした状況になっているかというと、トランプ政権が昨年7月6日に第一弾となる制裁関税を発動して以来、中国に貿易戦争を仕掛けているなど保護主義的な政策姿勢を推進していることで、ドル高が進むことを嫌っていることを市場が警戒していることがあるのだろう。ただ為替相場が中期的には当該国の実質金利差で動く性格が強く、それは両国の中央銀行の金融政策から大きな影響を受けていることを考えると、米債券市場が重要なカギを握っている感がしないでもない。期間別の利回り格差の推移を示すイールドカーブが不自然な逆イールド状態を形成する状態が続いており、それに他の金融市場も影響を受けていないわけがないからである。

米金融政策の主導権の奪取を目論むナチズム系の勢力

 米債券市場では昨年半ば以降、FRBが緩やかながらも利上げを推進していくタカ派的な姿勢を示していたにもかかわらず、利上げ打ち止めを先取りして動いたことから、5年債利回りが3ヵ月物金利を下回る状態が続いた。年明け以降、FRBが利上げ休止――事実上の打ち止めに動かざるを得なかったので、市場の期待に実勢の動きが追随する形になった。ところがその後、株価は順調に反発してきたものの、トランプ大統領がFRBへの“口撃」を再燃するようになったのを背景に、将来的に利下げに動くことを織り込んで長期債が買い進まれたことから、長期金利の指標とされる10年債利回りまでもが3カ月物金利を下回り、逆イールド化が一段と鮮明になった。大統領はFRBに来年にかけて0.5%の利下げを求める姿勢を示しただけでなく、量的緩和策にまで言及するようになっている。さらにそれに加え、空席となっている二つのFRB理事のポストに自身の腹心を送り込む意向を示していることで、利下げ観測に拍車がかかることになったものだ。

 名前が挙がった2人の理事候補うち、ムーア氏は保守系シンクタンクのヘリテージ財団の客員研究員ではあるが、本職はサプライサイド経済学であり金融政策は専門外だ。もう1人のケイン氏にいたっては元ピザチェーンの経営者であり、「ド素人」も甚だしいと言わざるを得ない。当然のことながら、こうしたトランプ大統領の意向に対して野党民主党が猛反発しているだけでなく、与党である共和党内からも反発が出ている。いかに承認権がある上院では共和党が過半数を占めているとはいえ、承認を得られるか微妙な状況であり、おそらくケイン氏は得られないだろう。とはいえ、トランプ大統領がこうした意向を示すこと自体、FRBを牽制したり市場に影響を与えるには大きな効果が見込めるものだ。ましてや、実際に理事に就任させることができれば、このポストはつねにFOMCで投票権を握るだけに、FRBの金融政策に大きな影響をもたらすのは間違いない。

 どうしてトランプ大統領が露骨にFRBを圧迫する姿勢を強めているのかというと、景気悪化を食い止めて来年の大統領選挙で再選を目指すためであるといった論調が支配的だが、それ自体は確かに正しいとはいえ、それは本当はあまり重要な問題ではない。それより重要なのは、米国の世界覇権が斜陽期に転じたなかで主導権を握った親イスラエル右派的で国家主義的、民族主義的なナチズム系の権力者層が、その覇権運営システムを破壊して軍産複合体を中心とする親イスラエル左派的で社会主義的、リベラル的なコスモポリタン系の勢力から権力を奪い取るにあたり、金融政策を運営しているFRBもホワイトハウスに従属させようとしていることだ。

 世界中の主要先進国のほぼすべての中央銀行は欧州ロスチャイルド財閥が設立しただけに、今でもその株主構成ではその大部分を握っている。米国の中央銀行であるFRBも例外ではなく、米ロックフェラー財閥も主要な株主ではあるが、やはり大部分はロスチャイルド財閥で占められている。とはいえ、FRBでは議長、副議長や理事といったポストが、日銀でも総裁、副総裁や金融政策を決める際に投票権を握っている審議委員といったポストは、大統領や首相といった行政権の首長が使命して議会で承認を得ることでその地位に就いているので、近年では覇権を握っているこの米系財閥が強力な影響力を行使してきた。表向きその弊害を除去するために中央銀行の独立性が謳われ、現にそれが明文化された法律も制定されてきたが、実際には世界中の主要国・地域の中央銀行の金融政策を実質的に統轄、管理してきたグループ・オブ・サーティ(G30)が直接人材を送り込むなり、その影響下にある人物をそこに就けてきた。

 そのG30こそが英国のフェビアン社会主義協会の直系であり、米ロックフェラー財団から多額の寄付を得ることで運営されている英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の系列の人材が主導権を握っている国際通貨マフィアの会合である。いわばこのG30は、世界覇権国の米国でつい最近まで「世界皇帝」として君臨した米系財閥の総帥デイヴィッド・ロックフェラーの金融面での「直臣」たちで構成されているわけだ。

 米系財閥でもその本流の家系は英国から米国に覇権がシフトする過程で、それまで主導権を握っていた欧州系財閥からその地位を引き継いだだけにコスモポリタン的な性格が強い。つい最近まで米国では軍産複合体を中心とする親イスラエル左派的なコスモポリタン系が主導権を握ってきたのはこのためだ。しかし、08年のリーマン・ショックによる巨大な金融危機とその後の激しい景気の落ち込みを経て、米国の覇権がそれまでの絶頂期から斜陽期に転じたなかで、その主導権がナチズム系に移っている。16年の大統領選挙で軍産複合体が推していたクリントン元国務長官を、ナチズム系が支持していたトランプ現大統領が破ったのはこのためだ。

 トランプ大統領を押し立てて米ホワイトハウスで主導権を握ったナチズム系の勢力は、FRBを介した金融政策の主導権もG30から奪い取ろうとしている。そこでまず、G30の幹部として送り込まれてイエレン前議長の下でFRB執行部で主導権を握っていたフィッシャー前副議長を追放した。そのうえで、金融法制の専門家としてオバマ前政権下でFRB理事に起用され、本来的に金融政策には「素人」であるはずのパウエル現議長をその地位に就けることで影響力を行使しようとしてきた。とはいえ所詮、この人物はトランプ大統領やその背後のナチズム系の権力者層とは異なる人脈であるだけに、必ずしもその意向に従って金融政策を運営するわけではなく、FRBやFOMCの会合で影響力を行使しているG30やウォール街の金融資本の影響を受けやすい。そこで今、トランプ政権やその背後の権力者層は利下げを要求したり、新任の理事にその周辺の人脈を送り込む姿勢を強めることでG30の勢力を牽制し、そこから米国の金融政策の主導権を奪い取ろうとしているのである。

