永山卓矢の市況取材ノート

筆者のブログにはより詳しい解説がされているので、是非ご覧ください。
永山卓矢の「マスコミに触れない国際金融経済情勢の真実」

http://17894176.blog.fc2.com/

ポイント

  • FRB執行部の主導権はバイデン民主党政権につらなるだけに基本的にハト派が握っているが、6月FOMCでのドットチャートの公表以来、タカ派的な雰囲気が強まがった。
  • 民主党左派の影響が強いバイデン政権は大型の財政出動政策を相次いで打ち出そうとしており、FRB執行部のハト派路線は増発される国債を引き受ける目的がある。
  • タカ派には政府の財政赤字やFRBの総資産の膨張に反対しているFRB生え抜き組と共和党の伝統的な保守勢力、トランプ前大統領の再選を目指す共和党の別の勢力がある。
  • パウエル議長のジャクソンホール会議での講演以来、以前のハト派志向の回帰しており、株高やドル安優位の状況に。テーパリングの開始も11月に決定されて12月実施の公算。

民主党政権の意向を受けたFRB執行部はハト派路線
-両副議長の退任を控えてタカ派は焦っている-

基本的にハト派路線だが一時的にタカ派的な雰囲気が強まる

 国際金融市況では最近、米国株については景気敏感株が売られていることから、特にダウが軟弱な動きになっている。それに対し、先進国では出遅れていた日本株が8月末以降、力強い足取りを示しており、日経平均は3万円台を回復して今週14日には2月16日以来となるバブル崩壊後の最高値を更新した。また外国為替市場では今月9日のECB理事会の開催に向けて大規模緩和策の縮小が決まるとの見方からユーロ高圧力が強まったが、それを過ぎるとユーロ高修正が進んでいる。その一方で、ドル・円相場は動意薄の展開がいまだに続いている。

 米国株が弱い足取りになっている最大の要因は、新型コロナウイルスのデルタ株の感染拡大から各地域で経済規制の再強化の動きが進んでおり、実際に景気回復の鈍化を示唆する指標の発表が相次いでいることにある。またそれとともに、一時的との観測が示されながらも物価指標が高水準を示すものが発表されており、実体経済が鈍化しているにもかかわらず、FRBの金融政策がタカ派的になるとの観測が拭えないことも指摘できる。

 今年前半のFRBの金融政策はパウエル議長やブレイナード理事が中心になり、大規模緩和策の継続を志向するハト派的な色彩が強かった。しかし、ワクチン接種の加速による景気急回復傾向が強まるなか、インフレ率もかなり高い伸びを示したこともあり、6月16日にFOMCの終了とともに公表された、参加委員の金利見通しの分布状況を示すドットチャートの内容がかなりタカ派的と受け止められて以来、タカ派的な見通しが強まった。7月2日と8月6日に発表された6月と7月の雇用統計がタカ派的な内容になったのを経て、8月18日に公表された7月27~28日開催分のFOMC議事録でも、多くの参加委員が年内の量的緩和策の縮小(テーパリング)の開始が適切と主張していたことがタカ派的とされたものだ。この間、セントルイス連銀のブラード総裁やダラス連銀のカプラン総裁はじめタカ派志向の委員が活発に発言を繰り広げたことが、市場でのタカ派観測を強めることに寄与したものだ。

 潮目が変わったのは、8月27日に国際経済シンポジウム(通称ジャクソンホール会議)での講演で、パウエル議長が年内にテーパリングを開始することを事実上、宣言したものの、そのペースが極めて緩やかなものになり、利上げ開始の時期もまったく見通せないとするなど、全般的にハト派的な内容になってからのことだ。その翌週の9月3日に発表された8月の雇用統計が大幅にハト派的な内容になったことが、それに拍車をかけた。それでも、例えばブラード総裁は9月のFOMCでテーパリング開始を決めて来年1-3月期までにそれを終え、半ば頃には利上げを開始できる状態にすることを提唱するなど、FRB執行部の意向に反してタカ派的な姿勢を継続している。

FRB執行部のハト派路線とそれに反対する各勢力

 パウエル議長をはじめとするFRB執行部はハト派的であり、主導権はブレイナード理事が握っている。それは、民主党左派が影響力を強めているバイデン政権が相次いで大型の財政出動政策を打ち出そうとしているなかで、増発される国債を実質的にFRBに引き受けさせようとしていることがある。すなわち、FRB執行部は本音では資産購入を減らしていくのではなく、反対に増やすことを望んでいることはしっかり押さえる必要がある。そうした路線を推し進めるにあたり、政府のイエレン財務長官(前FRB議長)、FRBのブレイナード理事、議会のウォーレン上院議員が連携して動いている。パウエルFRB議長は基本的に現在、主導権を握っている権力者層の意向に沿って動いているわけだ。こうした勢力は株価をさらに高騰させたうえで急反落させた方が、それだけ信用不安の度合いも大きなものになり、それによりFRBによる資産購入の増額を決めやすくなるわけだ。

 そうした政府の財政赤字とFRBの総資産を飛躍的に膨張させる路線に、議会共和党と地区連銀を含む“生え抜き”のFRB関係者が反対している。前記のカプラン総裁やボストン連銀のローゼングレン総裁、カンザスシティ連銀のジョージ総裁といったタカ派的な地区連銀総裁は典型的な後者の系列だ。それに対して議会共和党も二つの勢力に分かれており、伝統的な保守勢力は純粋に財政赤字やFRBの総資産の膨張を嫌っているのに対し、トランプ前大統領に近い勢力は24年の大統領選挙で前大統領が有利な環境にするにあたり、タカ派的な金融政策を推進してオーバーキルを引き起こして景気を腰折れさせようとしている。FRB執行部でタカ派的な論調を繰り広げているのは、クラリダ副議長やクォールズ副議長、ウォラー理事といずれもトランプ前大統領によって指名されてその地位に就いていることに留意する必要がある。ブラード総裁が極めてタカ派的な発言を繰り広げているのは、トランプ前大統領が大統領に復帰すれば、26年2月にFRB議長に就任する機会が出てくるためだ。ウォラー理事はその地位に就く以前にはセントルイス連銀でブラード総裁の部下として活動しており、総裁によってFRB執行部に送り込まれたものだ。

 タカ派が活発に発言を繰り広げているのは、時間が経つとFRB執行部でのタカ派の2人の副議長が任期を迎えて交代していくことで、ハト派が有利になっていくのが目に見えていることから焦っていることも指摘できる。クォールズ理事が10月に任期を迎えるのでFOMCの参加は来週21~22日に開催される会合が最後になるのをはじめ、クラリダ副議長も1月末で任期を終える。パウエル議長も2月上旬に任期を迎えるなかで、バイデン政権や議会民主党の上層部は議長を続投させてブレイナード理事を副議長に昇格させるか、ブレイナード理事を一気に議長に昇格させるかで調整が図られているようだ。前者の場合、主導権を握っているブレイナード理事を副議長にとどめるのは、議長になるといろいろ制約が出てくるので、自由に活動させようという配慮によるものだ。イエレン前議長の時代に、主要国・地域の中央銀行の金融政策を実質的に統括・管理しているグループ・オブ・サーティ(G30)から派遣されてFRB執行部で主導権を握り、緩やかな利上げ路線を主導したフィッシャー前副議長が議長にならなかったのと同じようなものだ。

基本的なハト派路線が反映されてドル安・株高傾向に

 FOMCではタカ派が隠然たる勢力を握っているとはいえ、FRB執行部で主導権を握っている勢力がハト派で占められているだけに、金融政策の運営を巡り大きな影響を及ぼす雇用統計はこれまで、実態よりハト派的になることが多かった。雇用統計で最も注目されている非農業部門の就業者数(NFP)は、実際に実態より低めの数値が発表されていたことで、FRBが推進していた超大規模緩和策の推進を支援する有力な要因になっていたものだ。しかし、それを続けていると実態より乖離した”歪み”が大きくなっていくので、いずれかの時点で高めに出すことでそれを調整する必要が出てくる。それが7月と8月の統計の発表だったのであり、当時は6月のFOMCでのドットチャートの内容や7月のFOMC議事録の公表を受けてタカ派的な雰囲気が強まっていたので、そうした発表をしやすかったといえる。8月27日のジャクソンホール会議でのパウエル議長の講演がハト派的になったのを受けて、9月3日に発表された8月の雇用統計が極めてハト派的になったのも当然の成り行きであり、この傾向は当面、続くことが予想される。

 さしあたり、来週21~22日にFOMCを迎えるなかで、タカ派はテーパリングを決めるだけでなく、できる限り早く開始したいと思っているが、デルタ株の感染拡大が深刻になりつつあり、実際に景気回復も目立って鈍化しているなかで、そうしたことはあまりに現実味が薄い。それでも年内にテーパリングの開始をパウエル議長が宣言していることを考えると、順当にいけば、11月2~3日のFOMCでそれを決定し、12月に実際に開始されると予測するのが妥当なのだろう。だとすれば、来週のFOMCでそれが決まることなく、むしろドットチャートの内容及びそれ以外ではハト派色が強まっておかしくない。それにより米国株は景気敏感株を多く抱えるダウが上がりやすくなり、また外為市場ではドル安が進みやすくなることが予想される。

 一方で、日本株が高騰しているのは菅首相が退陣表明をし、後継首相が大規模な追加コロナ及び経済対策を打ち出すとの期待が高まっているからだ。ドル安圧力が強まるなかで、次期政権が期待通り大型の財政出動に動くと、それにより増発される国債を買い入れることで日銀が量的緩和策を強化できることから、それほど円高が進まない可能性がある。しかし、その対策が小規模なものにとどまったり、特に対策を打ち出さないと円高・ドル安圧力が強まることが予想される。

(2021年9月16日、記)

ポイント

  • FRBの大規模緩和策については、6月のFOMCでドットチャートが公表されて以降、タカ派委員が活発に発言を繰り広げているためにそうした見方が足元で意識されている。
  • ただし、FRB執行部ではバイデン政権の意向を受けてハト派が主導権を握っており、デルタ株の感染拡大による米国経済の鈍化からタカ派有利の環境が変わっていくことも。
  • バイデン政権が相次いで大型財政政策を推進しようとしているなか、FRB執行部は本当は増発される国債をファイナンスするために国債購入の縮小ではなく拡大を望んでいる。

FRBの金融政策を巡るタカ派とハト派の攻防
- タカ派有利に見えるがハト派が巻き返す可能性も -

タカ派的な発言が繰り広げられテーパリング開始の時期が焦点に

 外国為替市場では膠着状態に陥っており、ドル・円相場で1ドル=109~110円台で、ユーロ・ドル相場で1ユーロ=1.17~1.18ドル台での小動きが続いている。当面は新型コロナウイルスのデルタ株の感染拡大や米国での経済情勢及びインフレ動向、アフガニスタン情勢を中心とする地政学リスクといった要因が注目されている。ただ、最大の焦点は量的緩和策の縮小(テーパリング)の開始の時期が注目されているなど、FRBの大規模緩和策の行方についてだろう。

