永山卓矢の市況取材ノート

筆者のブログにはより詳しい解説がされているので、是非ご覧ください。
永山卓矢の「マスコミに触れない国際金融経済情勢の真実」

http://17894176.blog.fc2.com/

ポイント

  • 米国経済の力強い景気回復期待から早期引き締め観測が根強く米長期金利の上昇でドル高が進んだが、FOMC委員の相次ぐ発言からそれが薄れてドル高圧力が後退している。
  • 相次ぐ大型の経済対策の発動により増発される国債を吸収するためにFRBが国債の購入量の増額を決める必要があり、そのために米国内外で信用不安が誘発される公算も。

量的緩和策の拡充を決める環境醸成のために信用不安を誘発へ
― もう一度米長期金利が上昇するとそのトリガーに ―

 外国為替市場ではFRBの金融政策を巡る姿勢が焦点になっている。足元でドル安気味に推移しているのは、FRBの早期利上げ観測が後退し、米長期金利が低下していることによるものだ。

FRBの早期引き締め観測が後退しドル高圧力が薄れる

 年明け以降、新型コロナウイルスのワクチンの接種が始まったなかで、昨年末の段階でトランプ前政権末期に総額9,000億ドルの追加財政出動政策が決まり、バイデン新政権も1兆9,000億ドルの追加対策を打ち出す意向を示したことから、市場では米国経済が勢いよく回復するとの期待が高まった。これまで大規模な新型コロナ禍対応の対策が相次いで打ち出されたことで手厚い失業手当てや現金給付が支給されたにもかかわらず、外出が抑制されるなど経済活動が停止されていたことで、米国の家計の貯蓄率が異様な水準に上昇していた。今後、ワクチンの接種が進んで経済活動が正常化に向かうと、これまでの貯蓄を取り崩すだけでなく株高による資産効果も加わることで、米国経済がこれまでにないほどの高成長を記録することが見込まれている。それによる需要の盛り上がりだけでなく、正常化が進む過程で供給制約の要因も加わることで、一時的にせよインフレ圧力もかなり強まることが想定されている。それにより、年明け頃から市場ではFRBによる超金融緩和策が意外に早期に出口に向かい、利上げの開始も早まるとの見方がくすぶっていた。

 さしあたり、米国経済は2月にはテキサス州を中心とする記録的な寒波に見舞われたことで、一時的にせよ景気回復が鈍化したことを示唆する指標の発表が目についた。しかし3月の指標では好調な状態に回帰するだけでなく、例えばISM製造業景況指数が83年以来の高水準に、非製造業景況指数にいたっては過去最高の水準に達するものが発表されるなど、1月よりさらに活発な状態になっていることを示唆するものが発表されるようになっている。その結果、米長期金利は10年債利回りで3月31日にかけて1.7%台後半に達するまで上昇したことで外為市場でもドル高圧力が強まり、同日にはドル・円相場は1ドル=111円手前まで上昇し、ユーロ・ドル相場も1ユーロ=1.170ドル台まで下落したものだ。

 しかし、米長期金利は4月に入ると低下していき、それとともに外為市場でもドル安に振れやすくなっており、ドル・円相場は足元では108円台後半まで下がっているが、それはFRBの早期利上げ観測が後退しつつあるからだ。FOMCでは委員の中心的な見方として、今年の実質GDP成長率を6.5%と予想しているにもかかわらず、現行のゼロ金利政策が23年末まで続くとの見通しを示している。そこではパウエルFRB議長だけでなく、地区連銀総裁の多くも利上げ開始の前に量的緩和策の縮小(テーパリング)が先行して行われるが、それについてもしばらく取りかかることはないとの姿勢を示している。FRBの二大責務のうち、物価面については以前から、一時的に目標値である2%の水準を上回ってもすぐに引き締め政策に向かうことなく、趨勢的に2%を上回る状態になるまでは超金融緩和策を続ける意向を示していた。さらに最近では雇用面についても、現在では回復してきたとはいえ依然として新型コロナ禍に襲われる以前に比べると850万人もの雇用が失われた状態にあり、それが回復して完全雇用に近い状態に回帰するまでは引き締め政策に転じることはないとの姿勢を明確に示している。ここにきて長期金利が低下してきたのは、それによりFRBの早期引き締め観測が後退したことによるものだ。

米政策当局により作為的に信用不安が引き起こされる

 とはいえ、これから米国経済が急速に回復して高成長を記録するようになるにつれて実際に物価指標が上がっていくと、市場がそれに反応して長期金利が再び上昇しておかしくない。実際、3月の米消費者物価指数(CPI)はコア指数ではまだそれほど上昇していないものの、総合指数では前年同月比2.6%に急上昇している。今後、経済活動が一段と本格化していくとともに物価指標がさらに上昇していくものが相次いで発表されると、債券市場ではそれに反応して再び売り圧力が強まり、長期金利が上昇していくことが予想される。とはいえ、FRBがそれでも利上げやテーパリングに動かないことが再確認されていけば、ドル高圧力が強まっても長続きしないだろう。ドル・円相場でもユーロ・ドル相場でも、3月31日の高値及び安値付近で止まればダブル天井やダブル底が形成されることで、基調の転換を確認しやすくなる。