もう一度株高や米景気が浮揚し長期的にドルの信用失墜へ

 いうまでもなく、米ナチズム系の権力者層がFRBの支配権を握ることは、米国をはじめとする世界経済や国際金融市況に重大な影響を及ぼす。米国経済は昨年10-12月期には株安による逆資産効果で、年明け1-3月期には強烈な寒波が襲来したことで実質GDP成長率が減速したが、あくまでも一時的な要因でしかない。これから大規模減税政策も剥落していくことで昨年4-6月期のような4%台の高成長の再現は期待できないものの、それでも依然として2%台の潜在成長率並みの成長軌道を維持していると思われる。にもかかわらず利下げに動き、量的緩和策まで再開されれば再び株価が勢いよく上がりやすくなり、それとともに中国をはじめとする新興国経済の悪化も遠のくとともに、もとより底堅く推移していた米国経済も過熱しやすくなる。米国経済は今年後半には再浮揚していくとともに株高やドル安が進みやすくなり、リスク選好からそれ以上に円安が進行しやすくなるだろう。ドル・円相場は足元では日米通商協議が始まったなかで、米国側が為替条項の挿入を求めてくるとの観測から円高懸念がくすぶっていることが上値を抑えているが、じきにそうした懸念が剥落するにつれて上昇しやすくなると予想される。

 戦後の米国経済を概観すると、長期にわたり景気拡大が続いてから株価が急落して信用不安に見舞われても、主要国の中央銀行がそれに対処して強力な金融緩和策を推進することで、信用不安の後退とともにもう一度資産価格の高騰とともに景気が浮揚していくものだ。そこで資産価格が大天井を打つことで実体経済も景気後退(リセッション)に陥り、それに対処するために中東で戦争を引き起こすことで軍需を創出することで底入れの足掛かりをつかむという法則がある。例えば、87年10月19日にブラックマンデーにより米株価が急落した際には、日銀が強力な金融緩和策を推進することで日本でバブル経済化が盛り上がることで難局を乗り切り、米国経済がリセッションに陥ったのは90年7月のことだった。90年代のニューエコノミーバブルによる景気拡大の際には、98年8月のロシア危機が米金融市場にも波及して秋には大手ヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が破綻したことで信用不安に見舞われたが、「コンピューター2000年(Y2K)問題」を煽って先進各国・地域の中央銀行に流動性供給策を強化させたことでもう一度株価が高騰していき、最終的にリセッションに陥ったのは01年3月だった。こうした法則性のようなものを考えると、米株価はこれから再び高騰していくことで米景気も拡大傾向が続いていき、リセッションに陥るのは東京オリンピックを過ぎる21~22年頃になると予想される。

 ただし、トランプ政権を介してナチズム系の権力者層がFRBにハト派的な政策を推進させれば、もう一度株価の高騰とともに景気が再拡大に向かっても、より長期的には基軸通貨としてのドルの信用が低下していくことになる。G30の最高幹部の一員としてFRB執行部に送り込まれたフィッシャー前副議長がタカ派的な金融政策を推進したのは、中国をはじめ米国の世界覇権の維持に向けて脅威になり得る新興国経済を悪化させるためだけでなく、ドルの信用を維持するためでもあったわけだ。ナチズム系の権力者層は将来的に中国に覇権を明け渡すことを前提に動いており、そのために将来的に意図的にドルの信用を悪化させる政策を推進させようとしているわけだ。この勢力はあくまでもこれから覇権を握っていく中国に対し、国有銀行や代表的な国有企業を破格の安値で買収していくことで「寄生虫」のごとく中国そのものを「蚕食」していき、「一帯一路」構想に乗ってグローバル規模で利権を獲得していくことなのである。

(2019年4月18日、記)

ポイント

  • 株価は米中貿易戦争での合意期待が一因となって上昇してきたが、中国側が大規模な輸入の増大を提唱しているものの、構造問題や罰則規定での対立から合意できない可能性も。
  • 中国経済は技術盗用の限界の露呈など構造的な要因から悪化している面もあるが、FRBがハト派的な金融政策姿勢を推進するなかで、経済対策の効果もあり今夏頃から回復か。
  • ECBは理事会でGDPやインフレ率の見通しを大幅に引き下げたが、新たな資金供給策として打ち出された銀行への貸出制度の再導入はその実効性に疑問符が付くものだ。

当面は期待先行の反動で調整入りも年後半にはリスク選好に回帰か

 国際金融市場では、昨年末にかけて世界経済の減速懸念の高まりや米中貿易戦争が警戒されたこともあってリスク回避が強まって株価が崩落したが、年明け以降、株価が反発している。一方で、外国為替市場では方向感が見られず、特にドル・円相場は1ドル=111円台を中心に小動きを続けている。ユーロ・ドル相場はそれに比べると値動きが大きいとはいえ、1ユーロ=1.1ドル台後半から1.4ドル台前半でのレンジ内での動きを継続している。ただ、足元では19~20日に開催されたFOMCで一段とハト派的な姿勢が打ち出されたことからドル安圧力が強まっており、ドル・円相場は下放れを、ユーロ・ドル相場は上放れをうかがう展開になっている。

 年明け以降、リスク選好が回復し始めたのは、パウエル議長が積極的に利上げの中止を表明するなどFRBがハト派的な姿勢を見せるようになったからだ。また特に最近では、米中貿易戦争で今月1日までとされていた実務者間の協議の期限を過ぎると米政府が第4弾の制裁関税の導入に踏み切るとしていたのを、トランプ大統領がその延期を表明したうえで、合意に向けて繰り返し楽観的な見通しを述べていることが好感されている。さらに世界経済の減速懸念を高めている主因は中国経済がかなり悪化していることにあるが、今月5~15日に開催された全国人民代表大会(全人代)では、初日の政府活動報告や閉幕後の会見で、李克強首相が積極的に経済対策を打ち出す姿勢を見せていることが好感されている。しかし結論から先に言えば、これらの要因でリスク選好が強まりだしているのは期待先行の域を出るものではなく、あまりに過大評価されていると言わざるを得ない。