 FRBの金融政策については、6月半ばまではパウエル議長がハト派的な発言を繰り広げたことで、大規模緩和策の継続見通しが支配的だった。しかし昨年末以降、米国ではワクチン接種が急速に進んだことで経済活動の再開が急速に進み、今年1-3月期、4-6月期と米国経済が急回復を続け、インフレ率も米消費者物価指数(CPI)で前年比で5%台の伸びが続いているなかで、その縮小を求める声が強まりつつある。6月14~15日に開催されたFOMCでの参加委員の今後の金利見通しの分布状況を示すドットチャートでは、中央値で23年に2回の利上げが見込まれており、22年中に開始を見込む向きも7人いた。それ以来、特に22年中の利上げ開始を主張しているようなタカ派の委員が主に活発に発言を繰り広げたことから、市場もそうした見通しを織り込むようになっている。

 さしあたり、利上げの開始以前に量的緩和策を終わらせる必要があるため、当面はテーパリングの開始の時期が焦点になっている。セントルイス連銀のブラード総裁やダラス連銀のカプラン総裁、ボストン連銀のローゼングレン総裁といった22年末に利上げの開始を主張しているタカ派の委員は、それを実現するためには同年半ば頃までに量的緩和策を終わらせる必要があるため、9月21~22日のFOMCでテーパリングの開始を決めて12月から実際に始めるように求めている。そうしたタカ派の委員が最近では活発に発言を繰り広げていることから、実際に市場ではそうしたシナリオも意識されつつあるところだ。

FRB執行部の主導権はハト派が握っている

 ただし、パウエル議長やFRB執行部で主導権を握っているブレイナード理事をはじめとするハト派の委員は、テーパリングの開始の決定は少なくとも年末まで待つように主張している。それは、新型コロナ禍への対応として打ち出された失業手当の加算分の支給が、最終的に9月上旬に打ち切りになることと関係している。新型コロナ禍により職を失った人が完全には労働市場に戻ってきていないなかで、加算分の支給が打ち切りになると収入源が絶たれることで、職探しをするようになることが期待されるからだ。11月5日と12月3日に発表される雇用統計の内容を見極めたうえで、12月14~15日に開始の是非を判断すべきだと主張しているわけだ。

 新型コロナに襲われて経済活動が停止されたのを受けて、昨年にはピーク時で1,300万人もの雇用が失われたが、7月2日に発表された6月の雇用統計ではそれが660万人に、今月6日に発表された7月の統計では570万人にまで減ってきている。実際のところ、職を失った人がすべて労働市場に復帰するというのは非現実的なのだが、民主党左派の影響を受けているバイデン政権がすべての人に恩恵が行きわたる政策を標榜しているなかで、今でも失業している人たちを安易に見捨てるわけにいかない事情がある。特にFRB執行部で主導権を握っているブレイナード理事は、前FRB議長であるイエレン財務長官と二人三脚で財政、金融両面で大型の拡張的な政策を推進しているだけに、少なくともFRB執行部はハト派的な姿勢を推進しなければならない事情がある。

 そうしたなかで、毎月の第一金曜日に発表されている雇用統計では、生産年齢人口に占める労働力人口の比率である労働参加率の動向に注目が集まっている。そこで労働力人口というのは、就業者と働く意欲はあるが失業している人たちの合計であり、働く意欲がなく職探しをしていないような人たちは含まれない。失業手当にその加算金を含めた支給を受けていることで職探しをしていないような人は含まれないのである。この労働参加率は昨年1、2月の63.4%をピークに、新型コロナ禍による経済活動の停止を受けて昨年4月分の統計では60.2%まで急速に落ち込んでから回復してきたが、今年に入ってから回復傾向が鈍化していき、4月分で61.7%まで戻した後は頭打ちになっている。直近の7月では前月から0.1ポイント改善したのは、経済活動の正常化に伴って公立学校も再開されたことで、それまで子供の世話に追われていた中下層階級の主婦が、それから解放されたことで労働市場に回帰してきたことによるところが大きいといわれている。9月上旬で失業手当の加算分の支給が最終的に打ち切りになり、それまでそれを受け取っていた人たちが順調に労働市場に復帰していき、実際に労働参加率が上昇して失業率や非農業部門の就業者数(NFP)もそれに追随して一段と改善していけば、ハト派は大規模緩和策を続ける意義を失うことになる。

 6月のFOMC以降、タカ派的な委員が活発に発言を繰り広げていたことでタカ派的な雰囲気が強まっていたが、周辺の環境はその地盤を揺るがし得る状況になりつつある。米国経済は実質GDP成長率が1-3月期には前期比年率で6.3%、4-6月期には速報値の段階で同6.5%と高成長を記録してきたが、7月の小売売上高が前年同月比でマイナス1.1%とかなりのマイナスの伸びを記録したことで、その正確性で定評のあるアトランタ連銀の経済モデル「GDPナウ」では、7-9月期の成長率が足元では同3%台に低下している。今回の小売売上高が低調だったのは、名目的な家計の出費ベースでは依然として高水準で推移しているなかで、インフレ率が高めの水準で推移していることで実質ベースでは伸びが抑えられたことによるところが大きいといえる。ただ、8月のミシガン大学消費者信頼感指数が速報値の段階ではあるが70.2と、前月や事前予想の81.2を大幅に下回ったあたり、新型コロナのデルタ株の感染拡大が経済活動にも悪影響を及ぼしている可能性についても考えないわけにいかない。今後、さらに低調な経済指標が発表されるにつれてタカ派委員の発言の機会が減っていき、対照的にハト派からテーパリングの開始に慎重な見解を表明する論調が強くなっておかしくないだろう。

さらに株高バブルを強めて急反落させる展開も

 足元ではテーパリングの開始が早まるなどタカ派的な金融政策の論調が繰り広げられているにもかかわらず、ダウが今週初16日にかけて史上最高値を更新しているなど景気敏感株主導で株高傾向が続いている。新型コロナのデルタ株の感染拡大が進んで米景気回復傾向に悪影響をもたらすとの見方より、バイデン政権が相次いで大型の財政出動政策を打ち出す姿勢を見せているなかで、つい最近でも与野党の議席数が拮抗している上院で大型公共インフラ事業が打ち出されることが現実味を帯びてきたことを示唆するものだ。今後、17日には低調な内容の小売売上高が発表されたことでダウが一時前日比500ドル以上も下落したように、今後、低調な内容の指標の発表が相次ぐと、景気敏感株を中心に株価が調整局面入りを迎える可能性がある。また外為市場でも、早期テーパリング観測の後退からドル安に振れやすくなるだろう。

 なお、FRB執行部で主導権を握っているブレイナード理事の背後の米権力者層は、本当はバイデン政権が相次いで大規模な財政政策を推進しつつあるなかで、増発される国債をファイナンスするためにFRBが国債の購入をさらに増やすことを望んでいる――すなわち、量的緩和策を縮小するのではなくさらに拡大するということだ。そのためにはそうした政策を決める環境を醸成するうえで一時的に信用不安を高める必要があるが、そのためには短期的にさらに株価をバブル的に高騰させていき、急反落する際の衝撃を大きなものにする必要がある。そのためには当面、タカ派的な論調を後退させて以前のように大規模緩和策の継続見通しが支配的な環境に回帰させる必要がある。外部環境がそうした状態になれば、株高とともに外為市場ではドル安含みの動きになるだろう。そして実際に12月のFOMCでテーパリングの開始が決まるとの見方が強まるにつれて信用不安が起こりやすくなり、外為市場ではリスク回避による円高圧力からドル・円相場は一段安に向かうと予想される。そこで実際にFRBによる国債の買い増しが決まれば再び株高傾向になりやすくなり、それとともにリスク選考から円安圧力が強まることでドル・円相場は反転上昇に向かうと予想される。

 ドル・円相場には規則正しい5年サイクルが存在することが知られており、前回の底値は英国での欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票が行われた翌日の16年6月24日の1ドル=99円の安値だ。今年はそれから5年目にあたり底値をつける時期なので、新型コロナ禍に見舞われてリスク回避による円高圧力を受けて急落した際の昨年3月9日の101円18銭の安値を下回る下げに見舞われることになる。それが実現するとすれば、やはり信用不安から円高圧力が強まるとでもたらされるのではないか。

(2021年8月19日、記)

ポイント

  • 失業手当の加算分が9月上旬で終わった後に労働市場に労働者がどの程度戻るかが焦点になり、FRBがテーパリングの開始を決めるにはその結果を見極める必要がありそうだ。
  • それには新興国通貨不安が懸念され、国有企業の社債のデフォルトから中国不安が高まり米金融市場に波及すれば、FRBは反対に国債買い入れ増額を決めざるを得ないことも。

年末にテーパリングを決めて来年3月に開始か
― 反対に国債買い入れを増やさざるを得なくなることも ―

 外国為替市場では時折り、米金融市場が動揺することはあっても、外国為替市場ではドル・円相場が1ドル=110円台を中心とする動きが続いているなど、基本的には方向感のない展開を継続している。米国でのインフレ懸念やFRBによる大規模金融緩和策の早期修正観測から米長期金利が上昇することはあっても、すぐにパウエル議長はじめFRB執行部の重鎮が少なくとも当面は現行の政策を維持する姿勢を見せると、すぐに米長期金利が下がることで買われやすくなるハイテク株を中心に株高傾向に回帰する展開が続いている。

 足元では間違いなくインフレ懸念が高まっている。13日に発表された米消費者物価指数(CPI)の前年同月比の伸び率は5.4%に、コア指数でも4.5%にまで高まってきた。新型コロナウイルス禍から経済活動が停滞していたなかで、大規模な財政出動政策により現金給付や失業手当ての加算支給といった手厚い家計支援策が打ち出されてきたことで、貯蓄がかなりの水準に高まっている。昨年末以降、ワクチン接種が進んだことで経済活動が正常化に向かいつつあることから、多くの人たちが貯蓄を取り崩して消費活動を活発化させている。実際、米国の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率で10%程度に達することが見込まれている。しかも、需要の急速な回復に対して供給体制はすぐには整備されないので、足元では供給制約による要因も加わってインフレ圧力がかなり高まっている。