 気になるのは、もう一度長期金利が上がると信用収縮が強まることで、対外的には資金還流が進んで新興国通貨不安が起こりやすくなったり、米国内でもヘッジファンドの経営不安が再燃しやすくなりかねないことだ。前者については、特に中国では外交・安全保障関連では米国はじめ民主主義陣営との対立が強まっているなかで、国内では不良債権がさらに積み上がってきている。13年4~5月にバーナンキFRB議長(当時)がテーパリングを開始することを「宣言」して以来、理財商品の償還問題が高まったのをはじめたびたび中国不安が高まったのが想起される。現在では以前にも増して銀行の不良債権が累増しており、その融資先には以前には民間企業が多かったのが最近では国有企業が増えていることで、ここにきて四大銀行でそれが目立って増えているだけに要注意だ。

 米国内で注意すべきなのが、3月下旬に投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントが破綻したことで一時的に市場が動揺したが、その予備軍がいくつか見受けられることだ。前回の当欄で指摘したように、バイデン政権ではFRB執行部で主導権を握っているブレイナード理事とイエレン財務長官が二人三脚で財政・金融両面で大規模で拡張的な政策を推進している。バイデン政権は発足後、新型コロナ禍への対応として3月11日に総額1兆9,000億ドル規模の「米国救済計画」を成立させたのをはじめ、31日に2兆ドル規模の公共インフラ事業をはじめとする「米国雇用計画」の詳細を発表し、さらにそれを成立させた後にすぐに弱者向けに1兆ドル規模の医療、社会福祉関連の対策を打ち出す姿勢を見せている。それにより増発される国債をいかに吸収させるかが大きな問題であるが、「敵国」である中国に多くの引き受けを依存するわけにいかず、また以前のようには日本勢もそれほど多く引き受けなくなっているなかで、そのかなりの部分のひきうけをFRBが担わざるを得ない。そのためには債券相場を急落させて長期金利をさらに大きく上昇させたり信用不安を引き起こすことで、FRBが現行では最低でも毎月800億ドル買い入れている国債の購入量を増額させる必要がある。いわば、これから起こるであろう新興国通貨不安や米投資会社の経営不安は、財務省やFRB執行部との間の連携により作為的に引き起こされるということだ。

FRBが追加量的緩和策に動くとさらなる本格的な株高・円安へ

 信用不安が強まればリスク回避局面では基軸通貨の米ドル以上に安全通貨とされる日本円が最も買われやすくなる。またFRBによる量的緩和策の拡大観測が高まれば、いうまでもなくドル安圧力が強まることになり、ドル・円相場は下がりやすくなるはずだ。ドル・円相場の5年サイクルが本年中に底入れするとすれば、年明け1月6日の102円60銭付近の安値が底値だと見るわけにいかず、昨年2~3月に新型コロナ禍で急落した際の3月9日の101円20銭割れの水準を下回らないと整合性が取れない。できれば、今回の5年サイクルの起点となった16年6月24日の99円の安値付近まで下がると理想的である。いうまでもなく、FRBが一段と量的緩和策を強化すれば株価はじめ資産価格はこれまで以上に高騰しやすくなるはずだ。ドル・円相場も底入れした後は新5年サイクルの上昇局面下において、リスク選好による円安圧力から本格的に上昇しやすくなっていくのだろう。

(2021年04月14日、記)

ポイント

  • 米国経済は家計がかなり貯蓄を積み上げているために一気に急回復してインフレが高まることが見込まれるが、バイデン政権は今後も財政出動政策を推進しようとしている。
  • バイデン政権は軍産複合体系のCFR系と軍事産業系、ナチズム系の居残り組の三つの勢力で構成されており、後二者が同床異夢で提携して財政出動推進で主導権を握っている。
  • 財政出動政策を続けるにあたり増発される国債を吸収するためにFRBがその購入量の増額を決めるのは不可欠であり、長期金利上昇から株価が急反落するとその機会が訪れる。