米中貿易協議では構造問題や罰則規定を巡り合意できない可能性も

 このうち米中貿易戦争については、米国側ではトランプ大統領やムニューシン財務長官、クドロー国家経済会議(NEC)委員長が盛んに協議が順調に進んでいるといったメッセージを発しているが、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表はそれに否定的な見解を述べている。当初、3月中にも習近平国家主席が訪米して行われるといわれていた米中首脳会談が4月以降にずれ込む可能性が高まっているあたり、まだ米中間で合意に向けてまとまりつつあるといい得るには程遠い状態にあるのだろう。中国側が貿易不均衡の是正問題で大幅に譲歩する代わりに、外資系企業からの技術移転の強要の禁止や知的財産権の侵害への規制の強化、さらにはハイテク強国化政策「中国製造2025」の見直しや国有企業への補助金支給の停止等の構造面での米国側からの要求をかわそうとしているといわれているなかで、ライトハイザー代表はじめ米国側でも強硬派の間では中国側の譲歩が不十分だと映っていることは明白である。特に合意違反があれば米国側が一方的に制裁関税を再発動できる「罰則規定「を巡り対立が激化していることがいわれており、まだ予断を許さない状況だ。

 米国側が執拗に強硬に構造問題での抜本的な譲歩を求めているのは、軍産複合体に代表されるコスモポリタン系の勢力がそうした姿勢を後押ししているからだ。この勢力は米国の世界覇権の維持を目指すにあたり、それに挑もうとしている中国を撃滅しようとしていることがその背景にある。そこでこの勢力は中国に対してトランプ政権が構造問題の解決を棚上げにし、中国側が米国からの輸入を大規模に増大させることで貿易不均衡の是正を目指すことだけで妥協することを危惧している。

 これに対し、トランプ大統領が盛んに中国との協議の行方に楽観的な見通しを相次いで披露しているのは、中国側が20年の大統領選挙で再選されるのを前提に、大統領の任期の最終年である24年までに対米貿易黒字をゼロにすることを目標として、それまでに6年間で米国から1兆ドルもの輸入を増やすことを決めたことで満足しているのかもしれない――すなわち、大統領の「頭の中」には本当は貿易不均衡の是正以外に関心がないのかもしれないということだ。ただし、その背後で主導権を握っているナチズム系の権力者層はあくまでも将来的に中国に覇権を明け渡すことを前提に動いており、国有銀行や代表的な国有企業を米系資本が獲得していくことで中国そのものを「寄生虫」のごとく「蚕食」していき、そのうえで「一帯一路」構想に乗ってグローバル規模で利権を獲得していこうとしている。そうした観点からは、この勢力としてはもとより中国に対して構造改革を要求する姿勢が、敵対しているコスモポリタン系に比べるとそれほど強くないのは言うまでもないことだ。

 とはいえ、2月27~28日にベトナム・ハノイで開催された米朝首脳会談では、事前の予想ではトランプ大統領が北朝鮮側が寧辺(ニョンビョン)の核施設を解体するだけで制裁の一部解除で合意するとの見方が有力だったが、結果は事実上の決裂となった。これはトランプ大統領が拡大会合で共和党系新保守主義(ネオコン)派の超強硬派として知られるボルトン大統領補佐官を前面に出したからだ。ボルトン補佐官は従来から「完全かつ検証可能で不可逆的な核放棄(CVID)」を一貫して求めていた経緯がある。この人物が交渉の前面に出たことで、米国側は北朝鮮側に対し、寧辺だけでなくすべての核施設や研究所、ミサイル発射場のリストを求めて完全に廃棄したうえで制裁を全面的に解除すると主張したことで合意できなかったのである。これは明らかに在韓米軍の撤退に抵抗している軍産複合体がかねがね主張していたものであり、会談の当日に米議会(下院)で元顧問弁護士のコーエン氏が召喚されて重要な証言が行われたことで、揺さぶりをかけられたトランプ大統領が追い詰められていたことが影響したことは当然考えられるだろう。

 こうした事例を考えると、米中間の貿易協議でも中国側が米国からの大規模な輸入の増大や人民元相場の切り下げの禁止を受け入れても、肝心の構造問題への取り組みや罰則規定の導入に向けて妥協できず、合意できない可能性があることに留意する必要がある。また合意しても市況には既にそれがかなり織り込まれているはずなので、株価にはそれほど強材料にはならないだろう。いずれにせよ、足元ではかなり期待先行で株価が上昇してきた面があるだけに、じきに応分の調整局面入りが避けられないのではないか。そうした状況になると外為市場ではリスク回避から円高圧力が強まる公算が高く、ドル・円相場は1ドル=108円程度までの調整があっておかしくない。ただし、年明け3日に米アップルの売上見通しの下方修正を機に104円台まで一気に暴落したが、それはあくまでも「イレギュラー」な動きであり、そこまで下がるとは思えない。

中国経済はFRBの金融政策姿勢に支援されて今夏頃に回復へ

 もう一つの中国経済の動向については、昨年の実質GDP成長率が公式発表では前年比6.6%とされているが、誰もそれを信じておらず、筆者は本当はマイナス成長にまで落ち込んだと見ている。さらに年明け以降の状況についても、今月14日に発表された1~2月の鉱工業生産高の前年同月比の伸びは5.3%と、昨年12月の同5.7%はおろか事前予想の同5.5%をも下回った。一方で、固定資産投資が同6.1%と減速しているとはいえ予想の同6.0%を上回ったあたり、公共インフラ事業による下支え効果が出ていることをうかがわせる。それでも全体の工業生産高が予想を上回るペースで落ち込んでいるのは、既に民間企業ベースでは以前から失速状態に陥っていたなかで、それまで全体の経済活動を下支える役割を担っていた輸出が昨年末頃から急速に落ち込んだ影響があると思われる。その背景には、米中貿易戦争による影響もさることながら、それ以上に中国経済が外資系企業から技術を盗用(パクリ)することで発展してきたなかで、先進国へのキャッチアップ過程を終えて構造的に大きな壁にさしかかっていることをうかがわせるものであり、極めて構造的な要因によるものと考えられる。実際、最近の中国経済の成長要因を分析した学術報告では、技術進歩の発展度合いを示す「全要素生産性(TFP)」がマイナスの伸びになっているといった報告があるほどであり、ソ連末期の状況に似てきたといえなくもない。