失業手当の特別加算の打ち切りの影響が焦点に

 以前、当欄で述べたように、こうしたインフレ圧力は一時的なものだけでなく、トランプ前政権以来の米中間での対立からサプライチェーンが瓦解していることによる構造的な側面による原因もそれなりに存在しているはずだ。にもかかわらず、FRB執行部で主導権を握っている勢力は、足元でのインフレ圧力はそのかなりの部分が一時的なものに過ぎず、中期的には2%目標値に向けて収斂していくとして、すぐには大規模緩和策の修正に動く姿勢を見せていない。FRB執行部で主導権を握っている勢力は、基本的に新型コロナ禍で一時は2,200万人もの人が職を失ったなかで、依然としてまだ700万人近い人たちが失業したままでおり、そうした人たちがほぼすべて職に就けるまでは大規模緩和策を続ける姿勢を示している。実際には、FOMC委員の間ではタカ派的な地区連銀総裁はもとより、FRB執行部の間でもトランプ前大統領に指名されたFRB理事の間ではそうした姿勢に反対する傾向が強いようだ。それは、6月15~16日のFOMCの会合が終わった後に公表された、参加委員による今後の金利見通しの分布状況を示すドットチャートがかなり強気な内容になったことに示唆される通りだ。しかし、民主党左派やリベラル勢力が影響力を強めているバイデン政権では、そうした勢力はあくまでも反主流派でしかない。

 そこで注目されるのが、毎月発表されている雇用統計における労働参加率が新型コロナ禍に襲われる直前には63.4%だったのが、一時61%割れまで低下してから回復したものの、足元では61%台後半で止まっていることだ。これはすなわち、失業した人たちの中で、企業側の求人が回復したにもかかわらず職探しを諦めた人が多いことを示すものだ。その背景として、これまでの現金給付や失業手当の加算支給から貯蓄が積み上がっているなかで、失業した人たちの間では生活にゆとりがある状態にあることからできる限り好条件の企業に就職しようとしている人が多いことがまず考えられる。その一方で、もはや半永久的に労働市場に戻ってこない人もそれなりに多いのか、専門家の間では見解が分かれているところだ。

 そこで直近の7月2日に発表された6月の雇用統計でまず注目されるのが、今回の非農業部門の就業者数(NFP)の前月比の増加幅が85万人だったなかで政府部門が18万8,000人も占めているが、その多くは新型コロナ禍を克服して社会生活が平常に戻るとともに学校も再開され、教職員の採用が進んだことによるものだ。これまで、乳幼児がいるにもかかわらずベビーシッターを雇えないでいた中下層の家庭では仕方なく主婦が働きに出られなかったところも多いと見られるが、学校が再開されたことでそうした世話から解放されて仕事に出られるようになる。そしてもう一つ注目されるのが、週300ドルの失業手当ての特別加算が9月上旬で完全に終わることだ。白人が多く共和党の地盤である内陸部を中心とする25の州が6~7月でその特別加算が打ち切られているが、人口が多く特に黒人やヒスパニックで占められており、民主党が地盤である州ではそうではない。しかし9月半ば以降、そうした加算分が手に入らなくなると、下層階級の労働者が労働市場に復帰してくる可能性がある。

 地区連銀総裁はもとよりFRB執行部の間でも見解の不一致が顕著な状態にあるなかで、批判的なタカ派の勢力としても、9月上旬に失業手当ての加算支給が打ち切りになるまでは、主導権を握っている勢力の意向に対して強硬に拒絶するわけにいかないだろう。だとすれば、加算支給が手に入らなくなる10月以降、そうした人たちが本格的に職探しに動くとして、タカ派の勢力が要求している量的緩和策の縮小(テーパリング)が実現するとすれば、その統計資料を精査する時間も考えて、早くて年末12月14~15日のFOMCでその協議を開始し、来年3月から始まるシナリオが現実味を帯びてくる。最もタカ派的な見解では、8月下旬のカンザスシティ連銀主催のジャクソンホール会議でパウエル議長が事実上、それを宣言し、年末12月のFOMCでそれを決めるシナリオを描いているようだが、筆者はその可能性は小さいと考えている。

中国不安の波及でFRBが反対に追加緩和策を打ち出す可能性も

 ただ最近の動きのなかでもう一つ注目されるのが、インフレ懸念が高まったりFOMCでタカ派的な姿勢が示されるなどで米長期金利が上昇する時は当然であるが、信用不安から長期金利が低下してもドル高になり、株式市場ではハイテク株が買われて全体の株価も支えられることだ――すなわち、米国ではトリプル高になる場面が散見されるわけだ。市況の動きが先行きの実体経済を織り込んで動くとすれば、長期債が買われて長期金利が低下するのは将来的な景気の悪化によるデフレ圧力が強まるのを先取りしていることになる。また株価が上昇しているのは、実体経済が半年から1年後にかけて堅調な状態が続くことを示唆しているといえる。おそらく、家計が新型コロナ禍対応の財政措置により積み上がった貯蓄の取り崩しが終わっても、株価や住宅市況の高騰による資産効果から個人消費は底堅く推移し続け、実体経済も堅調な状態が続くのだろう。しかし所詮、それは資産バブルが膨れ上がることでもたらされるものに過ぎず、数年先までを展望するなら、米国経済はバブル崩壊により深刻な事態が待ち受けているということだ。

 また米トリプル高の構図を資金の流れでいえば、海外から米国への資金還流が進んでいることを示唆するものだ。その背景には、FRBがいずれテーパリングに取りかかり、それが終わると利上げに動くことで新興国通貨不安が引き起こされるリスクが高まることが懸念されていることがある。実際、米国とともに新型コロナ禍による苦境を脱した中国を除くと、新興国では自国通貨を防衛するために利上げを余儀なくされているところが多いことにそれが見て取れる。13年5~6月に当時のバーナンキFRB議長がテーパリングに向けた姿勢を打ち出すと、新興国から米国への資金還流に拍車がかかって新興国通貨不安が引き起こされたものであり、いわゆる「バーナンキ・ショック」「テーパータントラム」と呼ばれたものだ。当時、最もバブルが膨れ上がっていた中国では、シャドーバンキング(影の銀行)とされた理財商品や信託商品の債務不履行(デフォルト)問題が高まったのが想起される。

 今、中国ではそうした金融商品の問題はなくなっているが、代わって国有銀行の不良債権の管理を請け負っていた華融資産管理を筆頭に、国有企業の社債のデフォルト問題というより大きな「爆弾要因」を抱えているだけに要注意だ。今秋から年末以降、FRBがテーパリングに動くのが現実味を帯びるにつれて、中国を筆頭に新興国不安が米金融市場に波及して信用不安に陥るリスクについて留意しておくべきだろう。そうなると、FRBは国債をはじめとする資産買い入れ額を縮小させていくのではなく、反対に一段と増やさざるを得なくなることになりかねない。バイデン政権が大規模な財政出動政策を相次いで打ち出そうとしているなかで、それにより増発される国債を吸収するには望ましいものともいえる。FRB執行部で主導権を握っているブレイナード理事は本来的に、前FRB議長であるイエレン財務長官とこうした政策を推進しようとしていることに留意すべきである。

 その場合、外為市場ではリスク回避から円高圧力が、またFRBが一段と緩和策に動かざるを得なくなるとドル安圧力が急激に強まることになる。ドル・円相場には周期的に5年サイクルがあることが知られており、前回の底値は16年6月24日の1ドル=99円だ。今年は当時の安値から5年目を迎えるため、その周期性が生きているのであれば年内に安値をつけるはずだ。だとすれば、新型コロナ禍で急激にリスク回避が強まって急落した際の昨年3月9日につけた101円18銭の安値は割り込んで下げていかないと、5年サイクルの底値になり得ない。今秋以降、急激な円高・ドル安局面が到来してドル・円相場が意外な安値をつける可能性があるのではないか。

(2021年07月15日、記)

ポイント

  • 米国では経済活動の再開に伴って物価が大幅に伸びているが、その多くは一時的な要因によるとはいえ、サプライチェーン崩壊による構造的な要因もそれなりに存在している。
  • バイデン政権が立て続けに大型財政出動政策を打ち出そうとしているなかで、それにより増発される国債を引き受けるため、FRB執行部は本当は国債購入の増額を望んでいる。
  • FRB執行部はさらなる株高の後に急落させることで国際買い増しを決めようとしていたが、今回のFOMCでのタカ派姿勢は中国をにらんでG7サミットが影響した可能性も。

FOMCタカ派シフトも執行部の本音は国債購入の増額
― 対中国政策から作為的に信用不安を引き起こすことも -

 15~16日に開催されたFOMCでは予想通り金融政策の変更はなかったものの、参加委員の今後の利上げの推移の予想の分布状況を示すドットチャートがタカ派的に振れた。それにより、その公表を受けて市場では株式が売られ、外為市場ではドル高が進んだ。  ドットチャートでは、22年中に利上げを見込む委員が前回3月中旬時点の4人から7人に、23年中では7人から13人に増えた。しかも、前回では委員18人の中央値で利上げの開始が24年とされていたが、今回は23年に2回の利上げが行われる見通しになった。いうまでもなく、その背景には米国では新型コロナウイルスのワクチン接種が進んで経済活動が再開されつつあるなかで、景気が急速に浮揚して物価も急速に盛り上がりつつあることがある。これまで、米国では新型コロナ禍への対応として政府が迅速に財政出動に動き、手厚い失業手当てや現金給付が行われてきたことで家計の貯蓄が異様な水準に膨れ上がっているため、これから家計の消費活動が大きく浮揚することが見込まれている。それに伴って物価も大きく伸びており、10日に発表された米消費者物価指数(CPI)は総合ベースで前年同月比の伸び率が5.0%にまで高まったものだ。

インフレは主に一時的な要因によるが構造的な要因も存在する

 そうしたなかで、これまで地区連銀総裁の間では、大規模緩和策の出口戦略として利上げの前にまず量的緩和策を段階的に縮小(テーパリング)して終わらせてから利上げに取りかかる必要があるとされているなかで、テーパリングの開始に向けて協議を開始する必要性を指摘する向きが見られた。ところが、クラリダ副議長がその必要性を指摘していたものの、ブレイナード理事が主導権を握っているFRB執行部は当面はまだ現行の大規模緩和策をそのまま続けるべきだとする姿勢を維持し続けた。足元でインフレ圧力が強まっているのは一時的な現象に過ぎず、中長期的にはFRBが目標値としている2%の水準に向けて落ち着いていくとの見通しを示すことで、少なくともすぐにテーパリングその他の出口政策に向かうことはしないという姿勢を示し続けていた。

 実際のところ、足元で高まりつつあるインフレ圧力が一時的なものなのか、それとも構造的な要因もそこに含まれているのかというと、大雑把にいえば、筆者は一時的な要因が7割程度、構造的な要因が3割ほどと見ている――すなわち、一時的な要因が大きいものの、構造的な要因がまったくないわけでもないということだ。確かに新型コロナ禍に襲われていたなかで、トランプ前政権からバイデン現政権にかけて迅速に財政出動政策に動き、失業手当てや家計向け現金給付といった手厚い支援措置が取られてきたなかで、経済活動が停止されていたことから家計の貯蓄が異様な水準に膨れ上がっていた。そこにワクチン接種の普及から経済活動が再開されつつあるなかで、「消費好き」の米国の人たちが一気に消費活動や娯楽を楽しんでおかしくない。そこに株高による資産効果も加わるので、消費活動が一気に活発化して需要が盛り上がっておかしくない。しかも、それに応じて供給能力を一気に活性化させるわけにいかないため、そうしたボトルネック現象が物価押し上げに一段と寄与するはずである。