急回復していく米国経済に財政・金融両面でさらに押し上げへ
急回復が期待されている米国経済にさらなる財政出動政策

 今週16~17日に開催された米FOMCでは政策金利が据え置かれ、量的緩和策もそのまま継続となり、毎月にわたり住宅ローン担保証券(MBS)を400億ドル、国債を800億ドル買い入れることを続けることになった。ただ、参加委員による将来的な金利見通しの分布状況を示すドットチャートでは、23年末まで現行のゼロ金利政策を続けるとの見通しが大勢を占めていることが明らかになった。それにより、現行の超金融緩和策がまだしばらく続くことが確認されたことになり、市場では早期引き締め観測が後退したことでダウやS&Pが史上最高値を更新するなど景気敏感株主導で株高が進み、また米長期金利も上振れしやすくなっている。

 このFOMCの開催を控えて、市場では政策金利が資産買い入れについては現行の政策がそのまま据え置かれるとの見通しが圧倒的に多かったものの、最近の米国経済の状況を受けて、これまでに比べると資産買い入れの縮小(テーパリング)や、さらには量的緩和策が終了した後の利上げの開始が早まるのではないかとの見方が一部でくすぶっていた。実際、声明文では米国経済に対する評価が強気な語調に変わっており、FOMC関係者による成長率見通しでも、21年10-12月期には前年同期比6.5%に、インフレ率も同2.4%に高まり、年末には失業率も4%台に低下するとされている。

 米国ではこれまで、新型コロナウイルスの感染症対策としてトランプ前政権が4回にわたり、ワクチン開発やウイルス検査体制の拡充、家計への現金給付や失業給付、中小企業や州政府への支援等を目的に計3兆9,000億ドル近い規模の対策が打ち出されてきた。またバイデン現政権も発足後、すぐに1兆9,000億ドルの追加対策を成立させたことで、例えば中小企業向け支援で通常の給与が支給されているだけでなく、“事実上の失業者”への支援としてさらに現金が支給されている。それ以外に家計に直接支払われる現金給付についても、トランプ前政権下で1,200ドルと600ドルが支給されてきたが、今回の対策でさらに1,400ドルが支給されることになる。ところが、これまでは新型コロナ禍により小売店であまり買い物ができず、飲食店や観光・娯楽施設も利用できなかったり制限されていたことで、米国の家計貯蓄率は日本はおろか、中国のそれをも上回る“珍現象”が生じていた。

 ところが、米国では世界最大の新型コロナの感染者数を出していたものの、ここにきてワクチンの接種が進んでいることもあって、1月の新規感染者数がピーク時の20%程度にまで激減している。バイデン大統領は今月11日の演説で5月1日までに全国民の希望者の成人にワクチンの接種を完了させ、7月4日の独立記念日までに正常化への道筋をつけると表明している。経済活動が正常化されれば、なにしろ、もより消費性向の高い米国民がこれまで消費活動を控えていたなかで、その反動で個人消費がかなりの勢いで盛り上がることが予想されている。しかも、大幅に積み上がった貯蓄を取り崩すだけでも消費が相当な勢いで活発化することが期待できるが、そこに株高による資産効果も加わるだけになおさらである。

 それにより米国経済がかなりの勢いで急回復していき、インフレ率も2%を超えることが見込まれている。しかし、FOMC関係者はこれまで、インフレ率が一時的に2%を超えてもすぐに超金融緩和策の出口に動かない姿勢を示してきた。また今回のFOMCが終わった後のパウエルFRB議長の会見では、雇用者数は新型コロナ禍に襲われる以前に比べてまだ950万人も少ないことを強調することで、しばらく現行の超緩和策を続ける姿勢を崩していない。とはいえ、おそらくまだ失業したままでいる人の多くは容易に就職できない「長期失業者」で占められていると思われるため、現行の超緩和策を続けても失業者はそれほど減らないと思われる――つまり、FRBは現行の超緩和策を“半永久的”に続けざるを得なくなる公算が高いことになる。

 にもかかわらず、バイデン政権はさらに2兆ドル規模の公共インフラ事業を打ち出すだけでなく、“弱者”向けに社会保障支出も大幅に増やすなど、10年間で財政支出を10兆ドルも増大させる姿勢を崩していない。バイデン政権は民主党左派が信奉しており、インフレが顕在化するまでは財政赤字や中央銀行の総資産の規模の膨張など気にせずに、財政・金融両面での大幅に拡張的な政策の推進を推奨している現代貨幣理論(MMT)を指導理念としてこうした政策を推進している。しかし、サマーズ元財務長官が指摘するまでもなく、経済活動が過熱状態に陥ることが予想されているなかでさらに財政支出を大幅に増やすのは、まさにナンセンス極まりないといえよう。