 中国政府は今回の全人代で減税や手数料関連で2兆元もの引き下げ措置を打ち出すとともに、地方債の発行枠を前年から8,000元拡大し、シャドーバンキング(影の銀行)への規制も緩めることで、地方政府が公共インフラ事業を打ち出すにあたり資金調達面で支援していく姿勢を打ち出した。さらに金融政策面でも積極的に預金準備率を引き下げていき、状況によっては利下げにも踏み切る意向を示している。米国では年明け以降、株価が反発してきたのを受けて、FRBではハト派だけでなく中間派の一部のFOMC委員までもが条件付きで利上げの再開を探る姿勢を見せていたが、パウエル議長の姿勢に見られるように、トランプ政権で主導権を握っているナチズム系の権力者層がそれを抑え込んでいる。実際、今回のFOMCでも、バランスシートの縮小措置については終了に向けた計画が示されることは事前に予測されており、実際にそれが5月から減速を開始して9月に終了するといった具体的な日程が示されたものだ。ただ、委員の今後の利上げ見通しの平均値であるドットチャートでは、20年の見通しが1回で据え置かれたものの、年内については11人がまったく利上げをしないと予想しているのは、それまでの委員の発言内容からすればハト派的だったといえるだろう。そうしたあたり、かなり権力者層の意向を受けたパウエル議長率いるFRB執行部に多くの委員が抑え込まれている様子がうかがえる。こうしたFRBのハト派的な金融政策姿勢に支えられて資金が中国市場に向かうことで、今夏頃から中国経済はある程度回復していくのではないか。おそらく、その回復ペースはかなり鈍いものになる可能性が高いとは思われるが、それでも中国経済悪化の要因が剥落することは、FRBがハト派的な金融政策姿勢を推進しているなかで、リスク選好を強めるのに大きな影響を及ぼすだろう。

 こうしたことを考えると、国際金融市況では米中貿易戦争への楽観的な期待が剥落するにつれて、今年半ばにかけてリスク回避が強まり、株価が下落しても一時的なものにとどまるだろう。今年後半にはリスク選好が回復していくことで株価も再び上がりやすくなると思われる。それとともに外為市場では今年半ばにかけて円高圧力が強まっても調整局面にとどまり、今年後半にはリスク選好への回帰から株高とともに円安圧力が強まりやすくなり、ドル・円相場は日米金利差の観点からは上がりにくい状況になっても、それ以上に円安圧力が優ることで堅調に推移していくことが見込まれる。

ECBが打ち出した資金供給策は実効性に疑問符が付く

 最後にユーロ・ドル相場に影響を及ぼすECBの金融政策について述べておく。今月7日に開催されたECB理事会では、声明で今年のユーロ圏域内GDP成長率の見通しが前回の1.7%から1.1%に、インフレ率も1.6%から1.2%に大幅に下方修正された。民間機関の予測数値ならともかくとして、通常では一気に大きく修正することは慎重であるはずの公的機関がこうした見通しを発表したのは、いかに経済状況が悪化しているかを示唆するものだ。実際、ユーロ圏3大国の状況を概観しても、イタリアではもはや完全にリセッションに陥っており、輸出主導の経済構造であるドイツでも中国向け輸出の激減からリセッション入りがささやかれる状況だ。フランスでも連日、「黄色いベスト運動」によるデモ活動に悩まされており、経済状況が極めて悪い。こうした状況では、いかにスペインやポルトガル、東欧諸国がそれなりの成長率を記録しても、ユーロ圏全体の成長率は0%台の水準に向けて一段と下方修正されておかしくない。

 また今回の理事会ではフォワードガイダンスが修正され、これまでは19年夏頃までは利上げをしないとされていたのを年末までに延長された。さらに新たな資金供給策として、期間2年の第3弾となる貸出条件付き長期資金供給オペレーション(TLTRO)を打ち出し、9月に開始することも決めた。このうち、利上げ開始の時期を来年初以降に延期したのはともかくとして、第3弾のTLTROの導入についてはやや説明を要する。この政策は中央銀行であるECBが資産を膨らませて資金供給するという意味では、国債その他の資産を買い入れる量的緩和策と変わらない。買い入れることで無条件に資金を供給するのではなく、返済期限を設定して貸し出すだけなので、厳密には量的緩和策の範疇に入れていないに過ぎないものだ。問題なのは、この資金供給策はその使途として銀行が貸し出しに回すことがその条件になっていることであり、実体経済が冷え込んでいるなかで銀行が容易に貸し出しに回せる状況でないのは言うまでもないことだ。

 にもかかわらず、どうしてECBが今回、こうした政策を打ち出したかというと、経済実態が一段と落ち込んできたことで金融緩和策に回帰しようとしても、通常の資産買い入れによる量的緩和策が物理的、技術的な観点から困難であるからだ。これは日銀も国債を買い入れる規模を減額する代わりに長期金利の誘導目標水準を設定する「イールドカーブ・コントロール」を16年9月に導入したように、買い入れる国債が絶対的に不足しているからであり、特にユーロ圏ではドイツが健全財政政策に固執しているだけになおさらである。

 またECBは今回、この政策を再導入するにあたり、16~17年に第2弾となる同様の政策を実施して7,000億ユーロの資金を供給したが、その満期を迎える際に、イタリアをはじめとする銀行が資金繰りに支障を来すことがないようにといったことをその名分に掲げていた。しかし、その満期が到来するのは20年6月以降のことであり、1年以上も前からこうした政策を決める(開始されるのは9カ月前)のはいかにも早すぎるといわざるを得ないものだ。ECBとしては本当は量的緩和策を再開することを望んでいるにもかかわらず、技術的な問題からそれが実現不可能であるため、「苦肉の策」として今回の政策が打ち出されたのは明らかである。