 とはいえ、そこには構造的な要因も見受けられる。トランプ前政権が中国からの輸入に高関税を課して貿易戦争を仕掛けてきたことで、多国籍企業が付加価値の低い加工組み立て業務を中心とする生産拠点を中国沿海部から他の国・地域にシフトさせたり、自国内に回帰させる動きが相次いでいた。そこに昨年2月に武漢が新型コロナ禍に襲われて封鎖されたのを受けて、米政府が迅速に同国への渡航禁止措置を打ち出したことで、今や米国の多国籍企業が構築したサプライチェーンが完全に瓦解してしまっている。これまで、慢性的に物価が上がりにくいディスインフレ傾向が続いていたのは、人件費の安価な中国人の労働力を生産システムに組み込んだグローバル制裁体制が機能していたからだった。しかし、既に以前から生産拠点が集積していた中国沿海部で人件費が高騰していたことからそれがうまく機能しなくなりつつあったが、それがこの時、完全に崩壊したことで、以前に比べると構造的に物価が上がりやすい状況になっている。新型コロナ禍に襲われる以前には米国では完全雇用にかなり近い状態にあったにもかかわらず、インフレ率はFRBが目標値としている2%に届かない状態が続いていたが、おそらくこれからは、一時的な物価押し上げ効果が剥落した後でも2%を下回ることはないのだろう。

FRB執行部は本当はさらなる国債の買い増しを望んでいる

 とはいえ、それでもFRB執行部は現行の大規模緩和策をまだしばらく続ける姿勢を示していたが、それはバイデン政権の政策姿勢と密接な関係がある。トランプ前政権下では、展開の主導権を握っていたナチズム系の権力者層は世界各地に駐留している米軍を撤退させるなどで、意図的に米国の世界覇権を後退させようとした。それに対してバイデン政権の成立により主導権を回復した軍産複合体系の勢力は、家計の消費活動の中核となる中産階級を復活させることで米国の覇権を持続させようとしている。覇権国は「世界の一大需要基地」としての役割を担うことで、世界経済成長を牽引する責務を負っているからだ。バイデン政権が新型コロナ禍対応策だけでなく、それ以降も次々に大型の財政出動政策を打ち出しているのは、公共インフラ事業を推進することで社会基盤を整備しようとしていることもあるが、その最大の目的は中低所得者層向けの家計支援策を打ち出すことで中産階級を復活させようとしていることがある。

 大型の財政出動を打ち出すことで、実際にバイデン大統領は5月28日に就任して初めてとなる予算教書での演説で、22会計年度(21年10月~22年9月)の支出が実に6兆ドル超に上ることを提唱した。その財源として法人や富裕層向けの増税で賄うとしているが、すぐに増税を決められるわけではなく、また実施されても実際に税収が増えるまでにはある程度のタイムラグを要するため、それまでは国債を大増発することで財政資金を賄わざるを得ない。しかも、法人向けについてはトランプ前政権が大幅に引き下げた法人税の税率を21%から28%に引き上げることを提唱していたが、上院で民主・共和両党の勢力が拮抗しているなかで、野党・共和党との交渉の過程でそれを撤回せざるを得なかったため、よけいに国債を増発せざるを得ない状況だ。その引き受け先として、もはや「敵国」である中国にそれを依存することは期待できず、日本勢はそれなりに応じ続けても限度があるとすれば、吸収しきれない分については実質的にFRBがそれを引き受けざるを得ない。そのため、実際にFRB執行部で主導権を握っているブレイナード理事は、イエレン財務長官(前FRB議長)と二人三脚で財政・金融両面で大規模な拡張的政策を推進しようとしているなかで、このまま大規模緩和策を続けるだけでなく、さらに国債の買い増しを決めることを望んでいるという。今のところ、FRBは毎月にわたり住宅ローン担保証券(MBS)を400億ドル買い入れているとともに国債も800億ドル購入しているが、それをさらに増やそうとしているわけだ。

 実際、FRB執行部ではブレイナード理事が最もハト派的である。また地区連銀総裁の間でも、もとより「最強のタカ派」とされるミネアポリス連銀のカシュカリ総裁が今ではそれほど発言をしなくなっているなかで、イエレン前議長(現財務長官)の出身母体であるサンフランシスコ連銀のデイリー総裁が最もハト派的な発言を繰り広げていたものだ。ただし、それでは現行の大規模緩和策を継続するだけにとどまってしまい、さらなる国債購入量の増額を決めるにはいったん株価を急落させてテーパータントラムの再現とでもいうべき信用不安を強めて、新興国通貨不安を起こすことさらなる追加緩和策を決めることができる環境を醸成する必要があるといえる。そのためには、今すぐ株価を急落させせるよりはもう一段、株価を高騰させて急反落させた方が、国債購入量を劇的に増やすには好都合である。

今回のFOMCでのタカ派姿勢はG7サミットが影響も

 今回のFOMCでのドットチャートでは23年中に利上げを見込んでいる委員が13人もいたが、総得票数が18人(1人欠員)であることを考えれば、FRB執行部でブレイナード理事の意向に反してタカ派的な見通しを示した委員がいたことを示すものだ。おそらく、その背景にはFOMCが行われた直前の11~13日に、英コーンウォールで主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)が開催されたことと関係している可能性がある。そこでは台湾や香港、新疆ウイグル自治区での弾圧や強引な現状変更による中国への対処が最大の課題になったが、株価を急落させて信用収縮を引き起こせば中国に揺さぶりをかけるには好都合であるからだ。その意味では、FOMCの会合が開催されていた際に、スイス・ジュネーブで米ロ首脳会談が行われていたことも関係しているかもしれない。

 今回のFOMCでのドットチャートが公表されたことで株価が急落してドル高が進んだが、この動きがこのまま続くのか、それともすぐに市場の動揺が沈静化して株価が上昇していくのかが注目されるところだ。このまま株価が急落して信用不安が強まるようなら、イエレン財務長官と二人三脚で財政・金融政策を運営しているブレイナード理事が主導権を握っているFRB執行部としては、すぐにでも国債の買い増しを決めることができる。その反対に動揺がすぐに収まって株価がさらに上昇していけば、東京オリンピックが終わる今秋にそれを急反落させることで、バブルが膨れ上がる分だけより大きな信用収縮を引き起こすことができる。FRB執行部としてはどちらに転んでも良いのであり、政策の大きなフリーハンドを握っている状態にあるといえるだろう。

(2021年06月17日、記)

ポイント

  • 米金融市場ではインフレ圧力から長期金利が上昇して株安に見舞われても、FRBは23年末までは利上げをせず、テーパリングにも動かない姿勢を再三表明することで対処へ。
  • インフレ圧力には家計貯蓄の盛り上がりによる消費活発化といった一時的な要因が大きいが、中国沿海部を中心とするサプライチェーン崩壊による構造的な要因も見受けられる。
  • インフレ率は2%目標値と同程度かそれをやや上回る水準が常態化しそうだが、FRBは出口政策に向かわずに、増発される国債を吸収するためにさらなる買い増しを模索へ。

インフレ圧力の中でFRBは量的緩和策の拡充を模索へ
― インフレ圧力には構造的な要因もある -

FRBは利上げだけでなくテーパリングにも動かない姿勢を堅持

 米金融市場では新型コロナウイルスのワクチン接種が進んで経済活動が再開されていき、景気の急回復期待が高まるとともに株価が高騰してきたなかで、先週から米インフレ懸念により長期金利が上昇することで波乱含みの展開になっている。市場ではFRBが超金融緩和策の修正に動く時期が前倒しになるといった見方がくすぶり続けている。しかし、FRBは23年末までは利上げをしないだけでなく、量的緩和策の縮小(テーパリング)にもしばらく動かない姿勢を崩していない。その一方で、外為市場ではリスク選好局面でそれほど円安が進まなかったこともあり、米長期金利の上昇からリスク回避局面が強まってもそれほど円高圧力が強まることもなく、ドル・円相場は安定した動きを続けている。

 米国では新型コロナ禍への対応として政府が立て続けに強力な財政出動政策に動き、FRBも超強力な金融緩和策を推進してきたことで、経済活動の動向に先んじて株価が高騰してきた。以前にはFRBがゼロ金利の長期化を約束するだけでなく、国債をはじめとする資産も強力に買い入れてきたことで、短期金利だけでなく長期金利も超低水準で推移してきたなかで、将来的に高成長が期待できるハイテク株の高騰が牽引する形で株価が上昇してきた。今年に入り、ワクチンの接種が進んで経済活動の再開から景気の急回復期待が高まると、その主役がハイテク株から景気敏感株にシフトして株高傾向が継続された。ただ、それとともにインフレ期待も高まることでそれまで低位で安定していた長期金利が上昇すると、割高に買い上げられていたハイテク株主導で株価が急反落する局面が見られるようになっている。その都度、パウエル議長はじめFRB執行部の幹部を中心に、多くの地区連銀総裁を含むFOMC委員が23年末まではゼロ金利政策を続け、テーパリングにもしばらく動かないことを表明することで動揺が沈静化し、株高傾向に回帰する動きが繰り返されている。

 米長期金利は指標となる10年債利回りで年初の1%を割る水準から上昇傾向を強めていき、3月31日には1.7%台後半まで達した。4月に入ると低下していったが、その背景には日本勢の機関投資家が年度末を控えて益出しを目的に米国債を売却していたのが、新年度入りとともに買い直してきたことがその一因だったことが指摘されている。その後、長期金利は4月22日に1.53%台に低下したが、それから再び上昇していき、先週12日には1.7%近い水準に達した。ただし、それでも3月31日までの水準に達しているわけではないにもかかわらず、先週以降、アルケゴス・キャピタル・マネジメントの破綻問題が高まった当時をも上回る株価の急落に見舞われているのは、株価がより割高に買い上げられたため、それだけ調整の度合いも大きなものになっているのだろう。ただそれだけでなく、現在の方がより世界的に半導体が不足気味な状態にあることが懸念されていることや、中国で国有企業の社債のデフォルトが頻発するリスクが以前にも増して意識されるようになったことも指摘できる。