バイデン政権を構成している三つの勢力とその利害関係

 その“謎”を解明するには、バイデン政権を構成している権力者層の構造を分析する必要がある。バイデン政権は90年代から00年代にかけて、米国の世界覇権の絶頂期に主導権を握った軍産複合体系と、トランプ前政権で主導権を握っていたナチズム系の勢力が分裂し、民主党左派を後押ししている勢力とで構成されている。軍産複合体系はさらにバイデン大統領の出身母体である外交問題評議会(CFR)系と、クリントン元国務長官を中心とする軍事産業系に分かれる。両者ともに中国はじめ新興大国を撃滅して米国の覇権の維持を目指す目的は変わらないものの、CFR系が米ドルの基軸通貨としての信用を維持することでそれを目指しているのに対し、軍事産業系は世界最強を誇る米軍を維持しさらに強化することでそれを達成しようとしている。そこでCFR系はドルの信用を維持するために財政赤字の増大を嫌って国防費の伸びも抑えようとしているのに対し、軍事産業系は米軍を維持し強化するために国防費の伸長につがなる財政赤字の増大を容認する傾向が強い。

 一方でナチズム系については、トランプ前政権が通貨政策では貿易赤字の減少につながるドル安を志向し、また各国に防衛費の増額を求める一方で世界各地に駐留している米軍の撤退や削減に向けて動いたように、意図的に米国の覇権を後退させて将来的に中国にそれを明け渡していこうとしている。中央政界に居残ってバイデン政権を支持しているナチズム系の勢力が民主党左派を後押ししているのは、“弱者救済”の目的で社会保障支出を増大させることで財政赤字を拡大させ、将来的にドルの基軸通貨としての信用を失墜させようとしているからに他ならない。こうしたナチズム系の思惑は、国防費を増額させることで財政赤字の増大を容認する軍事産業系の勢力と、最終的な目的意識が異なりながらも当面の利害関係が一致していることで、“同床異夢”の関係で提携している。バイデン政権がMMT理論に基づいて財政赤字の問題を顧みずに積極的に財政出動政策を推進し、FRBもそれに応じてゼロ金利や国債をはじめとする資産買い入れによる超金融緩和策を続けているあたり、この勢力が主導権を握っているのは明らかである。

 これに対し、CFR系としてはなんとも旗色が悪いが、この勢力はドルに対する絶対的な自信をその信念としているフシがある。米国主導の資産バブルが崩壊して世界経済が信用収縮の逆風にさらされても、米国の金融機関に迅速にドル資金を供給すれば金融危機には陥らないか、陥っても比較的軽微な被害で済むといった絶対的な自信があるようだ。むしろ、バブルをさらに大きく膨らませてそれを崩壊させれば、少なくとも米国以上に新興国が深刻な状況に陥ることになり、とりわけ簿外で数十兆ドルもの天文学的な不良債務を抱えている中国に打撃を与えるにはその方が望ましいと考えているフシがある。

FRBはじきに国債購入量の増額を決める必要が出てくる

 ただし、バイデン政権がこうした財政・金融両面での大規模で拡張的な政策を推進するにあたり、増発される国債をいかに吸収させてクラウディングアウト現象を回避していくかが大きな課題になる。米国債の引き受け先として、海外勢については軍事的に封じ込め政策を推進している“敵国”の中国は言うに及ばず、日本も以前のようにはそれを買わなくなっているため、FRBがそのかなりの部分を吸収していかざるを得ない。それには、現行では毎月800億ドルの国債を買い入れているなかで、いずれかの時点でその増額を決める必要が出てくる。

 そうしたなかで、年初には1%を切る水準だった米長期金利(10年債利回り)が、足元では1.6%台まで上昇している。2月上旬頃まではハイテク株主導で株価が上昇してきたなかで、景気回復見通しやそれに伴うインフレ観測から長期金利が上昇する場面では、それにより恩恵を受ける大型株を中心とする景気敏感株がそれほど下がらなくなっている一方で、買われ過ぎ感が強いハイテク株が調整安に見舞われやすくなっている。

 ただ留意すべきなのは、FRBは国債を毎月にわたり最低でも800億ドル買い入れることになっているので、長期金利に上昇圧力(長期債相場に下げ圧力)が強まっても、本当は長期債を買い支えることでそれを回避することができることだ。通常、中央銀行による国債の購入は償還期限が短い短期債が中心になるものだが、政策金利との関係でいえば、民間銀行がFRBに預ける当座預金の金利(付利金利)を0%に設定しておけばフェデラルファンド金利をその水準に誘導し続けることができるので、購入対象のかなりの部分を長期債に振り向けることが可能なのである。すなわち、最近の長期金利の上昇は多分にFRBがそれを放置していることによるところが大きいわけだ。

 どうしてFRBがそうした姿勢を見せているのかというと、意図的に株価を急落させて一時的に信用不安のような状態に陥らせることで、国債の買い増しを決めようとしているからだ。前回1月26~27日に開催されたFOMCで公表された声明文では、国債を800億ドル、MBSを400億ドルずつ毎月増やすにあたり、「少なくとも at least 」という単語が挿入されている。実際、その後長期金利に上昇圧力が強まったのを受けて、2月中にFRBは国債を900億ドル以上も買っている。さらに声明文の最後の段階には「委員会の目標の達成を妨げる可能性があるリスクが生じた場合、委員会は金融政策の姿勢を適切に調整する準備がある」との文言が挿入され、将来的に国債の買い増しを決めることができる内容になったものだ。