 このように、ECBが今回、打ち出した資金供給策は実効性に疑問符が付くものであり、それはこの政策が公表された直後の市場の反応に表れていたものだ。それは理事会の会合が終わった後に公表された声明を受けて欧州の株価が総崩れになったが、特に伊ウニクレディトはじめ銀行株の下げがきつかったのにそれが見て取れる。それはGDP成長率やインフレ率の見通しが大幅に下方修正されただけでなく、資金供給策に対する失望が強かったこともあるのはいうまでもないことだ。いわば、今回のECBの金融緩和策への回帰として打ち出された資金供給策は、景気が悪化してももはや有効な緩和策が限られている現状の先進国・地域の中央銀行に共通に陥っている状況を示唆しているともいえるだろう。9月にこの資金供給策が開始された後、その実効性がないことが明らかになっても実体経済が思うように浮揚していなければ、いよいよドイツが憲法を改正して積極財政政策に転じ、それにより増発される国債をECBが引き受けることで本格的なリフレ策を打ち出すことが求められることになる。

 ただし、それまではECBが有効な金融緩和策を打ち出すことができないため、FRBがハト派的な姿勢を続けることでリスク選好が強まっていけば、対ドルでユーロ高圧力が強まる可能性がある。また、これから米国とEUとの間で通商協議が開催されるなかで、トランプ政権がEUを中国とともに意図的に自国通貨を引き下げていると名指しで批判しており、ユーロ安が進み過ぎると米政府から反発が強まりやすいことも指摘できるだろう。

(2019年3月21日、談)

ポイント

  • 米国経済は消費主導の経済構造であるだけに、米小売売上高が大幅なマイナス状態になったことで、利上げ再開を目論むFOMC委員の間ではシナリオが狂う状況になっている。
  • 中国経済の失速は輸出が急速に鈍化したことが大きく、その背景には外資から技術盗用に依存した経済構造の限界が訪れたことがあり、極めて構造的な要因によるものである。
  • 中国経済失速で欧州経済も低迷するが、米トランプ政権の牽制から過度のユーロ安は抑制へ。日米金利差で円安に、リスク回避でもFRBのハト派姿勢でリスク選好から円安に。

国際金融市況に影響をもたらすFRBの政策姿勢と中国経済の動向

 国際金融市場では昨年末にかけて米中貿易戦争の激化や、中国やドイツをはじめとする欧州等での世界経済の減速懸念からリスク回避が強まり、12月18〜19日のFOMCでタカ派的な金融政策姿勢が打ち出されたことからそうした傾向に一段と拍車がかかって株価が急落した。しかし年明け以降、パウエルFRB議長が積極的にハト派的な発言を続けると、タカ派的な論者も含めて他のFOMC委員がいっせいにそうした姿勢に倣った発言を繰り広げたことから反転上昇している。

 そうしたなかで、外国為替市場では年初でまだ東京市場が休場中だった1月3日の早朝で超薄商いの時間帯で、中国での販売不振からアップルが売上高の下方修正見通しを出したのを機に仕掛け的な円暴騰劇が起こり、ドル・円相場は瞬間的に1ドル=104円83銭まで暴落した。しかしすぐに急速に戻していき、足元では110円台を中心に安定的に推移している。他方、ユーロ・ドル相場は年初には1ユーロ=1.14ドル台で推移していたのが、足元ではユーロ安圧力から1.13ドルを割る場面が多くなっている。

小売売上高の大幅なマイナスでFRBの利上げ再開のシナリオが狂う

 米国では1月29〜30日のFOMCでの声明文では、今後の利上げについて「様子見」するとの表現で一時的に停止する姿勢が打ち出された。しかし、株価が年初から上昇してきたなかで、クリーブランド連銀のメスター、カンザスシティ連銀のジョージ両総裁といったタカ派的な委員を中心に、米国経済が想定通り堅調な状態が続くようなら利上げ再開を模索するような発言が出てきている。そうしたなかで、フィラデルフィア連銀のハーカー、アトランタ連銀のボスティック両総裁といった中間派の委員からは、米国経済の実質GDP成長率が2.5%程度を維持すれば、年内に1回は利上げに動けるといった見解が示されている。そうした状況を背景に、中間派からタカ派的な市場関係者の間では、株価がこのまま安定的に底堅く推移していき、米国経済も現状での堅調な状態が続くことで、3月19〜20日のFOMCでの声明文で「様子見」との文言が削除され、6月18〜19日のFOMCで利上げ再開に動けるとのシナリオを描く向きが見受けられたものだ。

 ところが、そうしたタカ派的なシナリオに水を差したのが、先週14日に発表された12月の小売売上高が前月比1.2%の減少と、前月や事前予想を大幅に下回るかなりのマイナスの伸びを記録したことだ。米国経済は消費主導の経済構造であり、個人消費がGDPの7割程度を占めているだけに、この指標がGDP成長率に及ぼす影響には実に大きなものがある。現に、アトランタ連銀が算出しているGDP統計モデル「GDPナウ」は正確性で定評があるが、このモデルでは10-12月期の成長率がこの指標が発表される以前には前期比年率2.7%だったのが、発表後には同1.5%に一気に急低下してしまった。それにより、タカ派の間では利上げ再開に向けて目論見が大きく狂う状況になっている。

 ただし、連邦政府が35日間にわたり閉鎖されていたので12月の数値が先週になってようやく発表されたが、当時はリスク回避が強まって株価が急落しており、家計の消費マインドが悪化していた可能性がある。だとすれば年明け以降、株価が反発してきたので、消費マインドが回復していることが期待できる。また、そもそもこの指標は翌月に発表される際に前月分が大幅に修正されることが多いことも含めて、この数値だけで判断するわけにいかない。翌月分の発表分や他の指標の動向も含めて判断すべきだろう。ただ間違いなくいえることは、この指標の内容が思わしくなかったこと自体は株価にはネガティブな要因ではあるが、それによりFRBの政策姿勢がハト派的になるとの見通しが強まれば、それ以上に強材料視されやすいことだ。おそらく、株価はタカ派的な見方が強まったり、3月1日の連邦政府の債務上限停止措置の期限が近づくと米国債に対する債務不履行(デフォルト)懸念が出てくることで下がりやすくなっても、趨勢としては上昇傾向が続くのではないか。