 おそらく、今回もFOMC関係者が最低でも23年末まではゼロ金利政策を続け、また国債を800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を400億ドル分の資産を毎月買い入れる政策を続けて、その縮小には動かないことを再三にわたり表明することで市場を落ち着かせようとするのだろう。その根拠として、FOMC関係者はこれからインフレ率が上昇していくものの一時的なものに過ぎず、いずれ2%の目標値に落ち着くシナリオを提示している。そうであるなら、現在では新型コロナ禍に襲われる以前と比べて依然として800万人を超える雇用が失われた状態にあるなかで、いわゆる「K字型」の回復を解消して多くの人たちがその恩恵を受けられるようにするためにも、現行の超大規模な緩和策はこのまま続けるべきだとするのがFRBの根本的な政策姿勢になっている。とはいえ、4月の米消費者物価指数の前年同月比の伸び率が4.2%に、コア指数でも同3.0%に達している状況では、FRBはより早期に出口政策に動かざるを得なくなるとの見方がどうしてもくすぶってしまう状況にある。

物価上昇は一時的な要因が大きいが構造的なものも

 実際のところ、足元で高まっているインフレ圧力は一時的な要因と構造的なものとどちらの方が強いのかというと、結論からいえば、筆者は前者が7割、後者が3割程度だと考えている――すなわち、一時的な要因が強いとはいえ、構造的な要因もそれなりに見受けられるということだ。これから高まるであろうインフレ圧力は一時的な要因が多いのは確かである。これまでの新型コロナ禍対応として立て続けに財政出動政策が打ち出され、失業手当ての拡充や現金給付から家計の貯蓄が1兆5,000億ドル程度も積み上がっており、これから経済活動が正常化されればそれが取り崩されて消費活動がかなり盛り上がることが予想され、さらにそこに株高による資産効果も加わって個人消費が飛躍的に伸びるだろう。しかも、これまで需要が停滞していたことで供給能力を停止もしくは減退させ、物流機構も停滞もしくは鈍化させていたなかで、需要が一気に盛り上がるのに応じてそれら能力や機構を活性化させるのは困難であり、ある程度はボトルネック現象が生じるのはやむを得ないものだ。さらにバイデン現政権も立て続けに大規模な財政出動政策に動いているので、そうした需要が出尽くし、供給能力も整備されるまでは一時的にインフレ圧力が高まっておかしくないといえる。とはいえ、トランプ前政権が中国に対して貿易戦争を仕掛けて大規模な制裁関税を発動し、さらに中国・武漢で新型コロナの感染問題から渡航禁止措置を打ち出したことで、同国の沿海部での生産拠点が破壊され、そのかなりの部分が米国内に回帰している。それによりサプライチェーンが破壊されたことで、業種によっては構造的に相応の物価上昇圧力が強まっておかしくないわけだ。

 実際、それは景況感指数にも表れている。ミシガン大学が調査している景況感指数では消費者信頼感とともに期待インフレ率も公表されているが、そこでは1年間とともに5~10年間の項目もある。そこでは最近では確かに1年間の指数がかなり勢いよく上昇しているが、5~10年間についてもそれなりに上昇圧力が強まっており、直近の4月分(速報値)では3.1%にまで上がってきている。しかも、直近の4月分の雇用統計でも見られたように、経済活動が再開してきたことでレジャー・飲食といった低賃金の業種や職種の求人が増えているものの、家計が多くの貯蓄を手にしたことで企業側が思うように雇うことができていない。それによる雇用のミスマッチ現象からそうした業種や職種で賃金上昇圧力が強まっており、そのかなりの部分が一時的なものであるとはいえ、いったん引き上げられると下方硬直性が強まってしまい、企業側が思うように引き下げることが難しくなる傾向がある。それにより一時的なインフレ圧力が剥落した後も以前の水準まで低下することはなく、2%目標値と同水準かそれをやや上回る程度で常態化していくと予想している。

FRB執行部は本音では国債の買い増しを望んでいる

 だとすれば、多くの人たちが予想しているように23年末までゼロ金利状態が続くことはなく、それ以前にFRBが利上げに動くのかというと筆者はそのようには見ていない。FRB執行部で主導権を握っているブレイナード理事は、バイデン政権がこれからも立て続けに大規模な財政出動政策を打ち出そうとしているなかで、前FRB議長であるイエレン財務長官とともに、本音では増発される国債を吸収するためにそのさらなる買い増しを望んでいるからだ。

 FRBではパウエル議長が4月28日のFOMC終了後の会見で、市場に「フロス(小さな泡)」の存在を認めて金融政策との関連性を指摘している。またFRBが今月6日に公表した金融安定性報告でも、リスク資産への投資の過熱から金融不均衡が蓄積しており、市場環境が変調を来す際には急落リスクに脆弱な構造になっていることを指摘している。ただし、当面は必要に応じて市場の監視や規制の強化を強めることで対処する方針を示しており、一部の地区連銀総裁がテーパリングの開始に向けた協議を開始することを提唱しているのを除くと、しばらくは現行の大規模な金融緩和策を維持していくことがコンセンサスになっている。

 そのため、時折り米長期金利が上昇するなどして株安に見舞われることはあっても修正安の域を出ないと思われ、基本的には株高傾向はまだしばらく続くことが予想される。それとともに、外為市場ではユーロや新興国通貨に対してドル安が進みやすい状況も継続されていきそうだ。ドル・円相場もそれほど大きな動きが見込み難いなかで、弱含み傾向が継続されていくだろう。それにより金融不均衡が一段と蓄積されていくなかで、秋期には米金融市場がクラッシュに見舞われやすい時期を迎えるだけに要注意である。

 バイデン政権が相次いで大型の財政出動政策を打ち出す姿勢を見せており、その財源として法人や富裕層向け増税路線を打ち出している。ただFRBにも応分の吸収をさせる必要が出てくると思われ、株価の急反落を機に国債購入の増額を決めることでそれに対処していくと思われる。その際にドル安圧力が強まることで、ドル・円相場は1ドル=101円台の節目に向けて一段安に向かうだろう。それにより株高傾向に復帰すればようやくリスク選好による円安圧力が強まり、ドル・円相場は反転上昇に向かうと予想される。

(2021年5月20日、記)

ポイント

  • 米国経済の力強い景気回復期待から早期引き締め観測が根強く米長期金利の上昇でドル高が進んだが、FOMC委員の相次ぐ発言からそれが薄れてドル高圧力が後退している。
  • 相次ぐ大型の経済対策の発動により増発される国債を吸収するためにFRBが国債の購入量の増額を決める必要があり、そのために米国内外で信用不安が誘発される公算も。

量的緩和策の拡充を決める環境醸成のために信用不安を誘発へ
― もう一度米長期金利が上昇するとそのトリガーに ―

 外国為替市場ではFRBの金融政策を巡る姿勢が焦点になっている。足元でドル安気味に推移しているのは、FRBの早期利上げ観測が後退し、米長期金利が低下していることによるものだ。

FRBの早期引き締め観測が後退しドル高圧力が薄れる

 年明け以降、新型コロナウイルスのワクチンの接種が始まったなかで、昨年末の段階でトランプ前政権末期に総額9,000億ドルの追加財政出動政策が決まり、バイデン新政権も1兆9,000億ドルの追加対策を打ち出す意向を示したことから、市場では米国経済が勢いよく回復するとの期待が高まった。これまで大規模な新型コロナ禍対応の対策が相次いで打ち出されたことで手厚い失業手当てや現金給付が支給されたにもかかわらず、外出が抑制されるなど経済活動が停止されていたことで、米国の家計の貯蓄率が異様な水準に上昇していた。今後、ワクチンの接種が進んで経済活動が正常化に向かうと、これまでの貯蓄を取り崩すだけでなく株高による資産効果も加わることで、米国経済がこれまでにないほどの高成長を記録することが見込まれている。それによる需要の盛り上がりだけでなく、正常化が進む過程で供給制約の要因も加わることで、一時的にせよインフレ圧力もかなり強まることが想定されている。それにより、年明け頃から市場ではFRBによる超金融緩和策が意外に早期に出口に向かい、利上げの開始も早まるとの見方がくすぶっていた。

 さしあたり、米国経済は2月にはテキサス州を中心とする記録的な寒波に見舞われたことで、一時的にせよ景気回復が鈍化したことを示唆する指標の発表が目についた。しかし3月の指標では好調な状態に回帰するだけでなく、例えばISM製造業景況指数が83年以来の高水準に、非製造業景況指数にいたっては過去最高の水準に達するものが発表されるなど、1月よりさらに活発な状態になっていることを示唆するものが発表されるようになっている。その結果、米長期金利は10年債利回りで3月31日にかけて1.7%台後半に達するまで上昇したことで外為市場でもドル高圧力が強まり、同日にはドル・円相場は1ドル=111円手前まで上昇し、ユーロ・ドル相場も1ユーロ=1.170ドル台まで下落したものだ。

 しかし、米長期金利は4月に入ると低下していき、それとともに外為市場でもドル安に振れやすくなっており、ドル・円相場は足元では108円台後半まで下がっているが、それはFRBの早期利上げ観測が後退しつつあるからだ。FOMCでは委員の中心的な見方として、今年の実質GDP成長率を6.5%と予想しているにもかかわらず、現行のゼロ金利政策が23年末まで続くとの見通しを示している。そこではパウエルFRB議長だけでなく、地区連銀総裁の多くも利上げ開始の前に量的緩和策の縮小(テーパリング)が先行して行われるが、それについてもしばらく取りかかることはないとの姿勢を示している。FRBの二大責務のうち、物価面については以前から、一時的に目標値である2%の水準を上回ってもすぐに引き締め政策に向かうことなく、趨勢的に2%を上回る状態になるまでは超金融緩和策を続ける意向を示していた。さらに最近では雇用面についても、現在では回復してきたとはいえ依然として新型コロナ禍に襲われる以前に比べると850万人もの雇用が失われた状態にあり、それが回復して完全雇用に近い状態に回帰するまでは引き締め政策に転じることはないとの姿勢を明確に示している。ここにきて長期金利が低下してきたのは、それによりFRBの早期引き締め観測が後退したことによるものだ。

米政策当局により作為的に信用不安が引き起こされる

 とはいえ、これから米国経済が急速に回復して高成長を記録するようになるにつれて実際に物価指標が上がっていくと、市場がそれに反応して長期金利が再び上昇しておかしくない。実際、3月の米消費者物価指数(CPI)はコア指数ではまだそれほど上昇していないものの、総合指数では前年同月比2.6%に急上昇している。今後、経済活動が一段と本格化していくとともに物価指標がさらに上昇していくものが相次いで発表されると、債券市場ではそれに反応して再び売り圧力が強まり、長期金利が上昇していくことが予想される。とはいえ、FRBがそれでも利上げやテーパリングに動かないことが再確認されていけば、ドル高圧力が強まっても長続きしないだろう。ドル・円相場でもユーロ・ドル相場でも、3月31日の高値及び安値付近で止まればダブル天井やダブル底が形成されることで、基調の転換を確認しやすくなる。