 この声明文での文言の修正を主導したのが、前FRB議長であるイエレン財務長官と二人三脚でバイデン政権による財政・金融両面での大規模に拡張的な政策の推進を担当しており、FRB執行部で主導権を握っているブレイナードFRB理事だ。この声明文の修正を受けて、ブレイナード理事は今回のFOMCの開催を前に長期金利の上昇からハイテク株主導で株価が一時的に急落したのを好機と見て、「債券利回りの上昇が目についた、持続的な金融状況のひっ迫化を懸念している、市場の動向を綿密に監視していく」と述べたものだ。これはその前週23,24日の議会証言で、パウエルFRB議長が「長期金利の上昇は米国経済の強さの反映」と述べたのとはまったく対照的なニュアンスである。ただその後、株価が従来の高騰傾向を取り戻していったことで、こうしたブレイナード理事の姿勢はFOMC内部で大きな支持を得られなかった。その背景には、主導権を握っているブレイナード理事に対するパウエル議長や各地区連銀総裁との葛藤があるようだが、それについてはここでは詳述しない。

 さしあたり今回のFOMCでの結果を受けて、市場でくすぶっていた早期引き締め観測が払拭されたことで株価の高騰に勢いがついており、当面は景気急回復期待を背景にこの傾向が続きそうだ。ただし、それによりインフレ期待も高まることで長期金利が一段と上昇していくことは避けられそうになく、株価が短期的に天井を打つと一時的に急反落しかねない。それにより、ブレイナード理事が主導権を握っているFRBは国債の購入量の増額を決める機会が到来することになり、次回4月27~28日か、遅くともその次の6月15~16日に開催されるFOMCでそれが決められるようになるのではないか。それを経て、株価は再び高騰しやすくなっていくと予想される。

 外為市場では当面は株高が続いている間はリスク選好による円安や米長期金利の上昇によるドル高圧力が根強い状態が続きそうだが、それにより株価が急落してリスク回避が強まると一転して円高圧力が強まり、またFRBが国債の買い増しに動くとの見方が出ればドル安圧力も高まりやすくなるだろう。ドル・円相場はこれまで、年初1月か4~5月にピークを迎えることが多いので、やはり次回のFOMCの開催頃がその節目になるのではないか。それにより昨年2~3月に新型コロナ禍から急速にリスク回避が強まって3月9日に1ドル=101円20銭割れまで一気に急落したが、その水準を下回って16年6月24日の99円まで下がれば理想的である。FRBが国債購入量の増額を決めるのを経て、今年後半以降には1年半から2年ほどは株高とともに緩やかな円安基調が続くと予想される。

(2021年3月19日、記)

ポイント

  • 米インフレ圧力により米長期金利が上昇して市場が動揺すれば、FRBによる量的緩和策の拡充に動くことで最後のドル安を経て、リスク選好から株高傾向とともに円安傾向に。
  • 次の5年サイクルは弱気型のために上昇局面が長続きせずに99円と見られる起点を下回るだろう。16.5年サイクルも弱気型になるため、75円54銭の史上最安値も下回りそうだ。

FRB量的緩和の拡充観測が高まれば最後の円高・ドル安に
― 次の円安局面は長続きせずその後大幅な円高に -

 外為市場では膠着商状に陥っている。ドル・円相場は1月6日に米ジョージア州での上院議員決選投票を控えて警戒感が強まり、リスク回避による円高圧力から1ドル=102円60銭付近まで下落した。しかし、決戦投票では2議席ともに民主党の候補者が勝利して議席を獲得し、政府と上下両院をすべて同党が制する「トリプルブルー」の状態になったことで、バイデン政権が掲げる大規模な財政出動政策が軌道に乗るとの見方が強まった。実際、その直後にバイデン大統領が総額1兆9,000億ドルの新型コロナウイルス対応としての追加経済対策を提唱し、さらにそれ以降も公共インフラ事業をはじめとする大型の財政出動政策を打ち出す姿勢を見せている。それにより市況は反発していったが、104円台半ばから105円台前半での推移が長く続くなど、後述する株高傾向に比べると上値の重い展開になっている。