中国経済の失速はパクリの限界による構造的なもの

 問題は中国経済の動向である。欧州経済が悪化しているのも、中核となるドイツ経済の中国向け輸出が大きく落ち起こんでいるのがその主因である。年明け以降、FRBの政策姿勢が急激にハト派的にシフトしたのも、中国経済の動向が世界経済を大きく揺るがす恐れが出てきたなかで、それに配慮する必要が出てきたことがその大きな動機であるだけに、気になるところだ。

 中国の国家統計局は18年の同国の実質GDP成長率を6.6%と発表しているが、誰もそれを信じていない。実際、中国人民大学の某教授が当局が発表している10月までのデータを基に試算したところ、1.67%だったことが話題になっている――ただし、それはあくまでも「表」の報告書に過ぎず、さらに実態を映しているとされる「裏ペーパー」ではマイナス成長になっていたという。中国ではGDP統計の数値があまりに実態とかけ離れていることは「常識」であるが、それ以外の指標データについても正確性が疑問視されているのだから当然である。さらに11〜12月には経済活動が一段と急速に収縮傾向に陥ったことを考えると、筆者は昨年の中国の成長率はマイナス3%程度にまで落ち込んだ可能性すらあり得ると見ている。

 最近の中国関連の経済指標で特に注目されたのが、先週末15日に発表された1月の物価統計だ。そこでは、消費者物価指数(CPI)が前年同月比1.7%の伸びと前月の同1.9%から一段と鈍化していたが、特に生産者物価指数(PPI)が前月の同0.9%から同0.1%と、マイナス状態への転落が目前の水準にまで急低下していたことが巷間で「衝撃」を与えたものだ。これは、民間企業の生産活動が著しく停滞しているなかで、政府が鉄道の敷設をはじめ景気対策としてインフラ公共建設の発注を増額していることで、重厚長大産業を中心とする国有企業の生産活動が活発化しており、鉄鋼やセメント等の供給が増加していることを示唆するものだ。

 中国経済が減速してきたのは今に始まったことではなく、13年5月にバーナンキFRB議長(当時)が量的緩和策の縮小(テーパリング)を示唆する発言をしたことで米国への資本還流が進み、人民元相場に下げ圧力が強まるなど信用不安に見舞われるとともに現在に至るまで続いているものだ。ただし、それにより国内の供給圧力の捌け口を海外に求める輸出ドライブがかかったことや、米国を中心とする多国籍企業が中国沿海部の生産工場で加工組み立て業務を行うグローバル生産体制がそれなりに機能していたことで、輸出は高水準の伸びが続いていた。それが、昨年10月までは輸出の伸びが前年比二ケタ(10%以上)での推移が続いたのが、11月に急減速して12月にはマイナス4.4%とかなりのマイナスの伸びに転落したのが注目される。1月には9%伸びたが、春節を控えた駆け込み的なものといわれており、輸出の伸びが回復したとはいえない。どうして輸出の勢いがこれほど急激に鈍化したのかというと、米国との貿易戦争で中国に対する関税が引き上げられているといった要因だけで説明することは困難である。おそらく、その背景には中国製品に対する世界的な需要が飽和状態に差し掛かりつつあるといった構造的な要因が、より深くそこに根差していると考えられる。

 中国の製造技術の多くは外資系製造業からの技術盗用(パクリ)によるものであるのは今さら指摘するまでもないことであり、日本の製造業企業のように、自ら技術革新に取り組んでより高度な部品や製品を製造する能力が著しく劣ることはよく知られていることだ。もとより中国では共産党による一党独裁体制が堅持されていて自由な市場取引が確立されていないだけに、民間の激しい競争を土台にして育まれる技術革新力のある製造業が育つような政治経済体制ではない。さらに言えば、歴史的、社会的土壌により育まれてきた中国人自身に染みついたあまりに激しい「金銭欲」からは、日本人の間に根付いている「職人気質」が育つわけがないと言える。ましてや、米国の企業が得意とする創造性(クリエイティブ)を要する知識産業に至っては「話にならない」ほどの競争力でしかない。一党独裁体制下で学問や思想、宗教の自由がない社会で、そうした能力を駆使する産業が育つわけがない。

 中国ではこれまで、政府が間違いなく不良債権が累増することになる公共インフラ事業に代表される固定資産投資を抑制し、都市部での個人消費も勢いがなくなってきたなかで、それでもそれなりの経済成長を堅持していたのは輸出の伸びが維持されていたからだ。しかし所詮、技術を盗んで身に付けても独自に付加価値を増す能力を獲得したり、新興産業を興す能力がなければ、日米を中心とする先進国経済にキャッチアップするまではそれなりの成長率を持続できても、それが達成されると著しく鈍化するのは「自明の理」である。これまでの中国の貿易統計での輸出の伸びの推移はまさにこうしたことを物語っているのであり、それが昨年11月に急速に落ち込むとともに経済成長が失速状態に陥ったのも当然である。中国経済が昨年末頃に一段と大きく落ち込んだ背景には、米国との貿易戦争の激化によるものだけでなく、より構造的な要因がそこにあると考えられる。トランプ政権の背後の権力者層の意向で動いているパウエルFRB議長がハト派的な金融政策姿勢に抜本的に転換しておかしくなかったといえる。

一本調子のユーロ安は疑問だがどちらに転んでも円安傾向に

 中国では金融危機に陥ることだけはなんとしても当局が封じ込めることに成功したとしても、これからは一段と成長率が大きく落ち込んでいくことが避けられないとすると、欧州経済もドイツを中心に低成長が続かざるを得ない。ドイツでは憲法での規定により健全財政政策を続けることが義務付けられているが、そうした政策姿勢に対する修正圧力が内外から高まることは避けられないだろう。少なくとも、ECBは今年夏までは利上げに動かないことを「宣言」しているが、ドラギ現総裁の後任総裁の時代になってもそれを開始できるメドは立ちそうもない。むしろ、昨年末で量的緩和策を終了しているが、その再開を検討する局面が到来しておかしくない。ドイツが健全財政政策を維持していることから、ECBは再び国債を買い入れようとしても対象となる資産が不足している状態にあるなかで、ギリシャ危機が他の南欧諸国のソブリン危機に発展した際に採用された長期資金供給オペレーション(LTRO)や貸出条件付き長期資金供給オペレーション(TLTRO)の再開を模索する動きが現実味を帯びてくるのだろう。