 気になるのは、もう一度長期金利が上がると信用収縮が強まることで、対外的には資金還流が進んで新興国通貨不安が起こりやすくなったり、米国内でもヘッジファンドの経営不安が再燃しやすくなりかねないことだ。前者については、特に中国では外交・安全保障関連では米国はじめ民主主義陣営との対立が強まっているなかで、国内では不良債権がさらに積み上がってきている。13年4~5月にバーナンキFRB議長(当時)がテーパリングを開始することを「宣言」して以来、理財商品の償還問題が高まったのをはじめたびたび中国不安が高まったのが想起される。現在では以前にも増して銀行の不良債権が累増しており、その融資先には以前には民間企業が多かったのが最近では国有企業が増えていることで、ここにきて四大銀行でそれが目立って増えているだけに要注意だ。

 米国内で注意すべきなのが、3月下旬に投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントが破綻したことで一時的に市場が動揺したが、その予備軍がいくつか見受けられることだ。前回の当欄で指摘したように、バイデン政権ではFRB執行部で主導権を握っているブレイナード理事とイエレン財務長官が二人三脚で財政・金融両面で大規模で拡張的な政策を推進している。バイデン政権は発足後、新型コロナ禍への対応として3月11日に総額1兆9,000億ドル規模の「米国救済計画」を成立させたのをはじめ、31日に2兆ドル規模の公共インフラ事業をはじめとする「米国雇用計画」の詳細を発表し、さらにそれを成立させた後にすぐに弱者向けに1兆ドル規模の医療、社会福祉関連の対策を打ち出す姿勢を見せている。それにより増発される国債をいかに吸収させるかが大きな問題であるが、「敵国」である中国に多くの引き受けを依存するわけにいかず、また以前のようには日本勢もそれほど多く引き受けなくなっているなかで、そのかなりの部分のひきうけをFRBが担わざるを得ない。そのためには債券相場を急落させて長期金利をさらに大きく上昇させたり信用不安を引き起こすことで、FRBが現行では最低でも毎月800億ドル買い入れている国債の購入量を増額させる必要がある。いわば、これから起こるであろう新興国通貨不安や米投資会社の経営不安は、財務省やFRB執行部との間の連携により作為的に引き起こされるということだ。

FRBが追加量的緩和策に動くとさらなる本格的な株高・円安へ

 信用不安が強まればリスク回避局面では基軸通貨の米ドル以上に安全通貨とされる日本円が最も買われやすくなる。またFRBによる量的緩和策の拡大観測が高まれば、いうまでもなくドル安圧力が強まることになり、ドル・円相場は下がりやすくなるはずだ。ドル・円相場の5年サイクルが本年中に底入れするとすれば、年明け1月6日の102円60銭付近の安値が底値だと見るわけにいかず、昨年2~3月に新型コロナ禍で急落した際の3月9日の101円20銭割れの水準を下回らないと整合性が取れない。できれば、今回の5年サイクルの起点となった16年6月24日の99円の安値付近まで下がると理想的である。いうまでもなく、FRBが一段と量的緩和策を強化すれば株価はじめ資産価格はこれまで以上に高騰しやすくなるはずだ。ドル・円相場も底入れした後は新5年サイクルの上昇局面下において、リスク選好による円安圧力から本格的に上昇しやすくなっていくのだろう。

(2021年04月14日、記)

ポイント

  • 米国経済は家計がかなり貯蓄を積み上げているために一気に急回復してインフレが高まることが見込まれるが、バイデン政権は今後も財政出動政策を推進しようとしている。
  • バイデン政権は軍産複合体系のCFR系と軍事産業系、ナチズム系の居残り組の三つの勢力で構成されており、後二者が同床異夢で提携して財政出動推進で主導権を握っている。
  • 財政出動政策を続けるにあたり増発される国債を吸収するためにFRBがその購入量の増額を決めるのは不可欠であり、長期金利上昇から株価が急反落するとその機会が訪れる。

急回復していく米国経済に財政・金融両面でさらに押し上げへ
急回復が期待されている米国経済にさらなる財政出動政策

 今週16~17日に開催された米FOMCでは政策金利が据え置かれ、量的緩和策もそのまま継続となり、毎月にわたり住宅ローン担保証券(MBS)を400億ドル、国債を800億ドル買い入れることを続けることになった。ただ、参加委員による将来的な金利見通しの分布状況を示すドットチャートでは、23年末まで現行のゼロ金利政策を続けるとの見通しが大勢を占めていることが明らかになった。それにより、現行の超金融緩和策がまだしばらく続くことが確認されたことになり、市場では早期引き締め観測が後退したことでダウやS&Pが史上最高値を更新するなど景気敏感株主導で株高が進み、また米長期金利も上振れしやすくなっている。

 このFOMCの開催を控えて、市場では政策金利が資産買い入れについては現行の政策がそのまま据え置かれるとの見通しが圧倒的に多かったものの、最近の米国経済の状況を受けて、これまでに比べると資産買い入れの縮小(テーパリング)や、さらには量的緩和策が終了した後の利上げの開始が早まるのではないかとの見方が一部でくすぶっていた。実際、声明文では米国経済に対する評価が強気な語調に変わっており、FOMC関係者による成長率見通しでも、21年10-12月期には前年同期比6.5%に、インフレ率も同2.4%に高まり、年末には失業率も4%台に低下するとされている。

 米国ではこれまで、新型コロナウイルスの感染症対策としてトランプ前政権が4回にわたり、ワクチン開発やウイルス検査体制の拡充、家計への現金給付や失業給付、中小企業や州政府への支援等を目的に計3兆9,000億ドル近い規模の対策が打ち出されてきた。またバイデン現政権も発足後、すぐに1兆9,000億ドルの追加対策を成立させたことで、例えば中小企業向け支援で通常の給与が支給されているだけでなく、“事実上の失業者”への支援としてさらに現金が支給されている。それ以外に家計に直接支払われる現金給付についても、トランプ前政権下で1,200ドルと600ドルが支給されてきたが、今回の対策でさらに1,400ドルが支給されることになる。ところが、これまでは新型コロナ禍により小売店であまり買い物ができず、飲食店や観光・娯楽施設も利用できなかったり制限されていたことで、米国の家計貯蓄率は日本はおろか、中国のそれをも上回る“珍現象”が生じていた。

 ところが、米国では世界最大の新型コロナの感染者数を出していたものの、ここにきてワクチンの接種が進んでいることもあって、1月の新規感染者数がピーク時の20%程度にまで激減している。バイデン大統領は今月11日の演説で5月1日までに全国民の希望者の成人にワクチンの接種を完了させ、7月4日の独立記念日までに正常化への道筋をつけると表明している。経済活動が正常化されれば、なにしろ、もより消費性向の高い米国民がこれまで消費活動を控えていたなかで、その反動で個人消費がかなりの勢いで盛り上がることが予想されている。しかも、大幅に積み上がった貯蓄を取り崩すだけでも消費が相当な勢いで活発化することが期待できるが、そこに株高による資産効果も加わるだけになおさらである。

 それにより米国経済がかなりの勢いで急回復していき、インフレ率も2%を超えることが見込まれている。しかし、FOMC関係者はこれまで、インフレ率が一時的に2%を超えてもすぐに超金融緩和策の出口に動かない姿勢を示してきた。また今回のFOMCが終わった後のパウエルFRB議長の会見では、雇用者数は新型コロナ禍に襲われる以前に比べてまだ950万人も少ないことを強調することで、しばらく現行の超緩和策を続ける姿勢を崩していない。とはいえ、おそらくまだ失業したままでいる人の多くは容易に就職できない「長期失業者」で占められていると思われるため、現行の超緩和策を続けても失業者はそれほど減らないと思われる――つまり、FRBは現行の超緩和策を“半永久的”に続けざるを得なくなる公算が高いことになる。

 にもかかわらず、バイデン政権はさらに2兆ドル規模の公共インフラ事業を打ち出すだけでなく、“弱者”向けに社会保障支出も大幅に増やすなど、10年間で財政支出を10兆ドルも増大させる姿勢を崩していない。バイデン政権は民主党左派が信奉しており、インフレが顕在化するまでは財政赤字や中央銀行の総資産の規模の膨張など気にせずに、財政・金融両面での大幅に拡張的な政策の推進を推奨している現代貨幣理論(MMT)を指導理念としてこうした政策を推進している。しかし、サマーズ元財務長官が指摘するまでもなく、経済活動が過熱状態に陥ることが予想されているなかでさらに財政支出を大幅に増やすのは、まさにナンセンス極まりないといえよう。

バイデン政権を構成している三つの勢力とその利害関係

 その“謎”を解明するには、バイデン政権を構成している権力者層の構造を分析する必要がある。バイデン政権は90年代から00年代にかけて、米国の世界覇権の絶頂期に主導権を握った軍産複合体系と、トランプ前政権で主導権を握っていたナチズム系の勢力が分裂し、民主党左派を後押ししている勢力とで構成されている。軍産複合体系はさらにバイデン大統領の出身母体である外交問題評議会(CFR)系と、クリントン元国務長官を中心とする軍事産業系に分かれる。両者ともに中国はじめ新興大国を撃滅して米国の覇権の維持を目指す目的は変わらないものの、CFR系が米ドルの基軸通貨としての信用を維持することでそれを目指しているのに対し、軍事産業系は世界最強を誇る米軍を維持しさらに強化することでそれを達成しようとしている。そこでCFR系はドルの信用を維持するために財政赤字の増大を嫌って国防費の伸びも抑えようとしているのに対し、軍事産業系は米軍を維持し強化するために国防費の伸長につがなる財政赤字の増大を容認する傾向が強い。

 一方でナチズム系については、トランプ前政権が通貨政策では貿易赤字の減少につながるドル安を志向し、また各国に防衛費の増額を求める一方で世界各地に駐留している米軍の撤退や削減に向けて動いたように、意図的に米国の覇権を後退させて将来的に中国にそれを明け渡していこうとしている。中央政界に居残ってバイデン政権を支持しているナチズム系の勢力が民主党左派を後押ししているのは、“弱者救済”の目的で社会保障支出を増大させることで財政赤字を拡大させ、将来的にドルの基軸通貨としての信用を失墜させようとしているからに他ならない。こうしたナチズム系の思惑は、国防費を増額させることで財政赤字の増大を容認する軍事産業系の勢力と、最終的な目的意識が異なりながらも当面の利害関係が一致していることで、“同床異夢”の関係で提携している。バイデン政権がMMT理論に基づいて財政赤字の問題を顧みずに積極的に財政出動政策を推進し、FRBもそれに応じてゼロ金利や国債をはじめとする資産買い入れによる超金融緩和策を続けているあたり、この勢力が主導権を握っているのは明らかである。