 その一方で、リスク資産市場ではリスク選好が強まっており、株価は主要指標で米国株が史上最高値を、日本株も日経平均が3万円台に乗せるなどバブル崩壊後の最高値を更新する展開になっている。バイデン政権が次々に大規模な財政出動政策を打ち出す姿勢を示していることや、ワクチンの接種が進んで新型コロナ禍の脅威も遠のいていくとの期待に加え、FRBもしばらくは現行の超金融緩和策を維持して量的緩和策の縮小(テーパリング)に動かない姿勢を示しているからだ。ただし、FRBが現行の超緩和策をしばらく続ける姿勢を示していることについては、株価には支援要因になっている一方で、外為市場ではドル安圧力をもたらしていることがドル・円相場の上値の重さにつながっている。

米長期金利上昇による米量的緩和策の拡充観測からもう一段のドル安も

 前回の当欄でも指摘したように、FOMC委員の間ではテーパリングに動くことはないとの見通しでは一致しているものの、地区連銀総裁の中にタカ派的な見通しを示すことで国債の購入量の増額には慎重な委員が見受けられるのに対し、ブレイナード理事が主導権を握っているFRB執行部は状況によりさらなる買い増しをうかがう姿勢を示している。バイデン政権がこれから次々に大規模な財政出動政策を打ち出していくにあたり、増発される国債を吸収していく必要があるからだ。それを3月16~17日に開催される次回のFOMCで決めるには、それが実現できるような環境を醸成する必要がある。具体的には、一時的に株価を急落させて信用不安を強めるか、米長期金利をさらに上昇させていくか、あるいは長期金利があまりに上昇すると株価を急落させるリスクが高まるのでその両方か、いずれかの状態を現出させる必要があるわけだ。

 その意味では、大規模な財政出動政策が打ち出され、超緩和的な金融政策も続くことでインフレ圧力が強まる可能性が指摘されているなかで、FRBとしては長期金利を上昇させる方が実現しやすいといえる。FRBは現行で毎月400億ドルもの住宅ローン担保証券(MBS)とともに国債を同800億ドル買い入れているなかで、長期金利を上昇させようとするなら長期債を買い入れずに購入の対象を中短期債に集中することにより、長期金利の上昇圧力を放任すれば良いからだ。最近、長期金利が上昇しているとはいっても、その水準はFRBが物価の目標値として設定している2%の水準を大幅に下回っている状態にある。むしろ、それによりイールドカーブがスティープ化することで商業銀行には利ザヤ収入の増加が期待されるため、FRBにはそれほど危機意識はないようだ。

 実際、インフレ期待は着実に上昇しつつある。先週発表された米国の経済指標を見ると、実績値としては消費者物価指数(CPI)が総合、コアともに前年同月比1.4%の伸びにとどまっているものの、期待値ではミシガン大学消費者信頼感指数の1年期待インフレ率が、1月には前月の2.5%から3.0%に上昇し、さらに2月には3.3%に一段と水準を引き上げている。この指標が発表された先週末12日には長期金利の指標となる10年債利回りが1.2%台に乗せ、さらに16日には1.3%台に到達するなど、ここにきて株高に拍車がかかるとともに上昇圧力も一段と強まっている。

 日本では一向にデフレ期待が収束せずに長期金利が上昇していく兆しが見られないのに対して米長期金利が上昇していけば、外為市場では対円でドル高圧力が強まることになる。とはいえ、それによりFRB執行部の思惑通りに金融市場が動揺して国債の購入量の増額を決めることができる環境になれば、それを織り込んでドル安圧力が、またリスク回避が強まることで米長期金利の急低下や株価の急反落とともに円高圧力が強まるだろう。実際にFRBが量的緩和策の拡充を決め、それとともにバイデン政権も公共インフラ事業その他のさらなる財政支出拡大策が軌道に乗っていき、株価が調整局面を終えて本来の上昇波動に回帰していくにつれて、外為市場でもリスク選好による円安局面が本格化してドル・円相場も上昇しやすくなっていくと予想される。

次の5年サイクルも現行の16.5年サイクルも弱気型

 テクニカル的に見ると、ドル・円相場では今年は16年6月24日の1ドル=99円の安値から始まった5年サイクルの「底」を探る局面を迎えるが、昨年2~3月に新型コロナ禍でリスク回避が極端に強まって急落した際の3月9日の101円18銭の安値を下回るはずだとすれば、やはりその底値は99円付近の安値がメドになる。それによりこのサイクルが底入れして新たな局面に移行すれば、バイデン政権とFRBの「アコード」による大規模な財政・金融両面での拡張的な政策が推進されることでリスク選好が強い状態が続き、株高傾向が持続するとともに円安圧力が強まり、ドル・円相場も本格的に上昇していくと予想される。

 とはいえ、新5年サイクルの上昇局面に移行していくとしても、その期間はあまり長くないだろう。ドル・円相場は三つの5年サイクルでその上位サイクルである16.5年サイクルが形成されているが、次の5年サイクルは史上最安値である11年10月31日の75円54銭から始まった16.5年サイクルの三つ目に相当するため、弱気型のレフト・トランスレーションになるはずであるからだ。だとすれば、その上昇局面は短期間で終わることになり、おそらく2年も続かないと思われる。