 だとすれば、中長期的にユーロ・ドル相場は下降傾向で推移しておかしくないが、必ずしもそうとは言い切れない。通商問題で圧力を強めているトランプ政権が、中国と並んで欧州連合(EU)に対しても意図的に自国通貨安政策を推進しているとして非難しているからだ(そこに日本が入っていなかったのが注目されるが)。トランプ政権は足元では中国と激しく貿易問題で交渉しているが、それが終わればEUと協議を始めることになるだろう。そうした状況では一本調子でユーロ安・ドル高傾向が進むとは想定し難く、折に触れてその揺り戻し圧力が強まっておかしくない。経済ファンダメンタルズや米欧間の金融政策姿勢の相違を映せば1ユーロ=1.10ドル台に向けて下げても、その揺り戻し局面では1.15ドル台に向けて上昇する場面もあるかもしれない。

 これに対し、ドル・円相場は安定的に上昇しやすい展開になるのではないか。日銀が現行の「キチガイじみた」超金融緩和策を継続していくなかで、FRBの利上げ再開観測が強まれば、日米間の金利差の観点から円安・ドル高傾向が進みやすくなる。それだけでなく、3月1日の連邦政府の債務上限の期限に向けて、また時折り中国及び他の新興国、欧州で信用不安が高まれば一時的にリスク回避から円高圧力が強まっても、それによりFRBがハト派的な姿勢を強めることで株価が上昇していけば、リスク選好から円安圧力が再燃しやすくなるからだ。また、昨年9月26日に日米首脳会談が開催された際には年明けにも物品貿易協定(TAG)の交渉が始まると見られていたが、足元では中国との交渉が熾烈を極めており、3月1日とされている期限が延長される可能性が出ていることや、それが終わってもEUとの交渉が優先されると考えられ、日本との交渉は後回しにされそうだ。そうした通商交渉面でも円高リスクが表面化する恐れが後退していることも指摘する必要があるだろう。

(2019年2月21日、記)

ポイント

  • 米中貿易協議では中国側が米国から大幅に輸入を増やすことは受け入れても、米国側が本当に求めている構造問題については中国の国家主権に触れるために合意は期待薄か。
  • パウエル議長はトランプ政権の背後の権力者層の意向で動いているだけに、外交政策が中国との貿易問題から北朝鮮問題に回帰することでハト派的な姿勢を続けていきそうだ。

国際金融市況のカギを握る米中貿易戦争とFRBの金融政策の行方

 国際金融市場では日米の株価が昨年10月3日にダウが史上最高値を、日経平均もその前日に年初来高値を更新してからリスク回避が強まって急落していき、一気に年初来安値を更新してダウは12月24日に、日経平均も25日に底入れした。ダウが史上最高値を記録した10月3日にパウエルFRB議長が「政策金利は中立金利の水準に程遠い」と発言してタカ派的な姿勢を示したことや、米中貿易戦争が激化したこと、さらに中国やドイツを中心とする欧州の経済指標が悪化して世界経済の減速懸念が高まったことがリスク回避を強める要因になった。12月18~19日に開催されたFOMCでは追加利上げの決定とともに、各委員の今後の利上げ見通しの分布状況を示すドットチャートの中心値が19年で2回と前回から1回分しか減っておらず、20年にも1回で据え置かれたことで一段とリスク回避を強めてしまった。

 ただ年明け以降、リスク選好が強まりだして株価が反発しつつある。パウエルFRB議長はじめFOMC関係者が状況により利上げを一時停止する意向を見せたり、一部の委員はその打ち止めを提唱するなど活発にハト派的な姿勢を見せているためだ。また、1月7日から北京で始まった次官級の米中貿易協議が1日延長されて9日まで開催されたことや、トランプ大統領はじめ米中両国がともに協議や3月1日の期限までの妥結に向けて楽観的な見通しを示したことも好感されている。

 外為市場では昨年末に向けてリスク回避が強まり、またそれにより米長期金利が低下したことから円高及びドル安圧力が強まり、ドル・円相場は日本が正月休み中の年明け3日の東京時間で早朝の時間帯の超閑散な状況のなか、瞬間的に1ドル=104円台後半をつける急落に見舞われた。ただその後、リスク選好が次第に回復していくとともに出直っていき、8日には109円超まで反発している。他方、ユーロ・ドル相場は米長期金利が低下する一方で、ドイツでリセッション懸念が高まるなど欧州経済も不振を極めているため、1ユーロ=1.14ドル台を中心にレンジ内での動きが続いている。

中国は対米輸入の大幅増大は受け入れても構造問題の解決は期待薄か

 今後の市況展望をしていくにあたり、FRBの金融政策と米中貿易戦争の行方について概観する。まず米中戦争については、7日から開催された次官級の協議では中国側が米国からの輸入を大幅に増やすことで合意したようだが、既に昨年12月1日にブエノスアイレスで開催された米中首脳会談で1兆2,000億ドルもの輸入を増やすことを表明しており、それ自体に新鮮味はない。おそらく、協議が1日延長されたのは、輸入の規模や品目を詰める交渉をしていたのだろう。焦点はハイテク強国化政策「中国製造2025」の見直しや外資系企業に対する技術強要の禁止、知的財産権に対する取り締まりの強化、国有企業への補助金支給の禁止といった構造的な問題にどこまで踏み込めるかどうかだ。