 これに対し、CFR系としてはなんとも旗色が悪いが、この勢力はドルに対する絶対的な自信をその信念としているフシがある。米国主導の資産バブルが崩壊して世界経済が信用収縮の逆風にさらされても、米国の金融機関に迅速にドル資金を供給すれば金融危機には陥らないか、陥っても比較的軽微な被害で済むといった絶対的な自信があるようだ。むしろ、バブルをさらに大きく膨らませてそれを崩壊させれば、少なくとも米国以上に新興国が深刻な状況に陥ることになり、とりわけ簿外で数十兆ドルもの天文学的な不良債務を抱えている中国に打撃を与えるにはその方が望ましいと考えているフシがある。

FRBはじきに国債購入量の増額を決める必要が出てくる

 ただし、バイデン政権がこうした財政・金融両面での大規模で拡張的な政策を推進するにあたり、増発される国債をいかに吸収させてクラウディングアウト現象を回避していくかが大きな課題になる。米国債の引き受け先として、海外勢については軍事的に封じ込め政策を推進している“敵国”の中国は言うに及ばず、日本も以前のようにはそれを買わなくなっているため、FRBがそのかなりの部分を吸収していかざるを得ない。それには、現行では毎月800億ドルの国債を買い入れているなかで、いずれかの時点でその増額を決める必要が出てくる。

 そうしたなかで、年初には1%を切る水準だった米長期金利(10年債利回り)が、足元では1.6%台まで上昇している。2月上旬頃まではハイテク株主導で株価が上昇してきたなかで、景気回復見通しやそれに伴うインフレ観測から長期金利が上昇する場面では、それにより恩恵を受ける大型株を中心とする景気敏感株がそれほど下がらなくなっている一方で、買われ過ぎ感が強いハイテク株が調整安に見舞われやすくなっている。

 ただ留意すべきなのは、FRBは国債を毎月にわたり最低でも800億ドル買い入れることになっているので、長期金利に上昇圧力(長期債相場に下げ圧力)が強まっても、本当は長期債を買い支えることでそれを回避することができることだ。通常、中央銀行による国債の購入は償還期限が短い短期債が中心になるものだが、政策金利との関係でいえば、民間銀行がFRBに預ける当座預金の金利(付利金利)を0%に設定しておけばフェデラルファンド金利をその水準に誘導し続けることができるので、購入対象のかなりの部分を長期債に振り向けることが可能なのである。すなわち、最近の長期金利の上昇は多分にFRBがそれを放置していることによるところが大きいわけだ。

 どうしてFRBがそうした姿勢を見せているのかというと、意図的に株価を急落させて一時的に信用不安のような状態に陥らせることで、国債の買い増しを決めようとしているからだ。前回1月26~27日に開催されたFOMCで公表された声明文では、国債を800億ドル、MBSを400億ドルずつ毎月増やすにあたり、「少なくとも at least 」という単語が挿入されている。実際、その後長期金利に上昇圧力が強まったのを受けて、2月中にFRBは国債を900億ドル以上も買っている。さらに声明文の最後の段階には「委員会の目標の達成を妨げる可能性があるリスクが生じた場合、委員会は金融政策の姿勢を適切に調整する準備がある」との文言が挿入され、将来的に国債の買い増しを決めることができる内容になったものだ。

 この声明文での文言の修正を主導したのが、前FRB議長であるイエレン財務長官と二人三脚でバイデン政権による財政・金融両面での大規模に拡張的な政策の推進を担当しており、FRB執行部で主導権を握っているブレイナードFRB理事だ。この声明文の修正を受けて、ブレイナード理事は今回のFOMCの開催を前に長期金利の上昇からハイテク株主導で株価が一時的に急落したのを好機と見て、「債券利回りの上昇が目についた、持続的な金融状況のひっ迫化を懸念している、市場の動向を綿密に監視していく」と述べたものだ。これはその前週23,24日の議会証言で、パウエルFRB議長が「長期金利の上昇は米国経済の強さの反映」と述べたのとはまったく対照的なニュアンスである。ただその後、株価が従来の高騰傾向を取り戻していったことで、こうしたブレイナード理事の姿勢はFOMC内部で大きな支持を得られなかった。その背景には、主導権を握っているブレイナード理事に対するパウエル議長や各地区連銀総裁との葛藤があるようだが、それについてはここでは詳述しない。

 さしあたり今回のFOMCでの結果を受けて、市場でくすぶっていた早期引き締め観測が払拭されたことで株価の高騰に勢いがついており、当面は景気急回復期待を背景にこの傾向が続きそうだ。ただし、それによりインフレ期待も高まることで長期金利が一段と上昇していくことは避けられそうになく、株価が短期的に天井を打つと一時的に急反落しかねない。それにより、ブレイナード理事が主導権を握っているFRBは国債の購入量の増額を決める機会が到来することになり、次回4月27~28日か、遅くともその次の6月15~16日に開催されるFOMCでそれが決められるようになるのではないか。それを経て、株価は再び高騰しやすくなっていくと予想される。

 外為市場では当面は株高が続いている間はリスク選好による円安や米長期金利の上昇によるドル高圧力が根強い状態が続きそうだが、それにより株価が急落してリスク回避が強まると一転して円高圧力が強まり、またFRBが国債の買い増しに動くとの見方が出ればドル安圧力も高まりやすくなるだろう。ドル・円相場はこれまで、年初1月か4~5月にピークを迎えることが多いので、やはり次回のFOMCの開催頃がその節目になるのではないか。それにより昨年2~3月に新型コロナ禍から急速にリスク回避が強まって3月9日に1ドル=101円20銭割れまで一気に急落したが、その水準を下回って16年6月24日の99円まで下がれば理想的である。FRBが国債購入量の増額を決めるのを経て、今年後半以降には1年半から2年ほどは株高とともに緩やかな円安基調が続くと予想される。

(2021年3月19日、記)

ポイント

  • 米インフレ圧力により米長期金利が上昇して市場が動揺すれば、FRBによる量的緩和策の拡充に動くことで最後のドル安を経て、リスク選好から株高傾向とともに円安傾向に。
  • 次の5年サイクルは弱気型のために上昇局面が長続きせずに99円と見られる起点を下回るだろう。16.5年サイクルも弱気型になるため、75円54銭の史上最安値も下回りそうだ。

FRB量的緩和の拡充観測が高まれば最後の円高・ドル安に
― 次の円安局面は長続きせずその後大幅な円高に -

 外為市場では膠着商状に陥っている。ドル・円相場は1月6日に米ジョージア州での上院議員決選投票を控えて警戒感が強まり、リスク回避による円高圧力から1ドル=102円60銭付近まで下落した。しかし、決戦投票では2議席ともに民主党の候補者が勝利して議席を獲得し、政府と上下両院をすべて同党が制する「トリプルブルー」の状態になったことで、バイデン政権が掲げる大規模な財政出動政策が軌道に乗るとの見方が強まった。実際、その直後にバイデン大統領が総額1兆9,000億ドルの新型コロナウイルス対応としての追加経済対策を提唱し、さらにそれ以降も公共インフラ事業をはじめとする大型の財政出動政策を打ち出す姿勢を見せている。それにより市況は反発していったが、104円台半ばから105円台前半での推移が長く続くなど、後述する株高傾向に比べると上値の重い展開になっている。

 その一方で、リスク資産市場ではリスク選好が強まっており、株価は主要指標で米国株が史上最高値を、日本株も日経平均が3万円台に乗せるなどバブル崩壊後の最高値を更新する展開になっている。バイデン政権が次々に大規模な財政出動政策を打ち出す姿勢を示していることや、ワクチンの接種が進んで新型コロナ禍の脅威も遠のいていくとの期待に加え、FRBもしばらくは現行の超金融緩和策を維持して量的緩和策の縮小(テーパリング)に動かない姿勢を示しているからだ。ただし、FRBが現行の超緩和策をしばらく続ける姿勢を示していることについては、株価には支援要因になっている一方で、外為市場ではドル安圧力をもたらしていることがドル・円相場の上値の重さにつながっている。

米長期金利上昇による米量的緩和策の拡充観測からもう一段のドル安も

 前回の当欄でも指摘したように、FOMC委員の間ではテーパリングに動くことはないとの見通しでは一致しているものの、地区連銀総裁の中にタカ派的な見通しを示すことで国債の購入量の増額には慎重な委員が見受けられるのに対し、ブレイナード理事が主導権を握っているFRB執行部は状況によりさらなる買い増しをうかがう姿勢を示している。バイデン政権がこれから次々に大規模な財政出動政策を打ち出していくにあたり、増発される国債を吸収していく必要があるからだ。それを3月16~17日に開催される次回のFOMCで決めるには、それが実現できるような環境を醸成する必要がある。具体的には、一時的に株価を急落させて信用不安を強めるか、米長期金利をさらに上昇させていくか、あるいは長期金利があまりに上昇すると株価を急落させるリスクが高まるのでその両方か、いずれかの状態を現出させる必要があるわけだ。

 その意味では、大規模な財政出動政策が打ち出され、超緩和的な金融政策も続くことでインフレ圧力が強まる可能性が指摘されているなかで、FRBとしては長期金利を上昇させる方が実現しやすいといえる。FRBは現行で毎月400億ドルもの住宅ローン担保証券(MBS)とともに国債を同800億ドル買い入れているなかで、長期金利を上昇させようとするなら長期債を買い入れずに購入の対象を中短期債に集中することにより、長期金利の上昇圧力を放任すれば良いからだ。最近、長期金利が上昇しているとはいっても、その水準はFRBが物価の目標値として設定している2%の水準を大幅に下回っている状態にある。むしろ、それによりイールドカーブがスティープ化することで商業銀行には利ザヤ収入の増加が期待されるため、FRBにはそれほど危機意識はないようだ。

 実際、インフレ期待は着実に上昇しつつある。先週発表された米国の経済指標を見ると、実績値としては消費者物価指数(CPI)が総合、コアともに前年同月比1.4%の伸びにとどまっているものの、期待値ではミシガン大学消費者信頼感指数の1年期待インフレ率が、1月には前月の2.5%から3.0%に上昇し、さらに2月には3.3%に一段と水準を引き上げている。この指標が発表された先週末12日には長期金利の指標となる10年債利回りが1.2%台に乗せ、さらに16日には1.3%台に到達するなど、ここにきて株高に拍車がかかるとともに上昇圧力も一段と強まっている。

 日本では一向にデフレ期待が収束せずに長期金利が上昇していく兆しが見られないのに対して米長期金利が上昇していけば、外為市場では対円でドル高圧力が強まることになる。とはいえ、それによりFRB執行部の思惑通りに金融市場が動揺して国債の購入量の増額を決めることができる環境になれば、それを織り込んでドル安圧力が、またリスク回避が強まることで米長期金利の急低下や株価の急反落とともに円高圧力が強まるだろう。実際にFRBが量的緩和策の拡充を決め、それとともにバイデン政権も公共インフラ事業その他のさらなる財政支出拡大策が軌道に乗っていき、株価が調整局面を終えて本来の上昇波動に回帰していくにつれて、外為市場でもリスク選好による円安局面が本格化してドル・円相場も上昇しやすくなっていくと予想される。