 そしてそのサイクルが天井を打つと、28年前半頃と思われる16.5年サイクルの底に向けて長期にわたり下げていき、底値の水準も少なくともこれからつけることになる新5年サイクルの起点となる水準(前記の予測通りなら99円付近か?)を大きく下回っていくことになる。しかも、現行の16.5年サイクルも16年12月15日の118円65銭が天井になり、弱気型のレフト・トランスレーションを形成しているので、その底値は起点である75円54銭の安値をも下回っていくことが予想される。おそらく、トランプ前政権で膨れ上がった米国の財政収支と経常収支の「双子の赤字」が、バイデン現政権による民主党左派が信奉している現代貨幣理論(MMT)に立脚した政策が推進されることで一段と深刻な状態になり、その「化けの皮が剥がれていく」のだろう。

(2021年2月18日、記)

ポイント

  • 3月のFOMCに向けてFRBが国債購入量の増額を決めるために短期的にリスク回避で株安や円高局面も。ただ大勢的な株高傾向は変わらずその後はリスク選好で円安へ。
  • 日本では属国統治システムとしての官僚統治機構が復活したが、それにより財務官僚が主導権を握り大型の財政出動政策を打ち出すことができず米軍産系にはかえって障害に。

短期的な株高調整局面下での円高後に円安傾向に転換へ
― 日本では属国統治システム復活で財務官僚が主導権を回復 -

FRBが量的緩和策の拡充を決めるために一時的にリスク回避局面に

 国際金融市況はリスク選好が強い状態が続いており、米国株が史上最高値を、日本株もバブル崩壊後の戻り高値を更新する展開になっている。大統領選挙が行われた前日である昨年11月2日から高騰を開始し、特に年末以降には米長期金利の上昇を伴いながら株高が進んでいる。その背景には、一つにはワクチンが開発されて欧米で接種が始まったことで新型コロナウイルスの感染拡大が終息に向かい、経済活動も正常な軌道に回帰していくとの期待がある。またもう一つが、昨年末12月27日にトランプ政権が全国民への600ドルの給付を含む第4弾となる総額9,000億ドルもの新型ウイルス対策法を成立させただけでなく、年明けにはバイデン次期大統領(いずれも当時)も総額1兆9,000億ドルの追加経済対策案を提唱したことがある。この追加対策は失業保険給付の延長や全国民への1,400ドルの給付、新型コロナ対策を対象としたものだが、バイデン新大統領は大統領選挙の際に大規模な公共インフラ事業を打ち出すことを提唱していただけに、翌月以降、さらに追加対策を発動させることを提唱している。

 昨年末以降、株高とともに米長期金利が上昇しているのは、それにより景気が持ち直すとともにインフレ懸念が高まっているからだ。実際、大規模な追加対策を次々に打ち出していけば財政赤字や累積債務が一段と大きく膨れ上がるなかで、増発される国債の引き受け先が問題にならざるを得ない。日本でも大型の対策が打ち出されているとはいえ、米国のそれと比べると小規模なものに過ぎないことから日銀が国債の買い増しに動くことができず、安全保障上、対立を深めていることで中国にもこれ以上、購入拡大を見込むことができないなかで、将来的にドル不安に陥る危険性を顧みないでFRBがそれを引き受けていかざるを得ない。既にFRBは国債を800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を400億ドルと計1,200億ドルもの資産を毎月買い付けているなかで、国債の購入量をさらに増額させるのは既定路線とでもいうべきものだ。

 ところが、FOMC関係者の発言からは、地区連銀総裁の間で購入量の縮小(テーパリング)に動くには否定的でありながらも、さらなる買い増しには慎重な姿勢を示す向きが多い。なかには今年の米国経済の実質GDP成長率が5%台に達し、失業率も年末には5%を切るといったかなり強気な見方を披露している総裁まで散見される。パウエル議長がハト派的な姿勢を続けており、バイデン政権の発足が決まるとともに主導権を握っているブレイナード理事はさらに踏み込んで必要な購入ペースを引き上げることを明言しているなど、FRB執行部の見解や姿勢とはかなりの相違がある。そのため、執行部の意向通りにFRBが量的緩和策の拡充を決めるには、長期金利がさらに上昇して実体経済に悪影響を及ぼす状況になるか、株価が急落して信用不安が強まるリスクが意識されるような状況になる必要がある。