 既に中国側は「中国製造2025」については中国企業が独占するのではなく、そこに外資の参入も認めることや、知財問題でも司法機関にその専門的な部署を新設することを表明しており、3月5日から始まる全国人民代表大会(全人代)でその制度化を決めるのだろう。ただし、知財問題や技術強要の問題については、表面的にそれを取り締まる制度を決めて新機関を創設しても、そこに実効性が伴わないと意味がない。米国側は自国の企業が被害を受ける際に、それを当事国である中国ではなく米国が取り締まりや司法面での管轄権を握ることや、次善の策として中国側がしっかり守らない場合の罰則規定を設けることを求めているようだ。しかし、これは特に前者についてはまさに治外法権というべきものであり、後者の部分も含めていずれも国家主権を侵すことになるので、中国側が容易に受け入れるはずがない。今後、今月中にも劉鶴副首相が訪米して閣僚級の協議が開かれる公算が高まっているが、構造問題についてはライトハイザー米USTR代表があまり進展していないとの認識を示していると言われている通りだ。

 トランプ政権としては、中国側が輸入を大規模に増やす成果を勝ち取ることで米国経済を支える要因になるとともに、貿易赤字の縮小や国内に雇用をもたらしたとして有権者にアピールすることができる。その一方で、本当に米国側が求めている構造問題については不十分な成果しか得られなくても、それにより世界貿易機関(WTO)がしっかり機能していないことを世界的に訴えることで、米国がそこから離脱して中国を排除した新国際通商協定の発足向けて動く名分を得ることができるわけだ。

米外交政策が北朝鮮問題に回帰してFRBがハト派的な姿勢を推進か

 次に今後のFRBの政策姿勢について考察していく。グループ・オブ・サーティ(G30)の最高幹部の一員としてFRB執行部に送り込まれたフィッシャー前副議長が主導権を握っていたイエレン前議長時代とは異なり、パウエル現議長はトランプ政権の背後で主導権を握っている親イスラエル右派的で国家主義的、民族主義的なナチズム系の権力者層の意向で動いているので、同政権の外交政策の行方が大きな影響を及ぼすことになる。18年前半に多くのFOMC委員が「政策金利の天井」をテーマにハト派的な発言をしたのは、トランプ政権が在韓米軍の撤退を目的に朝鮮半島の非核化や朝鮮戦争の終戦宣言を出すことを目指して優先して動いていたことと密接な関係がある。そのためには戦争の当事国である中国の協力を引き出す必要があったからだ。

 ところが、6月12日にシンガポールで米朝首脳会談が開催されたあたりから、外交政策の方針がその問題を棚上げにして、中国に貿易戦争を仕掛ける路線にシフトした。トランプ大統領が盛んに利上げを牽制することから時折りハト派的に振れることもあるとはいえ、それを機にパウエル議長はじめFRB執行部の姿勢がタカ派的にシフトしたのは中国を脅すためだ。中国は簿外で天文学的な対外債務を負っており、また基軸通貨である米ドルに連動させないと人民元の信用を維持できないなかで、自国通貨がFRBの金融政策の人質に取られた状態にあるからだ。ところが、米国としてはそうした政策を二つの理由からいつまでも続けられなくなる要因が出てきている。

 それは一つには、これまで米国経済はもとより堅調に推移していたなかで、17年末に大規模減税政策を成立させることで一段と高成長に押し上げられ、そうした優位性を背景にナチズム系の権力者層は貿易戦争を仕掛けて中国を圧迫してきたが、ここにきて株価が急落するなどそれが息切れする兆しが出てきたことだ。足元では実質GDP成長率は依然として潜在成長率を上回っているが、減税政策の効果が剥落することもあってこれから減速していくことが避けられず、おそらく大統領選挙を迎える20年頃にはリセッションに陥るだろう。こうした状況では、そろそろFRBの金融政策もいきなりハト派的に転じる必要はないとしても、従来のタカ派色を薄めて中立的に近づける時期を迎えつつあったということが出来るだろう。

 そしてもう一つがこれ以上、中国を苦しめると本当に中国経済が深刻な状態に陥って恐慌化しかねなくなり、それにより体制の維持が難しくなる恐れが出てくるだけでなく、それが欧州経済にも波及することで世界的に経済危機が引き起こされかねないことだ。米国の世界覇権を維持するために中国を撃滅しようとしている親イスラエル左派的でリベラル的な世界単一政府志向のコスモポリタン系とは異なり、ナチズム系としてはそれは望んでいない。中国に覇権を明け渡すことを前提に、あくまでも資本取引を自由化させて国有企業改革を推進させたうえで、米系資本が「寄生虫」のごとく中国そのものを「蚕食」していき、「一帯一路」構想に乗ってグローバル規模で利権を拡大していこうとしている。いわば、ナチズム系とコスモポリタン系とは当面は戦略的に利害が一致していても、根本的に目的意識が異なっている。そうした観点からは、ナチズム系の権力者層としてはそろそろ中国への攻撃の「引き時」だと考えていておかしくない。

 実際、2回目の米朝首脳会談の開催が現実味を帯びてきたように、トランプ政権のアジア極東での外交政策の指針が北朝鮮問題に回帰していく兆しが出ているのにそれが見て取れる。昨年12月1日に米中首脳会談が開催された2週間ほど前に、ナチズム系の最大の大物クラスであるキッシンジャー元国務長官が訪中して、米国との通商問題とともに北朝鮮問題で習近平国家主席に重要な指示を出している。中東ではシリアから米軍を撤退させることが決まり、次はいよいよ極東で在韓米軍を撤退させる道筋をつける番である。

 米中貿易問題で一応の決着がつき、トランプ政権の外交政策が北朝鮮問題に回帰するとすれば、FRBがハト派的な政策姿勢を続けることが予想される。これまで、FRBは米国経済が好調な状態にあることを背景に段階的に利上げを推進する姿勢を示してきたが、そうした情勢になるとインフレ率の動向が安定しているのを背景に、政策金利が中立金利に達したことを強調するようになるだろう。おそらく、足元ではリスク選好が回復しつつあるが、米中貿易協議で90日間の猶予期限を迎える3月1日には構造問題で合意できないことでリスク回避が再燃し、再び株安や円高圧力が強まっておかしくない。その後、今年後半にはFRBの政策姿勢がハト派色を強めることで株高やドル安傾向になっていくことが予想されるが、ドル・円相場はドル安圧力から下げていくのか、リスク選好による円安圧力から上昇していくのかは現時点では判断しにくいところがある。

(2019年1月16日、記)