次の5年サイクルも現行の16.5年サイクルも弱気型

 テクニカル的に見ると、ドル・円相場では今年は16年6月24日の1ドル=99円の安値から始まった5年サイクルの「底」を探る局面を迎えるが、昨年2~3月に新型コロナ禍でリスク回避が極端に強まって急落した際の3月9日の101円18銭の安値を下回るはずだとすれば、やはりその底値は99円付近の安値がメドになる。それによりこのサイクルが底入れして新たな局面に移行すれば、バイデン政権とFRBの「アコード」による大規模な財政・金融両面での拡張的な政策が推進されることでリスク選好が強い状態が続き、株高傾向が持続するとともに円安圧力が強まり、ドル・円相場も本格的に上昇していくと予想される。

 とはいえ、新5年サイクルの上昇局面に移行していくとしても、その期間はあまり長くないだろう。ドル・円相場は三つの5年サイクルでその上位サイクルである16.5年サイクルが形成されているが、次の5年サイクルは史上最安値である11年10月31日の75円54銭から始まった16.5年サイクルの三つ目に相当するため、弱気型のレフト・トランスレーションになるはずであるからだ。だとすれば、その上昇局面は短期間で終わることになり、おそらく2年も続かないと思われる。

 そしてそのサイクルが天井を打つと、28年前半頃と思われる16.5年サイクルの底に向けて長期にわたり下げていき、底値の水準も少なくともこれからつけることになる新5年サイクルの起点となる水準(前記の予測通りなら99円付近か?)を大きく下回っていくことになる。しかも、現行の16.5年サイクルも16年12月15日の118円65銭が天井になり、弱気型のレフト・トランスレーションを形成しているので、その底値は起点である75円54銭の安値をも下回っていくことが予想される。おそらく、トランプ前政権で膨れ上がった米国の財政収支と経常収支の「双子の赤字」が、バイデン現政権による民主党左派が信奉している現代貨幣理論(MMT)に立脚した政策が推進されることで一段と深刻な状態になり、その「化けの皮が剥がれていく」のだろう。

(2021年2月18日、記)

ポイント

  • 3月のFOMCに向けてFRBが国債購入量の増額を決めるために短期的にリスク回避で株安や円高局面も。ただ大勢的な株高傾向は変わらずその後はリスク選好で円安へ。
  • 日本では属国統治システムとしての官僚統治機構が復活したが、それにより財務官僚が主導権を握り大型の財政出動政策を打ち出すことができず米軍産系にはかえって障害に。

短期的な株高調整局面下での円高後に円安傾向に転換へ
― 日本では属国統治システム復活で財務官僚が主導権を回復 -

FRBが量的緩和策の拡充を決めるために一時的にリスク回避局面に

 国際金融市況はリスク選好が強い状態が続いており、米国株が史上最高値を、日本株もバブル崩壊後の戻り高値を更新する展開になっている。大統領選挙が行われた前日である昨年11月2日から高騰を開始し、特に年末以降には米長期金利の上昇を伴いながら株高が進んでいる。その背景には、一つにはワクチンが開発されて欧米で接種が始まったことで新型コロナウイルスの感染拡大が終息に向かい、経済活動も正常な軌道に回帰していくとの期待がある。またもう一つが、昨年末12月27日にトランプ政権が全国民への600ドルの給付を含む第4弾となる総額9,000億ドルもの新型ウイルス対策法を成立させただけでなく、年明けにはバイデン次期大統領(いずれも当時)も総額1兆9,000億ドルの追加経済対策案を提唱したことがある。この追加対策は失業保険給付の延長や全国民への1,400ドルの給付、新型コロナ対策を対象としたものだが、バイデン新大統領は大統領選挙の際に大規模な公共インフラ事業を打ち出すことを提唱していただけに、翌月以降、さらに追加対策を発動させることを提唱している。

 昨年末以降、株高とともに米長期金利が上昇しているのは、それにより景気が持ち直すとともにインフレ懸念が高まっているからだ。実際、大規模な追加対策を次々に打ち出していけば財政赤字や累積債務が一段と大きく膨れ上がるなかで、増発される国債の引き受け先が問題にならざるを得ない。日本でも大型の対策が打ち出されているとはいえ、米国のそれと比べると小規模なものに過ぎないことから日銀が国債の買い増しに動くことができず、安全保障上、対立を深めていることで中国にもこれ以上、購入拡大を見込むことができないなかで、将来的にドル不安に陥る危険性を顧みないでFRBがそれを引き受けていかざるを得ない。既にFRBは国債を800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を400億ドルと計1,200億ドルもの資産を毎月買い付けているなかで、国債の購入量をさらに増額させるのは既定路線とでもいうべきものだ。

 ところが、FOMC関係者の発言からは、地区連銀総裁の間で購入量の縮小(テーパリング)に動くには否定的でありながらも、さらなる買い増しには慎重な姿勢を示す向きが多い。なかには今年の米国経済の実質GDP成長率が5%台に達し、失業率も年末には5%を切るといったかなり強気な見方を披露している総裁まで散見される。パウエル議長がハト派的な姿勢を続けており、バイデン政権の発足が決まるとともに主導権を握っているブレイナード理事はさらに踏み込んで必要な購入ペースを引き上げることを明言しているなど、FRB執行部の見解や姿勢とはかなりの相違がある。そのため、執行部の意向通りにFRBが量的緩和策の拡充を決めるには、長期金利がさらに上昇して実体経済に悪影響を及ぼす状況になるか、株価が急落して信用不安が強まるリスクが意識されるような状況になる必要がある。

 米国株は新型コロナウイルス禍で大暴落してダウで昨年3月20日に1万9,094ドルで底入れした後、年明け1月14日の3万1,223ドルの現時点での史上最高値まで、それ以前に短期間で大暴落した反動による部分もあるとはいえ、わずか7カ月弱で1万2,000ドル以上も上昇してきた。それだけに、今後も財政・金融両面で強力に拡張的な政策が推進されていくことで大勢的な株高傾向は変わらないと思われるが、短期的には何らかのきっかけで調整局面を迎えると急落する恐れがある。それが今月下旬から2月中にかけて起これば、バイデン新政権が公共インフラ事業主体の追加経済対策を打ち出すのに応じて、FRBは月16~17日に開催されるFOMCで国債購入量の増額を決められるだろう。

 外国為替市場ではFRBの超緩和的な金融政策姿勢を映してドル安傾向が続いたが、ここにきて米長期金利の上昇傾向からその動きが停止している。ドル・円相場は年明け6日にかけて1ドル=102円台半ば超まで下落したが、その後103円台を中心とする推移に移行して下げ圧力が弱まっている。欧州では主要国で新型コロナの感染再拡大から経済封鎖(ロックダウン)が長期化していることや、イタリアやオランダで政情不安が指摘されたこともあり、最近では対ユーロではドル高気味に推移している。

 ただ、3月のFOMCの開催に向けて株価が調整局面を迎えて急落すれば、リスク回避局面から円高圧力が強まり、ドル・円相場は突っ込みやすくなるだろう。ドル・円相場は101円台に大きなフシがあることが見受けられるが、それを割り込めば16年6月24日の99円の安値に向けて下げていくことが予想される。とはいえ順当にいけば、それによりFRBが量的緩和策の拡充に動くことで本来の株高傾向に回帰すれば、ドル・円相場もリスク選好で円安圧力が強まることで上昇しやすくなるだろう。リスク選好局面で買われやすくなるユーロや新興国通貨はドル高以上に上昇していくことになりそうだ。

 ドル・円相場は5年サイクルが存在しており、前回の16年6月の安値を起点とするサイクルが間もなく底入れするので、今年半ば頃から本格的な円安・ドル高傾向が到来することが見込まれる。

官僚統治機構復活で財務官僚の主導権回復から米軍産系にはかえって障害に

 ところで、米国ではバイデン政権が成立することで、リベラル的でコスモポリタン志向であり、米国の世界覇権の維持を目指している軍産複合体系が復活している。それにより日本では「ジャパン・ハンドラーズ」と呼ばれる戦略国際問題研究所(CSIS)の影響力が復活しており、安倍前首相が「桜を見る会」の問題を蒸し返されて打撃を受けてしまい、菅首相も支持率を大幅に低下させているのもこのためである。

 安倍前首相が退くにあたり、親中国的な今井首相補佐官(当時)が左遷されるなど、経産官僚から官僚組織の中枢とでもいうべき財務官僚に主導権が移っている。しかも、前首相は直接的にトランプ大統領とつながることで官僚の影響力を排除して一強体制を確立したが、米国で軍産系が巻き返し、日本でも前首相が影響力を喪失したなかで、米国による対日属国支配体制に復帰するとともに官僚による統治体制が復活したなかで、その頂点に立っている財務官僚による首相官邸での影響力もそれだけ強くなっている。それ自体は財務官僚主導で本邦機関投資家が円滑に対米証券投資を促進させるうえで好都合なはずだが、足元では厄介な事態になっている。米国では新型コロナ禍への対応でかなり大規模な財政、金融両面で拡張的な政策を推進しようとしているなかで、将来的なドル不安の到来を避けるために日本側にそれ以上の拡張的な政策を推進させるにあたり、財務官僚による国債の増発を極力抑える政策志向が大きな障害になっているからだ。

 実際、安倍前首相は新型コロナ対応として、第2次補正予算に10兆円もの巨額な官邸予備費を計上したなかで、未消化分が7兆円ほども残っていたはずだが、前首相が退任して財務官僚が復権するとそれが一般会計に組み入れられてしまった。そのため、菅政権は緊急事態宣言を再発令したなかで、時短営業の要請に応じた飲食店向けを中心に事業者向けの支援だけにとどまってしまい、かつてのように全国民に一律で10万円を支給したような政策はもはやとれなくなっている。

 米軍産複合体系としては安倍前首相の影響力を封じて菅政権を弱体化させたことで、世界覇権を維持するうえで中核的な属国である日本を今後も統治していく体制に復帰させたのだが、それにより米国に比べて大規模な経済対策を打ち出すことができず、日銀も量的緩和策の拡充に動けないのはなんとも皮肉であるとしかいいようがないものだ。日本ではここにきて、感染力や重症化率の面でこれまでより強力な新型コロナ禍に見舞われているが、その背景には菅政権や二階幹事長にさらなる打撃を与えようとしている以上に、追加的な大型の経済対策を発動させようとしているような気がしてならない。

(2021年01月21日、記)