 米国株は新型コロナウイルス禍で大暴落してダウで昨年3月20日に1万9,094ドルで底入れした後、年明け1月14日の3万1,223ドルの現時点での史上最高値まで、それ以前に短期間で大暴落した反動による部分もあるとはいえ、わずか7カ月弱で1万2,000ドル以上も上昇してきた。それだけに、今後も財政・金融両面で強力に拡張的な政策が推進されていくことで大勢的な株高傾向は変わらないと思われるが、短期的には何らかのきっかけで調整局面を迎えると急落する恐れがある。それが今月下旬から2月中にかけて起これば、バイデン新政権が公共インフラ事業主体の追加経済対策を打ち出すのに応じて、FRBは月16~17日に開催されるFOMCで国債購入量の増額を決められるだろう。

 外国為替市場ではFRBの超緩和的な金融政策姿勢を映してドル安傾向が続いたが、ここにきて米長期金利の上昇傾向からその動きが停止している。ドル・円相場は年明け6日にかけて1ドル=102円台半ば超まで下落したが、その後103円台を中心とする推移に移行して下げ圧力が弱まっている。欧州では主要国で新型コロナの感染再拡大から経済封鎖(ロックダウン)が長期化していることや、イタリアやオランダで政情不安が指摘されたこともあり、最近では対ユーロではドル高気味に推移している。

 ただ、3月のFOMCの開催に向けて株価が調整局面を迎えて急落すれば、リスク回避局面から円高圧力が強まり、ドル・円相場は突っ込みやすくなるだろう。ドル・円相場は101円台に大きなフシがあることが見受けられるが、それを割り込めば16年6月24日の99円の安値に向けて下げていくことが予想される。とはいえ順当にいけば、それによりFRBが量的緩和策の拡充に動くことで本来の株高傾向に回帰すれば、ドル・円相場もリスク選好で円安圧力が強まることで上昇しやすくなるだろう。リスク選好局面で買われやすくなるユーロや新興国通貨はドル高以上に上昇していくことになりそうだ。

 ドル・円相場は5年サイクルが存在しており、前回の16年6月の安値を起点とするサイクルが間もなく底入れするので、今年半ば頃から本格的な円安・ドル高傾向が到来することが見込まれる。

官僚統治機構復活で財務官僚の主導権回復から米軍産系にはかえって障害に

 ところで、米国ではバイデン政権が成立することで、リベラル的でコスモポリタン志向であり、米国の世界覇権の維持を目指している軍産複合体系が復活している。それにより日本では「ジャパン・ハンドラーズ」と呼ばれる戦略国際問題研究所(CSIS)の影響力が復活しており、安倍前首相が「桜を見る会」の問題を蒸し返されて打撃を受けてしまい、菅首相も支持率を大幅に低下させているのもこのためである。

 安倍前首相が退くにあたり、親中国的な今井首相補佐官(当時)が左遷されるなど、経産官僚から官僚組織の中枢とでもいうべき財務官僚に主導権が移っている。しかも、前首相は直接的にトランプ大統領とつながることで官僚の影響力を排除して一強体制を確立したが、米国で軍産系が巻き返し、日本でも前首相が影響力を喪失したなかで、米国による対日属国支配体制に復帰するとともに官僚による統治体制が復活したなかで、その頂点に立っている財務官僚による首相官邸での影響力もそれだけ強くなっている。それ自体は財務官僚主導で本邦機関投資家が円滑に対米証券投資を促進させるうえで好都合なはずだが、足元では厄介な事態になっている。米国では新型コロナ禍への対応でかなり大規模な財政、金融両面で拡張的な政策を推進しようとしているなかで、将来的なドル不安の到来を避けるために日本側にそれ以上の拡張的な政策を推進させるにあたり、財務官僚による国債の増発を極力抑える政策志向が大きな障害になっているからだ。

 実際、安倍前首相は新型コロナ対応として、第2次補正予算に10兆円もの巨額な官邸予備費を計上したなかで、未消化分が7兆円ほども残っていたはずだが、前首相が退任して財務官僚が復権するとそれが一般会計に組み入れられてしまった。そのため、菅政権は緊急事態宣言を再発令したなかで、時短営業の要請に応じた飲食店向けを中心に事業者向けの支援だけにとどまってしまい、かつてのように全国民に一律で10万円を支給したような政策はもはやとれなくなっている。

 米軍産複合体系としては安倍前首相の影響力を封じて菅政権を弱体化させたことで、世界覇権を維持するうえで中核的な属国である日本を今後も統治していく体制に復帰させたのだが、それにより米国に比べて大規模な経済対策を打ち出すことができず、日銀も量的緩和策の拡充に動けないのはなんとも皮肉であるとしかいいようがないものだ。日本ではここにきて、感染力や重症化率の面でこれまでより強力な新型コロナ禍に見舞われているが、その背景には菅政権や二階幹事長にさらなる打撃を与えようとしている以上に、追加的な大型の経済対策を発動させようとしているような気がしてならない。

(2021年01月21日、記)